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第二部

シオンとまどか①

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「シオン…綺麗な名前」


響きがかわいくて魔王としての彼のイメージとはギャップがあるけれどとてもいいと思う。
でも偽名のリュシオンと似ていてうっかり真名がバレてしまう危険がありそう。
魔王はわたしを紅い目を細めて見た。


「ーーーシオンという名はアーサーがつけた」
「え?」


ちょっと待って、アーサーが名づけ親?
アーサーって初代勇者のアーサーだよね?
彼本人と近い年齢なんじゃないの?
でも名づけって赤ちゃんにするよね。
ならアーサーかなり年上?
まさか彼とアーサーは親子くらい年齢差が…


「お前、アーサーがおっさんだとでも考えていないか? 違うぞ」
「あ、違うの? でもアーサーが名づけ親ってどういう…」
「真名とは何だと思う?」


真名とは何か。哲学的な問いかけだろうか?
普通の回答でいいのかな?


「えっと、本名、本当の名前、だよね?」
「そう、本当の名だ。名は普通は親や保護者がつけるものだ」
「そう、だね」
「俺に真名はそもそもは無かった。親は俺に名をつけなかったからだ」
「え?」


名前をつけなかった?
どういうこと。


「俺は名無しで、親からは"おい"だとか"お前"だとか、時には"リュシオン"と呼ばれた。"リュシオン"の意味は知っているか?」
「ううん…」
「"悪い夢"という意味だ。親ーー母親にとって俺はそういう存在だった。母親は俺を望んで産んだのではなかった」
「それは…」
「遠い昔のことだ。気にするな」
「気にするよ…」


魔王は子どもの頃、どんな想いをしてどんな日々をすごしたのだろう。それを思うと…
彼は世間話をするように淡々と話していて、なんとも思っていない様子だ。


「お前はあいつと同じ反応をするんだな。アーサーもそんな風に俺をいたわるような目を向けた」
「アーサーが」
「俺はリュシオンと皮肉を込めて名乗るようになった。名乗ると相手はたいていは怪訝な顔をした。アーサーがなぜそんな名を名乗っているのかと訊いてきたので由来を話したら、ちょうどお前のような顔をした」


わたしみたいな顔ってどんな顔だというの。


「悲しげに眉を下げて、同情は失礼だと口をつぐみ、俺にかける言葉を探しているお人好しの顔だ」
「ちょっと、茶化さないでよ」
「はっ、それもあいつに言い返された」


楽しそうにひねくれ者が口端を上げている。


「そして次いであいつが言った。『僕が名づけよう』と」
「アーサーが…」
「『シオン、お前の名はシオンだ。"夢"や"希望"という意味だ』とな。リュシオンから少し変えただけで芸がないと思ったものだ」
「…いい名前もらったね」


魔王はなにも答えなかったけれど、ちょっと自慢げに口端を上げていた。
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