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第3話 仕事は順調だけど
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しばらく2人で歩く。
「さて、これから行くところは最初に旦那様の力を発揮していただきたい場所です」
「私の力?」
たどりついたは自警団の詰め所。
まずは旦那様と団長を引き合わせ、現状を伝える。
「自警団は立ち上げましたが、まだまだ仮運用の状態です。なので今後どうあるべきかを自警団の方々とともに考えて実践していただきたいです」
軍にいたのだから私なんかよりも知識はあるはず。
「うむ、そういうことなら私でも力になれそうだ」
うなずく旦那様。
「それから各種訓練の指導もお願いしたいのですが、団員達は本職の軍人とは違います。その点だけは注意していただければと」
多くは本業を持ち、この地のためにと志願してくれた人達だ。
「わかった」
再びうなずく旦那様。
翌日からも農業組合や山林管理組合の代表者など有力者達と旦那様を引き合わせた。
一通りあいさつ回りが終わったところで領地の現状と今後の計画を説明した。
多岐にわたるのでその都度また説明しようと思っていたけれど、旦那様は一度聞いたことは忘れないようで優秀な生徒だった。
執務も少しずつ行ってもらい、時間を決めて自警団で訓練指導、というのが今の旦那様の生活。
自警団の団員達ともだいぶ打ち解けたと聞いている。
「頭を使う時間と身体を使う時間、それぞれがいい気分転換になるようだ。団員達も気のいい連中ばかりだしな」
この地に帰って来たばかりの頃と違って穏やかな表情をするようになった旦那様。
「そうですか、それはよかったです」
そう言いながら旦那様の頭をなでなで。
軍を辞めてこの地に来て私相手に大泣きした影響なのか、旦那様はなでなでをよく所望される。
夫婦としての接触はこのなでなでだけ。
夜をともにしたことは一度もない。
そもそも雇われ妻なんだから別に気にしてないけど、まわりが少々うるさいのが面倒かな。
■□■□■□■□■
旦那様が軍を辞めてこの地に腰をすえてからもうすぐ2年。
つまり結婚してから5年になろうとしている。
領地の開発は順調で、財政面でも計画以上の数値となって表れている。
「ふふふっ、順調順調!」
実家の子爵家から中古の農具や各種機械を安価に譲ってもらったおかげで作業効率も格段に向上した。
まぁ、それまでがあまりに古すぎたというのもあるけれど。
かつてこの地を治めていた失脚貴族、本当に許すまじ。
ちなみに譲ってくれた子爵領では最新型を導入しているのでもっと効率がよかったりする。
男爵領の自警団は有能な人達が加入して大変充実している。
というのも、かつての旦那様の部下だった人達が軍を辞めて続々とこの地に移り住んだのだ。
「我々はついていくと決めていましたからね」
いずれも平民や下位貴族出身で、旦那様と同じく上位貴族の子弟から嫌な思いをさせられたらしい。
治安維持だけでなく困りごとなどにも親切丁寧に対応してくれるので領民からの信頼も厚い。
たくましくて優しい自警団はいまや男爵領の男の子達にとって憧れの職でもあるんだとか。
「…あ、もう朝か」
昨夜はちょっと寝つきが悪かったけど、今日もいつもの時間に目が覚める。
身支度をして朝食のため食堂へ向かう。
「おはようございます、旦那様」
食堂に入ると旦那様がすでに席についていた。
「ああ、おはよう…ん?」
旦那様の細い目が少しだけ見開かれる。
「顔色がよくない。もしかして具合が悪いのか?」
あれ、よく気付いたなぁ。
「えっと、ちょっと頭が重い感じはしますけど、これくらい大丈夫ですよ」
席に座りながら答える。
今日は視察の予定が入っているけど、近場だから帰ってきたら少し休めばいいだろう。
旦那様が立ち上がって私の席のそばまでやってくる。
「すまないが触れるぞ」
額に旦那様の大きな手が当てられる。
あ、冷たくて気持ちいい。
「熱があるな。食欲は?」
「…ん~、あんまりないかも」
あれ、旦那様に対する話し言葉が雑になってるな。
ちょっと思考力が落ちているかもしれない。
「抱き上げるぞ」
答える前にふわっと抱き上げられる。
あ、これってお姫様抱っこというヤツだ。
お兄様が結婚式で花嫁さんをこんな風に抱き上げてたっけ。
花嫁さんは笑顔だけど、お兄様の必死な表情がおもしろかったんだよなぁ。
旦那様は家令やメイドに何やら指示を出し、私が連れて行かれたのは一度も使ったことのない夫婦の寝室。
「…なんで?」
掃除は毎日してもらっているのは知っているけど。
「この部屋の方が広いし暖かい。それに私が様子を見に来るのが楽だからな」
それぞれの私室の間にあるのが夫婦の寝室だから。
「…でも、風邪だったら移っちゃうかも」
「口を布で覆うし、手洗いやうがいを徹底するから心配は無用だ」
軍にいた頃に病気や怪我の対処法などさまざまな知識を得ていたのだとか。
旦那様に指示され家令が手配してくれた医師の見立てでは風邪。
「おそらく数日前から調子がよくなかったのではないのか?」
「…そうかも」
丈夫だけがとりえだったので、具合が悪いというのがよくわかっていなかったかもしれない。
「でも、お仕事が…」
こうして横になっていても気になってしまう。
「今日の視察なら先方に事情を説明して延期させてもらった」
旦那様、仕事が速すぎる。
「明日以降の予定も変更させてもらった。熱が下がっても少なくとも3日間は安静にするように」
「…大丈夫ですか?」
視察以外にも仕事はたくさんある。
