雇われ妻の求めるものは

中田カナ

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第5話 午後からお出かけ

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 愛してる?

「…なんで?」
 やっぱり理解できないんだけど。

「結婚してろくに会うこともなかった3年間、君はこの地のために尽くしてくれた。私がこの地に来てからは懇切丁寧に領地経営のノウハウを授けてくれた」
「だって私はそういう役目だから」
 雇われ妻の私はそのために来たんだもの。

「領主代理任せにすることなく、私の想像をはるかに超える頑張りを見せてくれた。そして私が来た時にはすでに多くの領民から慕われていた」
 それは父の教えがあったから。
 人を動かすならまず自分から。
 そして人と人のつながりが一番大事なのだと。
 積極的に話しかけてたら、なぜかみんなからおもしろがられたけど。

「私はどうも感情表現が苦手なのだが、君はいつでも表情豊かで、一緒にいて楽しいと思った」
 感情を表に出すのは貴族としてはあまりよくないんだろうけど、外面だけよくてもダメだってこともよくわかってる。
 この地に来て有力者達と意見がぶつかったことだってたびたびある。
 今ではみんなすっかり仲良しになったけど、かなりの論戦を繰り広げたこともあるのだ。

「そして何より軍を辞して失意のうちにこの地へやって来た時、君は時に励まし、時に叱咤して私を受けてくれた。これからはそんな君を私が幸せにしたい、そう思ったのだ」
 そこまで言われては、ねぇ?
「自分で言うのもなんですけど、私ってかなりの頑固者ですよ?本当にそれでもいいんですか?」
「もちろんだ。そこも含めて好きになったのだから」

「王都で旦那様をないがしろにした人達をぎゃふんと言わせるまではこの地で頑張りますからね?」
「私もともに頑張ろう。2人なら無敵だ、違うか?」
 ニヤッと笑う旦那様。
「はい!私も旦那様が大好きです!」


 想いが通じ合ってから、旦那様はやたらと私を抱きしめたりなでたりするようになった。
 でも、いまだに夜はともにしていない。
 やっぱり8歳も下だと子供っぽく見えるのかなぁ?

 そんなことを思い悩んでいたある日の朝。
「今日は確か外出の予定は入っていなかったな?」
 朝食の席で旦那様が尋ねてきた。
「はい、そうですけど」
 書類仕事をいくつか片付けようと思っていたくらいで、急ぎの案件もない。

「それでは午後から私に付き合ってくれないか?」
「はぁ、別にかまいませんが」
 最近では仕事に関係なく旦那様とお出かけすることがある。
 屋台で食べたり森を散策したり、いわゆるデート的なものである。

 軽めの昼食後にメイドが用意してくれた一番お気に入りのワンピースに着替え、旦那様にエスコートされて馬車に乗る。
「今日はどこへ行くのですか?」
「それは着いてからのお楽しみだな」
 どうやら教える気はないらしい。
 領都内なら歩くことが多いので、馬車に乗るということは少し遠出かな?

 馬車の窓のカーテンはぴったりと閉じられていて、どこを走っているのかわからない。
 旦那様と仕事に関する話をするけれど、それなりの時間を走っている割には道が荒れる様子がないのが気になる。
 領内の道の整備はまだ半ばで、郊外は整備が追いついていないところも多いのだ。
 だから目的地の見当がつかずにいる。

「旦那様、奥方様、到着いたしましたよ」
 御者から声がかかる。
「では君が先に降りるといい」
「あ、はい」
 あれ、めずらしいな。
 いつもなら旦那様が先に降りて手を取ってくださるのだけど。

 御者がステップを置いた音がして、外からゆっくりを扉が開かれる。
 馬車の中は少し暗かったからちょっとまぶしい。
 ステップに一歩踏み出したらたくさんの声が聞こえてきた。

「「「 奥方様、お誕生日おめでとうございます!! 」」」

 そうだった、今日は私の二十歳の誕生日じゃない。

 目が外の明るさに慣れてよく見ると、ここは男爵家のお屋敷から徒歩5分の聖堂前広場。
 どうやら馬車はわざと領都内をぐるぐるとまわっていたらしい。
 まさか旦那様にサプライズをやられるとは思わなかった。
 広場にはたくさんの人が集まり、あちこちに花が飾られている。
 今は春だけど、まるで秋の収穫祭のよう。

 いつのまにか反対側から馬車を降りていた旦那様がこちらにまわってきていて抱き上げられる。
 だけど、これって子供とかにする縦抱っこなんですけど?
 いくら私が小柄だからってあんまりじゃない?
「さぁ、集まってくれた領民に手を振ってやるといい」

「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
 あちこちから声がかかるので手を振って笑顔で応える。
 ゆっくりと進み、ステージに上がった。

 孤児院の子供達が花束を持ってステージにやってくる。
「おくがたさま、おたんじょうび、おめでとうございます!」
「このお花は奥方様からいただいた種から育てました」
「広場を飾るお花も奥方様が嫁いできた時に配られた種から増やしたものです」

 そう、嫁いでくる時に実家のある子爵領から種をたくさん持ってきた。
 ほとんどは植物油を採取するための品種だったけど、いろんな種類の花の種も持ってきて孤児院や商店街などあちこちに配ったのだ。
 そのおかげか領内はいつでもどこかで花が咲いている。
 子供達から花束を受け取ると拍手と歓声が上がる。
「みんな、ありがとう!これからもきれいなお花をたくさん育ててね」
「「「 はい!! 」」」

 会場に聞こえるように大きな声で話す旦那様。
「実は私からも贈り物があるのだが、少々支度が必要なのだ」
 旦那様の合図でぞろぞろとやってきたのは商工会の婦人部の方々や商店街の奥さん達。
「「「 さぁ、奥方様まいりましょう!! 」」」
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