ダイヤモンドは語らない

中田カナ

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第5話 告白

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 工房の片隅にある打ち合わせ用のテーブルを挟んで向かい合わせに座る。

「君の家庭教師を買って出たのは、単純に後見のお礼にと考えたんだ。小さな女の子に勉強を教えるのなんて別にたいしたことじゃないと思ってたしね」
 私は小さくうなずく。

「ところが、いざ始めてみると君の理解度と進み具合に驚いたんだ。僕がいない時でも時間を決めて予習復習をきっちりやっていると君のお兄さんから聞かされた」
 当時まだ学生だった先生が来るのはいつも午後なので、午前中は勉強にあてていた。

「だから僕も全力で君に教えようと思った。それと同時に君の役に立つ魔道具を作ることを決めた」
 一番最初の音声の魔道具は先生の卒業研究でもあった。


「僕は卒業後すぐに小さいながらも自分の工房を立ち上げることができた。もちろん君の家の支援があってのことだけどね。そこで考えたんだ。僕にできることは何だろう?ってね」

 工房を始めた当初から画期的な魔道具をいくつも生み出していた。
 世に出す前の試作品を我が家に持ってきて意見を聞かれたこともある。

「そして考えた末の結論は、僕が優れた魔道具を開発して売れれば出資者である君の家が潤う。そうすれば君が安心して暮らせるようになる、ということだったんだ」


 とまどいながら筆談用のボードに書き込む。
『私のため、なんですか?』

 ボードの文字を見た先生が大きくうなずいた。
「そうだよ。君がいるから僕もがんばれた。音声の魔道具の他にも、君の役に立つことを考えて開発した魔道具もいくつかある。思っていた以上に順調に進んで、こんな大きな工房を構えることもできたしね」


 先生は真っ直ぐ私を見つめる。

「最初は友人の妹としか思っていなかった。だけど、いつだってどんな困難にも真正面から立ち向かう君は本当に素晴らしいと思ってた。それと同時に抱えている苦しみや悲しみをまったく表に出さない君のことが心配になった」

 思いがけない言葉に筆談用のボードに書き込む。
『心配、ですか?』

「そう。このままではいつか心が折れてしまうのではないかと思ってた」
 先生にそんなことを思われていたのか。


「僕は君の心の支えになりたいんだ。それと同時に君は僕の心の支えになっているから、誰にも渡したくないと思ってる」

 私が先生の心の支えになっているとは思わなかった。
 そんな私の不思議そうな表情に気付いたのか、先生が苦笑いする。

「どうやらわかってないようだから、はっきり言うね。どうか僕と結婚していただけませんか?」

 私が、先生と?
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