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最終話 指輪
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「どうか僕と結婚していただけませんか?」
外で働くことを家族に反対された時でも、先生は私の主張を理解して味方になってくれた。
あの時から私にとって家族以外で唯一心許せる人になっていた。
勉強以外でも、本を読む楽しさや街を歩くおもしろさを教えてくれた。
でも、先生はいまや世間から注目される魔道具師だ。
私の存在は、むしろ先生にとってマイナスになってしまうだろう。
考えつつ筆談用のボートに書き込む。でもペンが思うように進まない。
『私は傷物令嬢と言われています。先生にとって迷惑な存在になってしまうかもしれません』
ボードを見せると先生の表情は一瞬険しくなった。
「僕はそんなことを思ったことは一度もないよ。そんなことを言う奴と関わる必要などないさ。僕はむしろ君はダイヤモンドだと思っているんだけどね」
『ダイヤモンドですか?』
「そう。どこまでも透明で、何より強くて傷つかない。君そのものだと思ってる」
なんだかものすごいことを言われている気がする。
しばらく考えてボードに書き込む。
『本当に私でよろしいのですか?』
ボードを見せると先生が力強く首を縦に振る。
「もちろんだとも!そう聞いてくるということは、僕と結婚してくれるってことでいいのかな?」
『はい』
ボードを置いて左手首の魔道具を操作して笑顔で答えると、先生に手をしっかりと握られた。
「ありがとう!これからはずっと一緒だよ。必ず幸せにするからね」
パチパチパチ
「「おめでとう!!」」
声がした方を向くと、先生のお姉さんと妹さん、さらに私についてきたメイドまでもが満面の笑みで拍手している。
ここまでのやりとり、もしかして見られてた?
思わず顔が赤くなる。
「ようやく愛しの姫君を口説いたのね。今日はお祝いでパーッとやりましょ!」
その後のお茶会は、想像していた以上にぎやかなものになった。
帰りの馬車には先生も同乗し、我が家に到着すると改めて私の両親と兄に結婚の申し入れをした。
「やれやれ、やっとか」
お父様は半ばあきれたような表情で言った。
「気がついていなかったのはお前だけで、こいつがお前を好いていることなど皆とっくの昔に知っていたぞ」
驚いてお母様とお兄様の方を見ると苦笑いでうなずいている。
どうやら私は相当鈍いらしい。
この日の晩餐は、先生も交えて普段よりもにぎやかだった。
翌日、先生は提携を打診してきた商会に正式に断りの書状を送った。
その数日後、その商会の会頭さんが我が家を訪ねてきて私に謝罪した。
「うちの者が貴女様に大変不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。あの者はすでに処分を科しておりますが、こちらの品は貴女様へのお詫びということで、どうかお受け取りいただければと思います」
どうやら先生は断りの書状に私への暴言のことも記したらしい。
会頭さんが持参したのは外国から輸入された最高級の純白の絹織物だった。
「ご結婚がお決まりになったとのことで、もしよろしければこちらを使っていただければと思っております」
会頭さんの商会は外国との貿易にも力を入れていて、おそらくこれ以上の絹織物を入手することは不可能に近いだろう。
会頭さんが帰った後、これはウェディングドレスに使うということでいいのだろうか?などと考えていると、お母様が満面の笑みを浮かべていた。
「せっかくいただいたんだから使わせてもらいましょ。でも、デザイナーやお針子は私が最高レベルの人達を集めますからね!」
『よろしくお願いします』
お母様の本気具合に若干引きつつも左手首の魔道具を操作して答えた。
後日、改めて正式に婚約を取り交わし、私は婚約者となった先生から婚約指輪をいただいた。
私は結婚後も王立図書館での仕事を続ける予定で、結婚指輪はシンプルなものにする予定だけど、いただいた婚約指輪には小さいながらもダイヤモンドが光を放っている。
『綺麗ね』
