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第二部

地下神殿の女神①

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荘厳な彫刻が施された白亜の大きな扉は見上げると首を痛めそうな高さがある。一階のみの王宮の屋根より勝るだろうこの扉を1000年以上前の人々が造り上げたとは恐れ入る。ここに来るまでに長く続いた塔と階段もまたそうだけれど、女神のためと努力と汗を捧げた信仰心は計り知れない。
その信仰を捧げた女神の元に悪しき目的を持つ者を連れて行かなければならないことに酷い罪悪感が募る。


「王女殿下、感傷に浸っているところ申し訳ありませんがわたしたちも急いでいます。扉を開けてください」
「はい…」


女薬師カサンドラに促され自分を担ぐ騎士に床に下ろしてくれないか視線を向けるも取り合ってはくれない。カサンドラや神官のクイールにも視線を向けるもそちらも同じく。身動きできないように捕まえておかなければ逃げると見ているのだろう。逃げたいけれど10数人に囲まれているこの状況ではすぐ捕まえられてしまうだろうからその心配は必要ないだろうに。
しかたなく肩に担がれたまま上体を起こし、きつい体勢で女神への最後の関門である扉を開けるべく担ぐ騎士を所定の位置に誘導した。扉の彫刻の2箇所に太陽のレリーフがある。右手と左手をそのレリーフにそれぞれ合わせた。


「おおっ、扉が自ら開いた!」


シャルロッテを女神の契約者と判断した大扉の太陽の形をした魔法陣が扉を開けたのだ。このような高度な魔法の仕掛けの知識は現代の人間にない。古代の人間にはそのような知恵があったのか、あるいは女神の授けたものか。しかし、その女神アールストゥを守る最後の関門は開かれ、敵の侵入を許してしまった。


「おお…、美しい…」


誰からともなく感嘆の声がこぼれた。
大扉の向こうには白亜の床、壁、天井が輝き、地下とは到底思えない明るさだ。床から天井を支える巨木の様な等間隔に並ぶ柱は、まるで白樺の森の中にいる錯覚をさせる。地下神殿は人が触れてはならない神秘的な森を思わせ、女神に敵対する彼らをもってしても恐れおののかせた。
しかし怯む一行に神官クイールが叱責した。


「我々の使命を思い出せ。この先に、かの女神がいる。皆、よくよく警戒して進め。弱体化したとはいえ神の一柱だ」
「「「はっ」」」


喝を入れられた一行は気を取り直し、辺りを見回しながら扉をくぐり先に進んだ。巨木の様な柱の間を進み白亜の森の奥に奥にと分け入れば、床まで着く裾の衣をまとう女性が一人静かに待っていた。背を向ける女性は長く豊かな紅茶のような赤茶の髪を緩く編み床まで着きそうだ。こちらが来るのを待っていたと言わんばかりに緩やかに振り向いたその女性は、美しく優しげな顔立ちを無表情にこちらをまっすぐ見た。


「貴女が女神アールストゥか。お初にお目にかかる。我々を出迎えてくださり感激で胸が震えます。ここまで何の危害も与えず我々を迎えてくださるとは、想定以上に貴女には人質が大層大切なようですね」
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