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第4話 王都へ
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そして療養所を退所する日。
朝のうちに理髪店へ行き、髪を整えて無精ひげもそり落とした。鏡の中には王都にいた頃と変わらぬ私の姿があった。
理髪店から療養所に戻ってくると、すでに旅支度を終えて待っていた少女が叫んだ。
「え~?!おじさんがおじさんじゃなくなってる!」
「なんなんだ、それは。だいたい君は私を何歳だと思っていたんだ?」
「え、いや、お母さんより年上かな、と…」
確か少女の母親は18歳で出産したと聞いている。
「言っておくが君とは12歳差だからな」
「うそ?!」
しばらくひげを伸ばすのはやめようと思った。
療養所の人達や少女の母親に見送られて馬車で出発し、途中で1泊して王都に到着した。
商業エリアにある3階建ての最上階を借りて住んでいる。1階は文具店、2階は弁護士事務所となっている。
久々の我が家は、知人に頼んで定期的に掃除してもらっていたので長期の不在でもきれいなままだ。
まずはキッチンに近い空き部屋に案内する。
「君の部屋はここにしようと思う。とりあえず前の住人が残していったベッドや家具を使ってほしい。後で改めて買い換えよう」
「いいえ、どれも使えるもののようですし、買い換える必要なんてないですよ」
家具をさわっていた少女が言った。
「そうか?まぁ、足りない物はいろいろあるだろうから、明日から揃えていこう」
次の部屋へ案内する。
「ここは本を置くための部屋だ。仕事の資料がほとんどだが、読みたいものがあれば君も好きに読んでくれてかまわない」
少女は部屋を見まわす。
「あの、床に同じ本の山がいくつもあるのはどうしてですか?」
「それは、その…私が書いた本なんだ」
「え?」
なんとなく言い出しそびれていたことを、ここにきてようやく告白する。
「私は小説家なんだ。ペンネームを使っていて本名は公表していない。自分で言うのもなんだが、まぁそれなりに売れている方…だと思う」
「そうだったんですか。療養所で話していた時も物識りな人だなぁ~と思ってましたけど、それも納得ですね」
少女が小さくうなずいた。
家の中を一通り案内し、買ってきたパンやお惣菜で夕食をとる。
「私、料理もそれなりにできますので、明日は近くのお店を教えてくださいね、ご主人様」
「?!」
少女の言葉に思わずむせる。
「た、頼むからご主人様はやめてもらえるかな」
「じゃあ旦那様にしましょうか?」
「すまないがそれも却下で。私は様をつけて呼ばれるような人間じゃない」
「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」
議論の末にとりあえず先生ということになった。正直これも落ち着かないが、しかたあるまい。
数日かけて少女の生活環境を整えて新しい生活が始まった。
以前は昼夜逆転の生活だったが、療養所生活のおかげですっかり昼型になったので、そのまま昼間に仕事するようになった。夜型に戻してしまうと少女に負担をかけることにもなるからだ。
そして少女は最難関と言われている王都の高等学院の入学試験に合格した。今日はささやかながらお祝いとしてレストランで夕食をとった。
「私も高等学院の卒業生なんだが、学院では多くの友人ができて、学業以外にも得たものはたくさんあった。君も学業と仕事の両立は大変だろうが、困ったことがあればいつでも相談して欲しい」
「はい、先生!」
少女は笑顔でうなずいた。
朝のうちに理髪店へ行き、髪を整えて無精ひげもそり落とした。鏡の中には王都にいた頃と変わらぬ私の姿があった。
理髪店から療養所に戻ってくると、すでに旅支度を終えて待っていた少女が叫んだ。
「え~?!おじさんがおじさんじゃなくなってる!」
「なんなんだ、それは。だいたい君は私を何歳だと思っていたんだ?」
「え、いや、お母さんより年上かな、と…」
確か少女の母親は18歳で出産したと聞いている。
「言っておくが君とは12歳差だからな」
「うそ?!」
しばらくひげを伸ばすのはやめようと思った。
療養所の人達や少女の母親に見送られて馬車で出発し、途中で1泊して王都に到着した。
商業エリアにある3階建ての最上階を借りて住んでいる。1階は文具店、2階は弁護士事務所となっている。
久々の我が家は、知人に頼んで定期的に掃除してもらっていたので長期の不在でもきれいなままだ。
まずはキッチンに近い空き部屋に案内する。
「君の部屋はここにしようと思う。とりあえず前の住人が残していったベッドや家具を使ってほしい。後で改めて買い換えよう」
「いいえ、どれも使えるもののようですし、買い換える必要なんてないですよ」
家具をさわっていた少女が言った。
「そうか?まぁ、足りない物はいろいろあるだろうから、明日から揃えていこう」
次の部屋へ案内する。
「ここは本を置くための部屋だ。仕事の資料がほとんどだが、読みたいものがあれば君も好きに読んでくれてかまわない」
少女は部屋を見まわす。
「あの、床に同じ本の山がいくつもあるのはどうしてですか?」
「それは、その…私が書いた本なんだ」
「え?」
なんとなく言い出しそびれていたことを、ここにきてようやく告白する。
「私は小説家なんだ。ペンネームを使っていて本名は公表していない。自分で言うのもなんだが、まぁそれなりに売れている方…だと思う」
「そうだったんですか。療養所で話していた時も物識りな人だなぁ~と思ってましたけど、それも納得ですね」
少女が小さくうなずいた。
家の中を一通り案内し、買ってきたパンやお惣菜で夕食をとる。
「私、料理もそれなりにできますので、明日は近くのお店を教えてくださいね、ご主人様」
「?!」
少女の言葉に思わずむせる。
「た、頼むからご主人様はやめてもらえるかな」
「じゃあ旦那様にしましょうか?」
「すまないがそれも却下で。私は様をつけて呼ばれるような人間じゃない」
「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」
議論の末にとりあえず先生ということになった。正直これも落ち着かないが、しかたあるまい。
数日かけて少女の生活環境を整えて新しい生活が始まった。
以前は昼夜逆転の生活だったが、療養所生活のおかげですっかり昼型になったので、そのまま昼間に仕事するようになった。夜型に戻してしまうと少女に負担をかけることにもなるからだ。
そして少女は最難関と言われている王都の高等学院の入学試験に合格した。今日はささやかながらお祝いとしてレストランで夕食をとった。
「私も高等学院の卒業生なんだが、学院では多くの友人ができて、学業以外にも得たものはたくさんあった。君も学業と仕事の両立は大変だろうが、困ったことがあればいつでも相談して欲しい」
「はい、先生!」
少女は笑顔でうなずいた。
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