左手首の魔道具を操作して伝えると、先生は笑顔で答えてくれた。
「君の方がずっと透明で強くて綺麗だよ」
外で働くことを家族に反対された時でも、先生は私の主張を理解して味方になってくれた。
あの時から私にとって家族以外で唯一心許せる人になっていた。
勉強以外でも、本を読む楽しさや街を歩くおもしろさを教えてくれた。
でも、先生はいまや世間から注目される魔道具師だ。
私の存在は、むしろ先生にとってマイナスになってしまうだろう。
考えつつ筆談用のボートに書き込む。でもペンが思うように進まない。
『私は傷物令嬢と言われています。先生にとって迷惑な存在になってしまうかもしれません』
ボードを見せると先生の表情は一瞬険しくなった。
「僕はそんなことを思ったことは一度もないよ。そんなことを言う奴と関わる必要などないさ。僕はむしろ君はダイヤモンドだと思っているんだけどね」
『ダイヤモンドですか?』
「そう。どこまでも透明で、何より強くて傷つかない。君そのものだと思ってる」
なんだかものすごいことを言われている気がする。
しばらく考えてボードに書き込む。
『本当に私でよろしいのですか?』
ボードを見せると先生が力強く首を縦に振る。
「もちろんだとも!そう聞いてくるということは、僕と結婚してくれるってことでいいのかな?」
『はい』
ボードを置いて左手首の魔道具を操作して笑顔で答えると、先生に手をしっかりと握られた。
「ありがとう!これからはずっと一緒だよ。必ず幸せにするからね」
パチパチパチ
「「おめでとう!!」」
声がした方を向くと、先生のお姉さんと妹さん、さらに私についてきたメイドまでもが満面の笑みで拍手している。
ここまでのやりとり、もしかして見られてた?
思わず顔が赤くなる。
「ようやく愛しの姫君を口説いたのね。今日はお祝いでパーッとやりましょ!」
その後のお茶会は、想像していた以上にぎやかなものになった。
帰りの馬車には先生も同乗し、我が家に到着すると改めて私の両親と兄に結婚の申し入れをした。
「やれやれ、やっとか」
お父様は半ばあきれたような表情で言った。
「気がついていなかったのはお前だけで、こいつがお前を好いていることなど皆とっくの昔に知っていたぞ」
驚いてお母様とお兄様の方を見ると苦笑いでうなずいている。
どうやら私は相当鈍いらしい。
この日の晩餐は、先生も交えて普段よりもにぎやかだった。
翌日、先生は提携を打診してきた商会に正式に断りの書状を送った。
その数日後、その商会の会頭さんが我が家を訪ねてきて私に謝罪した。
「うちの者が貴女様に大変不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。あの者はすでに処分を科しておりますが、こちらの品は貴女様へのお詫びということで、どうかお受け取りいただければと思います」
どうやら先生は断りの書状に私への暴言のことも記したらしい。
会頭さんが持参したのは外国から輸入された最高級の純白の絹織物だった。
「ご結婚がお決まりになったとのことで、もしよろしければこちらを使っていただければと思っております」
会頭さんの商会は外国との貿易にも力を入れていて、おそらくこれ以上の絹織物を入手することは不可能に近いだろう。
会頭さんが帰った後、これはウェディングドレスに使うということでいいのだろうか?などと考えていると、お母様が満面の笑みを浮かべていた。
「せっかくいただいたんだから使わせてもらいましょ。でも、デザイナーやお針子は私が最高レベルの人達を集めますからね!」
『よろしくお願いします』
お母様の本気具合に若干引きつつも左手首の魔道具を操作して答えた。
後日、改めて正式に婚約を取り交わし、私は婚約者となった先生から婚約指輪をいただいた。
私は結婚後も王立図書館での仕事を続ける予定で、結婚指輪はシンプルなものにする予定だけど、いただいた婚約指輪には小さいながらもダイヤモンドが光を放っている。
『綺麗ね』
左手首の魔道具を操作して伝えると、先生は笑顔で答えてくれた。
「君の方がずっと透明で強くて綺麗だよ」
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