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第3話 仕事
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愛用している筆談用のボードは既存の魔道具を先生が改良してくれたものだけど、左手首の音声の魔道具は先生のオリジナルだ。
そして私が外で働くことを後押ししてくれたのも先生だった。
「働く必要なんてない。お前は家で好きなことをしていいんだよ」
お父様をはじめ家族全員そう言ったけれど、先生だけは私に賛同してくれた。
「皆さんの心配もわかりますが、彼女はただ守られているだけの女性ではありません。勉強だって、ただ言われたことをするだけじゃなく、自分でいろいろと考えて先に進んでいたりして驚かされるくらいです。世間に出れば嫌な思いをすることもあるでしょう。だけど彼女にはそれを乗り越えるだけの力があると思っています」
先生の言葉が本当に嬉しかった。
その後、家族とは話し合いを重ね、貴族籍を抜けて平民になることは却下されたけれど、外で働くことは認めてもらえた。
そして先生や家族の協力のもと、猛勉強の末に採用試験に合格して王立図書館への就職を果たしたのだ。
ただ、就職してからも順風満帆とはいかなかった。
「お前に教えるのは面倒なんだよなぁ」
先輩からは意思の疎通が上手くいかず、迷惑がられた。
「貴族のご令嬢のくせになぜ働くんだ?」
そんな嫌味や陰口を叩かれた。
誘拐事件のことを覚えている人もいて、
「傷物令嬢のくせに」
と面と向かって言われたこともある。
部屋で1人で泣いたことも数え切れないほどある。
泣き声も出せないのでばれないと思ったけれど、家族には泣き腫らした目でばれた。
「貴女ががんばってるのはみんな知ってるわ。無理しなくてもいいのよ」
お母様がそう言って抱きしめてくれたけれど、私は負けたくなかった。
誰かにではなく、自分自身に。
本の修復を研究して技術を磨き、浄化の魔法も練習を重ね、少しずつ周囲の信頼を得られるようになってきた。
私のことを理解してくれる人も増え、今は面と向かって嫌味や皮肉を言う人はほとんどいない。
たぶん陰では言われているのかもしれないけど、そんなことは気にしない。
私は私の進むべき道を行くだけだ。
先生の工房を訪問する日は、私の職場である王立図書館の休館日に決まった。
そして訪問日の前日、私はお父様の書斎に呼ばれた。
「実は彼の魔道具工房に他の商会から提携の打診が来ている。うちよりずっと高い金額を提示しているらしい」
初めて知る事実に驚く。
「うちも対抗できないわけじゃないが、ここは彼の意思に任せようと考えている」
『どうしてですか?』
左手首の魔道具を操作して尋ねる。
「息子の同級生ということもあって学生時代から彼を支援してきたが、あまりに優秀で新しい魔道具を次々と生み出し、うちとしては元手はすでに回収できている。経営の方も彼の姉夫婦がうまくやってくれている。それに他と組むことで新しいことができるのなら、彼にとってよいことだと思うのでな」
昔から我が家は人材の育成に力を入れている。
先生の他にもお父様が支援している若者が何人かいるが、無理に囲い込むことはしない方針だ。
彼らがよりよい方向へ進めるようにと考えているだけなのだ。
持参した筆談用のボードにお父様に聞きたいことを書き込む。
『お話はわかりました。ですが、なぜその話を私にしたのでしょうか?』
「彼がお前にこんな話をすることはまずないだろうが、すでに一部で向こうの商会の動きが噂になりつつあるのでな。ヘンなところで知られるくらいなら私から話しておいた方がよいと思ったのだ」
『お父様、ご配慮ありがとうございます』
書き込んだボードを見せてから頭を下げる。
「うむ。彼がどう決断しようとそれは彼の人生だ。私はただそれを見届けるだけだ」
どうやらお父様はお父様で何か思うところがあるようだった。
そして私が外で働くことを後押ししてくれたのも先生だった。
「働く必要なんてない。お前は家で好きなことをしていいんだよ」
お父様をはじめ家族全員そう言ったけれど、先生だけは私に賛同してくれた。
「皆さんの心配もわかりますが、彼女はただ守られているだけの女性ではありません。勉強だって、ただ言われたことをするだけじゃなく、自分でいろいろと考えて先に進んでいたりして驚かされるくらいです。世間に出れば嫌な思いをすることもあるでしょう。だけど彼女にはそれを乗り越えるだけの力があると思っています」
先生の言葉が本当に嬉しかった。
その後、家族とは話し合いを重ね、貴族籍を抜けて平民になることは却下されたけれど、外で働くことは認めてもらえた。
そして先生や家族の協力のもと、猛勉強の末に採用試験に合格して王立図書館への就職を果たしたのだ。
ただ、就職してからも順風満帆とはいかなかった。
「お前に教えるのは面倒なんだよなぁ」
先輩からは意思の疎通が上手くいかず、迷惑がられた。
「貴族のご令嬢のくせになぜ働くんだ?」
そんな嫌味や陰口を叩かれた。
誘拐事件のことを覚えている人もいて、
「傷物令嬢のくせに」
と面と向かって言われたこともある。
部屋で1人で泣いたことも数え切れないほどある。
泣き声も出せないのでばれないと思ったけれど、家族には泣き腫らした目でばれた。
「貴女ががんばってるのはみんな知ってるわ。無理しなくてもいいのよ」
お母様がそう言って抱きしめてくれたけれど、私は負けたくなかった。
誰かにではなく、自分自身に。
本の修復を研究して技術を磨き、浄化の魔法も練習を重ね、少しずつ周囲の信頼を得られるようになってきた。
私のことを理解してくれる人も増え、今は面と向かって嫌味や皮肉を言う人はほとんどいない。
たぶん陰では言われているのかもしれないけど、そんなことは気にしない。
私は私の進むべき道を行くだけだ。
先生の工房を訪問する日は、私の職場である王立図書館の休館日に決まった。
そして訪問日の前日、私はお父様の書斎に呼ばれた。
「実は彼の魔道具工房に他の商会から提携の打診が来ている。うちよりずっと高い金額を提示しているらしい」
初めて知る事実に驚く。
「うちも対抗できないわけじゃないが、ここは彼の意思に任せようと考えている」
『どうしてですか?』
左手首の魔道具を操作して尋ねる。
「息子の同級生ということもあって学生時代から彼を支援してきたが、あまりに優秀で新しい魔道具を次々と生み出し、うちとしては元手はすでに回収できている。経営の方も彼の姉夫婦がうまくやってくれている。それに他と組むことで新しいことができるのなら、彼にとってよいことだと思うのでな」
昔から我が家は人材の育成に力を入れている。
先生の他にもお父様が支援している若者が何人かいるが、無理に囲い込むことはしない方針だ。
彼らがよりよい方向へ進めるようにと考えているだけなのだ。
持参した筆談用のボードにお父様に聞きたいことを書き込む。
『お話はわかりました。ですが、なぜその話を私にしたのでしょうか?』
「彼がお前にこんな話をすることはまずないだろうが、すでに一部で向こうの商会の動きが噂になりつつあるのでな。ヘンなところで知られるくらいなら私から話しておいた方がよいと思ったのだ」
『お父様、ご配慮ありがとうございます』
書き込んだボードを見せてから頭を下げる。
「うむ。彼がどう決断しようとそれは彼の人生だ。私はただそれを見届けるだけだ」
どうやらお父様はお父様で何か思うところがあるようだった。
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