ダイヤモンドは語らない

中田カナ

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第2話 先生

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 王立図書館での仕事を終えて通用門を出ると我が家の馬車が待っていた。

 家から職場までは近いのだから送迎はいらないと何度も主張しているけれど、これだけは絶対に認めてくれない。
 我が家には私を絶対に1人にはしないというルールがあるらしい。はっきりと言われたことはないけれど。



「やぁ、おかえり。お仕事おつかれさま」
 帰宅してメイドにサロンへ連れて行かれたら、見知った顔の男性が待っていた。

『ご無沙汰しております』
 左手首の魔道具を操作してからお辞儀をした。

 お兄様の親友であり、声が出せないため貴族向けの学院へ通うことを断念した私の家庭教師になってくれた男性で、今でも先生と呼んでいる。

 そして現在は各方面から注目を浴びている新進気鋭の魔道具師で、この左手首の魔道具の製作者でもある。
 学生時代から魔道具の開発に携わっていて、その才能を認めたお父様がずっと後見となっている。
 先生が現在構えている魔道具工房もお父様の出資によるものだ。


「今日は音声の魔道具の改良版を持ってきたんだ。さっそく試してもらえるかな?」
 左手首に着けている魔道具をはずし、新しいものを装着する。
 見た目はあまり変わらないけれど、ボタンが増えている。

「登録できる文面が大幅に増えたんで、君が以前言っていたことを実現してみたんだ」
 私、何を言ったかしら?

「例えば朝の挨拶を選んでみてもらえるかな」
 言われるがまま文面を選択する。

「右側のボタンは今までどおりだけど、追加した左側の赤いボタンを押してみて」
『おはよう!』
 元気な感じの女性の声が流れてびっくりする。


「くだけた感じの音声もあったらいいなって言ってたでしょ?」
 そうだ、思い出した。
 以前、家族や顔なじみの方々に対して、かしこまった文面じゃないのもあったらいいのに、と思っていたことを伝えたんだった。
 まさかこんなに早く実現するとは思わなかったけれど。

 かしこまった方は今までどおり先生のお姉さんが、くだけた方が妹さんが協力してくれたそうだ。
『ありがとうございます』
 先生に頭を下げると苦笑いされた。

「できれば僕には常にくだけた方でお願いしたいんだけど」
 そう言われ、笑顔とともに赤いボタンを押す。
『ありがとう!』


 バッグの中から筆談用のボードを取り出す。
『先生のお姉さんと妹さんにも感謝をお伝えください』

「わかった。ああ、そうだ!今度うちへ遊びに来ない?工房が今の場所に移転してから来たことはまだなかったよね。姉達にも実際に君が使っているところを見せてあげたいしさ」

 ボードに勢いよく返事を書く。
『ぜひ行きたいです!』

「わかった。君のご家族とも相談して近いうちに実現させようね」
 先生は笑ってそう言ってくれた。

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