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第二部
追いかけっこの終焉②
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もうとっくに撤収して落ち着いた朝市をやっていた通り沿いの、とってあった宿にわたしたちは本当に帰ってきた。
「いまのうちに眠っておけ。あるいは風呂に入ってさっぱりしてきてもいい」
「え? え? どうして? ガエルとヴラドと合流しないの?」
「そのうち嫌になってここに戻るだろう」
「??」
「大丈夫だ。今追わずとも心配はいらない。あとでわかる」
「うん…あなたがそう言うなら大丈夫なんだろうけど。…寝られるかな?」
「添い寝でもしてやろうか?」
「ちょっ いりません!」
「ははっ では後でな」
と、いうことで個室のカーテンをしっかり閉めてベッドに横になってみた。明るいうちから寝られるかな?と思ったけれど、お腹いっぱいだったせいですんなり眠ってしまっていた。
その後、数時間後に「だああああぁっ!! 全く捕まらん!! 逃げ足早すぎだ!!」という大きな声で目が覚めた。そして「うるさい」という低い声とゴンっという鈍い音がした。身支度をさっと整え、ベッドから出て扉を開けると廊下でガエルがしゃがんで頭を抑えており、その正面には右手を握りしめた魔王。ヴラドは壁に寄りかかっていた。
三人ともすぐにわたしに気づき、起こしたことを謝罪された。それはかまわないのだけれど、さっきの雄叫びからしてテオドール王子を捕まえられなかったようだ。
「いやはや参ったよー。あのあと病院、国立薬草園、冒険者ギルド、魔物研究所、とずっと追ってるのに全然接触できなくてねー。こうまでくると避けられてるのかと思っちゃうよ。傷ついちゃうなぁー」
「王子は今はどこに?」
「お城にお帰りになりましたとさ」
「ぬあああぁっ 獲物が目の前にいるのに捕まえられんとは~、むしゃくしゃするー!!」
それはわかるかも。もう夜も遅いようだ。体の疲れのとれ具合からして6時間は寝ただろう。こんな遅くまで振り回されたらストレスも溜まるだろう。
隣にいるフェンリルのロウもイラついて床を前足で掘り掘りしている。絨毯が擦り切れちゃうからやめて。
「ヴラド、『クロクスの酒場』に転移しろ」
「はい? 確かに昨日飲み歩きでそこにも行きましたけど、なぜ?」
「いいから、全員転移させろ」
「ふむ、なにかお考えがあるようですね。では行きますか。転移」
なんだかわからないままわたしたちは転移をした。そして、薄暗い店内に客は居なかった。
いたのは数人の人物。
「よう、よく来たな。歓迎するよ、グリューフェルト伯爵御一行」
一人の青年が歓迎の言葉を発した。
それにグリューフェルト伯爵を名乗っているヴラドが応えた。
「ありがとう。しかし、ふむ、貴方はどなたかな?」
「さみしいな。昼間は熱烈に求めてくれたのに気づいてはくれないのかい?」
そう言うと薄暗い店内がその人物が手のひらに出したライトの魔法で明るくなった。
その青年はダークブラウンの髪に、青みがかったグレーの瞳をしていた。
「俺はテオドール。お探しのテオドール王子とは俺のことさ」
「いまのうちに眠っておけ。あるいは風呂に入ってさっぱりしてきてもいい」
「え? え? どうして? ガエルとヴラドと合流しないの?」
「そのうち嫌になってここに戻るだろう」
「??」
「大丈夫だ。今追わずとも心配はいらない。あとでわかる」
「うん…あなたがそう言うなら大丈夫なんだろうけど。…寝られるかな?」
「添い寝でもしてやろうか?」
「ちょっ いりません!」
「ははっ では後でな」
と、いうことで個室のカーテンをしっかり閉めてベッドに横になってみた。明るいうちから寝られるかな?と思ったけれど、お腹いっぱいだったせいですんなり眠ってしまっていた。
その後、数時間後に「だああああぁっ!! 全く捕まらん!! 逃げ足早すぎだ!!」という大きな声で目が覚めた。そして「うるさい」という低い声とゴンっという鈍い音がした。身支度をさっと整え、ベッドから出て扉を開けると廊下でガエルがしゃがんで頭を抑えており、その正面には右手を握りしめた魔王。ヴラドは壁に寄りかかっていた。
三人ともすぐにわたしに気づき、起こしたことを謝罪された。それはかまわないのだけれど、さっきの雄叫びからしてテオドール王子を捕まえられなかったようだ。
「いやはや参ったよー。あのあと病院、国立薬草園、冒険者ギルド、魔物研究所、とずっと追ってるのに全然接触できなくてねー。こうまでくると避けられてるのかと思っちゃうよ。傷ついちゃうなぁー」
「王子は今はどこに?」
「お城にお帰りになりましたとさ」
「ぬあああぁっ 獲物が目の前にいるのに捕まえられんとは~、むしゃくしゃするー!!」
それはわかるかも。もう夜も遅いようだ。体の疲れのとれ具合からして6時間は寝ただろう。こんな遅くまで振り回されたらストレスも溜まるだろう。
隣にいるフェンリルのロウもイラついて床を前足で掘り掘りしている。絨毯が擦り切れちゃうからやめて。
「ヴラド、『クロクスの酒場』に転移しろ」
「はい? 確かに昨日飲み歩きでそこにも行きましたけど、なぜ?」
「いいから、全員転移させろ」
「ふむ、なにかお考えがあるようですね。では行きますか。転移」
なんだかわからないままわたしたちは転移をした。そして、薄暗い店内に客は居なかった。
いたのは数人の人物。
「よう、よく来たな。歓迎するよ、グリューフェルト伯爵御一行」
一人の青年が歓迎の言葉を発した。
それにグリューフェルト伯爵を名乗っているヴラドが応えた。
「ありがとう。しかし、ふむ、貴方はどなたかな?」
「さみしいな。昼間は熱烈に求めてくれたのに気づいてはくれないのかい?」
そう言うと薄暗い店内がその人物が手のひらに出したライトの魔法で明るくなった。
その青年はダークブラウンの髪に、青みがかったグレーの瞳をしていた。
「俺はテオドール。お探しのテオドール王子とは俺のことさ」
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