「書類仕事は君に鍛えられたんだぞ。少しは弟子を信じろ」
「…うん」
師匠になった覚えはないけれど、今は頭が働かないから任せるしかない。
「さて、これから行くところは最初に旦那様の力を発揮していただきたい場所です」
「私の力?」
たどりついたは自警団の詰め所。
まずは旦那様と団長を引き合わせ、現状を伝える。
「自警団は立ち上げましたが、まだまだ仮運用の状態です。なので今後どうあるべきかを自警団の方々とともに考えて実践していただきたいです」
軍にいたのだから私なんかよりも知識はあるはず。
「うむ、そういうことなら私でも力になれそうだ」
うなずく旦那様。
「それから各種訓練の指導もお願いしたいのですが、団員達は本職の軍人とは違います。その点だけは注意していただければと」
多くは本業を持ち、この地のためにと志願してくれた人達だ。
「わかった」
再びうなずく旦那様。
翌日からも農業組合や山林管理組合の代表者など有力者達と旦那様を引き合わせた。
一通りあいさつ回りが終わったところで領地の現状と今後の計画を説明した。
多岐にわたるのでその都度また説明しようと思っていたけれど、旦那様は一度聞いたことは忘れないようで優秀な生徒だった。
執務も少しずつ行ってもらい、時間を決めて自警団で訓練指導、というのが今の旦那様の生活。
自警団の団員達ともだいぶ打ち解けたと聞いている。
「頭を使う時間と身体を使う時間、それぞれがいい気分転換になるようだ。団員達も気のいい連中ばかりだしな」
この地に帰って来たばかりの頃と違って穏やかな表情をするようになった旦那様。
「そうですか、それはよかったです」
そう言いながら旦那様の頭をなでなで。
軍を辞めてこの地に来て私相手に大泣きした影響なのか、旦那様はなでなでをよく所望される。
夫婦としての接触はこのなでなでだけ。
夜をともにしたことは一度もない。
そもそも雇われ妻なんだから別に気にしてないけど、まわりが少々うるさいのが面倒かな。
■□■□■□■□■
旦那様が軍を辞めてこの地に腰をすえてからもうすぐ2年。
つまり結婚してから5年になろうとしている。
領地の開発は順調で、財政面でも計画以上の数値となって表れている。
「ふふふっ、順調順調!」
実家の子爵家から中古の農具や各種機械を安価に譲ってもらったおかげで作業効率も格段に向上した。
まぁ、それまでがあまりに古すぎたというのもあるけれど。
かつてこの地を治めていた失脚貴族、本当に許すまじ。
ちなみに譲ってくれた子爵領では最新型を導入しているのでもっと効率がよかったりする。
男爵領の自警団は有能な人達が加入して大変充実している。
というのも、かつての旦那様の部下だった人達が軍を辞めて続々とこの地に移り住んだのだ。
「我々はついていくと決めていましたからね」
いずれも平民や下位貴族出身で、旦那様と同じく上位貴族の子弟から嫌な思いをさせられたらしい。
治安維持だけでなく困りごとなどにも親切丁寧に対応してくれるので領民からの信頼も厚い。
たくましくて優しい自警団はいまや男爵領の男の子達にとって憧れの職でもあるんだとか。
「…あ、もう朝か」
昨夜はちょっと寝つきが悪かったけど、今日もいつもの時間に目が覚める。
身支度をして朝食のため食堂へ向かう。
「おはようございます、旦那様」
食堂に入ると旦那様がすでに席についていた。
「ああ、おはよう…ん?」
旦那様の細い目が少しだけ見開かれる。
「顔色がよくない。もしかして具合が悪いのか?」
あれ、よく気付いたなぁ。
「えっと、ちょっと頭が重い感じはしますけど、これくらい大丈夫ですよ」
席に座りながら答える。
今日は視察の予定が入っているけど、近場だから帰ってきたら少し休めばいいだろう。
旦那様が立ち上がって私の席のそばまでやってくる。
「すまないが触れるぞ」
額に旦那様の大きな手が当てられる。
あ、冷たくて気持ちいい。
「熱があるな。食欲は?」
「…ん~、あんまりないかも」
あれ、旦那様に対する話し言葉が雑になってるな。
ちょっと思考力が落ちているかもしれない。
「抱き上げるぞ」
答える前にふわっと抱き上げられる。
あ、これってお姫様抱っこというヤツだ。
お兄様が結婚式で花嫁さんをこんな風に抱き上げてたっけ。
花嫁さんは笑顔だけど、お兄様の必死な表情がおもしろかったんだよなぁ。
旦那様は家令やメイドに何やら指示を出し、私が連れて行かれたのは一度も使ったことのない夫婦の寝室。
「…なんで?」
掃除は毎日してもらっているのは知っているけど。
「この部屋の方が広いし暖かい。それに私が様子を見に来るのが楽だからな」
それぞれの私室の間にあるのが夫婦の寝室だから。
「…でも、風邪だったら移っちゃうかも」
「口を布で覆うし、手洗いやうがいを徹底するから心配は無用だ」
軍にいた頃に病気や怪我の対処法などさまざまな知識を得ていたのだとか。
旦那様に指示され家令が手配してくれた医師の見立てでは風邪。
「おそらく数日前から調子がよくなかったのではないのか?」
「…そうかも」
丈夫だけがとりえだったので、具合が悪いというのがよくわかっていなかったかもしれない。
「でも、お仕事が…」
こうして横になっていても気になってしまう。
「今日の視察なら先方に事情を説明して延期させてもらった」
旦那様、仕事が速すぎる。
「明日以降の予定も変更させてもらった。熱が下がっても少なくとも3日間は安静にするように」
「…大丈夫ですか?」
視察以外にも仕事はたくさんある。
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