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第二部
爽やかな朝の空気①
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肌寒さに目を覚ますとカーテンの隙間から光が漏れていた。朝のようだ。
昨日はかなり疲れていたようで、早めにベッドに入るとすぐに寝てしまった。夢も見ずに朝までぐっすり眠ったおかげで寝起きくら頭はクリアで体も軽い。
常に曇っていて弱い朝日による光の筋の中を黒いモヤが漂っている。
「瘴気、ほんと濃いなぁ…」
この魔王城は常に濃い瘴気に満たされていて逃れようがない。邪神が封印されている魔王の本体がある謁見の間の濃度は別格にしても、建物の中だろうと外の中庭だろうと変わらず濃い。
わたしは聖女スキルのせいか瘴気を感知できる上に見えるから視界はずっと煙が充満しているかのように悪い。ついつい薄目で見たくなりさらに見えづらい。
ーーこの部屋だけでも浄化してしまおうか。
この部屋はわたしに当てがわれたわけで、この部屋だけなら多少手を加えても問題ないだろう。たぶん。
「…ちょっとは綺麗になるかな。ホーリーエリア」
ベッドに寝たままのだらしない格好のまま、神聖魔法の結界を寝室いっぱいに張り、続いている居間にまで広げた。
光に包まれそれが収まると、さっきまであったモヤがすっかりなくなり視界が良くなった。
「おお、いい感じ」
満足して瘴気なしの綺麗な空気を吸い込むとようやく朝が来た、という気持ちになった。
「リンカ」
「ひぇっ!」
いきなり背中側から声をかけられて心臓が飛び跳ねた。
振り返ると魔王がベッドの脇に立っていた。
あ、魔王の目が紅くなっている。
魔王の瞳の色は体内の瘴気量を表していて、紅は濃くて紫が薄い。今は煌々と紅く光っていて、これぞ魔王という風貌に戻っている。
体内の瘴気混じりの魔力が増えたのだろう。
その美しい顔を顰めると訝しげに問いかけてきた。
「神聖魔法を感知したが何事だ? それに部屋の瘴気がなくなっているがどうした?」
そうか、魔王城での居場所は把握しているって言ってたし、行動も筒抜けなのか。
いきなりわたしが聖女の力を使ったから驚いて駆けつけたってことか。
だがしかし。
「とりあえず部屋から出てって!」
寝巻き姿を男性に見られるのは恥ずかしい!
身支度を整えて(やはりテーブルに書き置きがあり、『洗顔にご利用ください』と洗面器に水が張っていて横に拭く用の小さいタオルが用意されていた)食堂に向かうと魔王に説明しろと問い詰められた。
白状すると納得してくれたけど拍子抜けしたような表情をしていた。
「ーーそれでお前の寝室は瘴気がなくなっていたのか」
「王は聖女殿の寝室に入ったのか」
「何か問題ありますか?」
「お前にはこれも難しかったか、ツヴァイ」
野郎二人がなにやらこそこそしているようだけどまあいい放っておこう。
昨日はかなり疲れていたようで、早めにベッドに入るとすぐに寝てしまった。夢も見ずに朝までぐっすり眠ったおかげで寝起きくら頭はクリアで体も軽い。
常に曇っていて弱い朝日による光の筋の中を黒いモヤが漂っている。
「瘴気、ほんと濃いなぁ…」
この魔王城は常に濃い瘴気に満たされていて逃れようがない。邪神が封印されている魔王の本体がある謁見の間の濃度は別格にしても、建物の中だろうと外の中庭だろうと変わらず濃い。
わたしは聖女スキルのせいか瘴気を感知できる上に見えるから視界はずっと煙が充満しているかのように悪い。ついつい薄目で見たくなりさらに見えづらい。
ーーこの部屋だけでも浄化してしまおうか。
この部屋はわたしに当てがわれたわけで、この部屋だけなら多少手を加えても問題ないだろう。たぶん。
「…ちょっとは綺麗になるかな。ホーリーエリア」
ベッドに寝たままのだらしない格好のまま、神聖魔法の結界を寝室いっぱいに張り、続いている居間にまで広げた。
光に包まれそれが収まると、さっきまであったモヤがすっかりなくなり視界が良くなった。
「おお、いい感じ」
満足して瘴気なしの綺麗な空気を吸い込むとようやく朝が来た、という気持ちになった。
「リンカ」
「ひぇっ!」
いきなり背中側から声をかけられて心臓が飛び跳ねた。
振り返ると魔王がベッドの脇に立っていた。
あ、魔王の目が紅くなっている。
魔王の瞳の色は体内の瘴気量を表していて、紅は濃くて紫が薄い。今は煌々と紅く光っていて、これぞ魔王という風貌に戻っている。
体内の瘴気混じりの魔力が増えたのだろう。
その美しい顔を顰めると訝しげに問いかけてきた。
「神聖魔法を感知したが何事だ? それに部屋の瘴気がなくなっているがどうした?」
そうか、魔王城での居場所は把握しているって言ってたし、行動も筒抜けなのか。
いきなりわたしが聖女の力を使ったから驚いて駆けつけたってことか。
だがしかし。
「とりあえず部屋から出てって!」
寝巻き姿を男性に見られるのは恥ずかしい!
身支度を整えて(やはりテーブルに書き置きがあり、『洗顔にご利用ください』と洗面器に水が張っていて横に拭く用の小さいタオルが用意されていた)食堂に向かうと魔王に説明しろと問い詰められた。
白状すると納得してくれたけど拍子抜けしたような表情をしていた。
「ーーそれでお前の寝室は瘴気がなくなっていたのか」
「王は聖女殿の寝室に入ったのか」
「何か問題ありますか?」
「お前にはこれも難しかったか、ツヴァイ」
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