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前編
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「ええい、うるさいうるさいっ!もうお前との婚約は破棄する!」
「はい、かしこまりました」
王太子殿下に淑女の礼をとり、くるっと後ろを向いてさっさと歩き出す。
王宮のテラスで殿下に少々注意をしたら、婚約破棄を言い渡されてしまった。
家からの迎えが来るにはまだ早いので、時間つぶしのため図書室へと向かう。
廊下で王太子殿下の妹君である王女殿下とその侍女に遭遇する。
「あら、もしかしてまた婚約破棄されましたの?」
にこやかに尋ねてこられる王女殿下。
「ええ、そうですの。帰るにはまだ早いので、図書館で時間をつぶそうと思いまして」
「ふふふ、貴女もあのお兄様の相手は大変でしょう?」
「いえ、子供の頃からなので、もうすっかり慣れておりますわ」
王女殿下と侍女は楽しそうに話しながら去っていった。
図書室に入るとすぐに司書の男性と目が合った。
私のお爺様と同世代くらいで、白髪に眼鏡の細身でダンディな方だ。
「おやおや、また婚約破棄ですかな?」
「ええ、そうですの。家から迎えが来るまでまだ時間がありますので、少しお邪魔させていただきますわね」
「ごゆっくりどうぞ。それにしても、殿下も困ったものですなぁ…まぁ、それだけ貴女に気を許しておられるということなのでしょうが」
「ふふふ、そうだとよいのですけれど」
本を選んでいつもの席に座る。
あっという間の本の世界に入り込む。私はこの時間が好きだ。
時間が経つのも忘れて読みふけっていると迎えが来たとの知らせがあり、名残惜しいけれど本を片付けて家路に着いた。
翌日も王宮へ向かったが、王太子殿下の元へは行かずに図書室に直行する。
今日はマナーの授業があるが、それ以外は昨日の本の続きをじっくりと楽しむことができる。
授業を無難にこなして読書を楽しみ、王太子殿下に一度も会うことなく帰宅した。
王太子殿下の婚約破棄宣言から3日後。
いつものように図書室で本を読んでいると、王太子殿下がやってきた。
「…その、この間はちょっと言い過ぎた。すまなかった」
小さな声で謝る殿下に私は笑顔で答える。
「私は気にしてはおりませんわ」
これでいつものように仲直り完了。
王太子殿下が私と婚約した6歳の頃から数え切れないほど繰り返されている王宮の日常風景なのだ。
王太子殿下は言葉遣いから一見乱暴そうに見えるが、実は繊細で自分に対する感情に非常に敏感な方だ。
だから心を許せる人は限られている。
身分のこともあり、何かよくないことをした時に注意できる者も限られていて、なぜか私がその役割を担っている。まわりの大人がもっとしっかりしてほしいと子供の頃からよく思っていたものだ。
殿下の婚約破棄宣言も、最初のうちこそ大騒動になったが、あまりに繰り返されるので、もうみんな慣れてしまった。
噂では今月は何回あるか賭けの対象になっているとか。それはそれでどうかと思うけれど。
「はい、かしこまりました」
王太子殿下に淑女の礼をとり、くるっと後ろを向いてさっさと歩き出す。
王宮のテラスで殿下に少々注意をしたら、婚約破棄を言い渡されてしまった。
家からの迎えが来るにはまだ早いので、時間つぶしのため図書室へと向かう。
廊下で王太子殿下の妹君である王女殿下とその侍女に遭遇する。
「あら、もしかしてまた婚約破棄されましたの?」
にこやかに尋ねてこられる王女殿下。
「ええ、そうですの。帰るにはまだ早いので、図書館で時間をつぶそうと思いまして」
「ふふふ、貴女もあのお兄様の相手は大変でしょう?」
「いえ、子供の頃からなので、もうすっかり慣れておりますわ」
王女殿下と侍女は楽しそうに話しながら去っていった。
図書室に入るとすぐに司書の男性と目が合った。
私のお爺様と同世代くらいで、白髪に眼鏡の細身でダンディな方だ。
「おやおや、また婚約破棄ですかな?」
「ええ、そうですの。家から迎えが来るまでまだ時間がありますので、少しお邪魔させていただきますわね」
「ごゆっくりどうぞ。それにしても、殿下も困ったものですなぁ…まぁ、それだけ貴女に気を許しておられるということなのでしょうが」
「ふふふ、そうだとよいのですけれど」
本を選んでいつもの席に座る。
あっという間の本の世界に入り込む。私はこの時間が好きだ。
時間が経つのも忘れて読みふけっていると迎えが来たとの知らせがあり、名残惜しいけれど本を片付けて家路に着いた。
翌日も王宮へ向かったが、王太子殿下の元へは行かずに図書室に直行する。
今日はマナーの授業があるが、それ以外は昨日の本の続きをじっくりと楽しむことができる。
授業を無難にこなして読書を楽しみ、王太子殿下に一度も会うことなく帰宅した。
王太子殿下の婚約破棄宣言から3日後。
いつものように図書室で本を読んでいると、王太子殿下がやってきた。
「…その、この間はちょっと言い過ぎた。すまなかった」
小さな声で謝る殿下に私は笑顔で答える。
「私は気にしてはおりませんわ」
これでいつものように仲直り完了。
王太子殿下が私と婚約した6歳の頃から数え切れないほど繰り返されている王宮の日常風景なのだ。
王太子殿下は言葉遣いから一見乱暴そうに見えるが、実は繊細で自分に対する感情に非常に敏感な方だ。
だから心を許せる人は限られている。
身分のこともあり、何かよくないことをした時に注意できる者も限られていて、なぜか私がその役割を担っている。まわりの大人がもっとしっかりしてほしいと子供の頃からよく思っていたものだ。
殿下の婚約破棄宣言も、最初のうちこそ大騒動になったが、あまりに繰り返されるので、もうみんな慣れてしまった。
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