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本編
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ビリアに宣戦布告を兼ねた挑発と挨拶を終えたあと。
待ち合わせの人物のいる部屋へと転移する。
見回せば壁に掛かっている業物らしい名剣のコレクション。
ヘンゼル騎士団長の私室である。
「戻りました、ヘンゼル様」
「ああ」
人払いは済んでおり、ここには私と彼の二人だけだ。
王子様の手術をした日から、情報交換を兼ねて城に来ている私。
その移動先の場所としてこの部屋を指定された。
協力者である彼には今日、私がビリアに会いにいくことを伝えてある。
「わざわざ姿を見せて、相手を警戒させる必要はなかったと思うが……千里眼で覗き見るだけでは、我慢できなかったのか?」
「我慢できなかったとか言わないでくださいよ」
い、嫌な言い方をしますね……。
「千里眼は、あくまで見るだけですから……、声も聞こえないですしね。五感でしっかり感じたかったんですよ、これから対峙する女のことをね」
「よくわからん」
「いいんですよ……わからなくて、私のケジメのようなものですから」
恰好つけのフェミニストを気取るつもりはない。
ただ、私なりの流儀というだけだ。
「だが、貴様に対する危機感を持たせたことで、転移魔法の対処手段を取られる可能性もあるだろう?」
「まぁ……不可能ではないですね」
魔術結界を張ってジャミングする手はある。
時空間変動が可能なハイレベルの結界師がいれば不可能ではない。
時空の圧縮膨張、空間を歪ませることで転移座標を狂わせる。
結果、結界内部には空間転移することができなくなるわけだが。
「あまり気にしていないようだな」
「ええ、まぁ……」
だって、それにも限度があるもの……。
自分の一日の移動範囲すべてを結界でカバーできるわけでもない。
「お風呂は、トイレは? 他にも貴族との交流でのお茶会、鉄壁の防御をしくことなんて不可能ですよ、加えてこの眼からは逃れられません」
「…………そ、そうか」
少し引き気味のヘンゼル様。
「ストーカーに持たせてはならない能力をほぼ揃えているな、貴様は、いくら相手が同性とはいえどうかと思うぞ」
「さすがに、そこまではやりませんけどね」
千里眼があっても、二十四時間監視など不可能だ。
ピンポイントな場面での使用ならともかく、連続発動は目の負担が大きい。
スライム手術をした時も、眠りにつく前に王子の中身がちらついて眠れなかった。
「正直、メイドではなく暗部に就けば、百倍の給金を貰えただろうに」
「結構ですよ、そんな闇の中にいる、血生臭い仕事は……平穏なのが一番なんです」
「平穏か……随分入れ込んでいるように見えるが、平穏という言葉に」
「……あまり詮索は無しですよ」
向こうは興味があるようだが……。
他人に話して面白い過去があるわけでもない。
少なくとも自分ではそう思っている。
誤魔化すようだが、話を変えることにする。
「それで……王子様の具合は?」
「ああ、順調に回復している。まだ公務も休んでおられるし、筋肉の衰えなどは見られるがな。もう少しすれば、自由に動けるようになるはずだ」
ヘンゼル様が笑みを浮かべる。
「今日もベッドの上でナタリー様と楽しそうにご歓談していたよ」
「そうですか、安心しました」
「殿下にも今回の件は伝えてある。できれば今日これから、貴様と話ができればとおっしゃっていた」
「殿下が」
相手は普段であれば、立場的に会話をすることもないだろう天上人。
そんな殿下が私と話をしたいと。
いや……もう、今更なんだけど。
まったく緊張なんてしないけど。
では、元気になった殿下と会うとしましょうか。
待ち合わせの人物のいる部屋へと転移する。
見回せば壁に掛かっている業物らしい名剣のコレクション。
ヘンゼル騎士団長の私室である。
「戻りました、ヘンゼル様」
「ああ」
人払いは済んでおり、ここには私と彼の二人だけだ。
王子様の手術をした日から、情報交換を兼ねて城に来ている私。
その移動先の場所としてこの部屋を指定された。
協力者である彼には今日、私がビリアに会いにいくことを伝えてある。
「わざわざ姿を見せて、相手を警戒させる必要はなかったと思うが……千里眼で覗き見るだけでは、我慢できなかったのか?」
「我慢できなかったとか言わないでくださいよ」
い、嫌な言い方をしますね……。
「千里眼は、あくまで見るだけですから……、声も聞こえないですしね。五感でしっかり感じたかったんですよ、これから対峙する女のことをね」
「よくわからん」
「いいんですよ……わからなくて、私のケジメのようなものですから」
恰好つけのフェミニストを気取るつもりはない。
ただ、私なりの流儀というだけだ。
「だが、貴様に対する危機感を持たせたことで、転移魔法の対処手段を取られる可能性もあるだろう?」
「まぁ……不可能ではないですね」
魔術結界を張ってジャミングする手はある。
時空間変動が可能なハイレベルの結界師がいれば不可能ではない。
時空の圧縮膨張、空間を歪ませることで転移座標を狂わせる。
結果、結界内部には空間転移することができなくなるわけだが。
「あまり気にしていないようだな」
「ええ、まぁ……」
だって、それにも限度があるもの……。
自分の一日の移動範囲すべてを結界でカバーできるわけでもない。
「お風呂は、トイレは? 他にも貴族との交流でのお茶会、鉄壁の防御をしくことなんて不可能ですよ、加えてこの眼からは逃れられません」
「…………そ、そうか」
少し引き気味のヘンゼル様。
「ストーカーに持たせてはならない能力をほぼ揃えているな、貴様は、いくら相手が同性とはいえどうかと思うぞ」
「さすがに、そこまではやりませんけどね」
千里眼があっても、二十四時間監視など不可能だ。
ピンポイントな場面での使用ならともかく、連続発動は目の負担が大きい。
スライム手術をした時も、眠りにつく前に王子の中身がちらついて眠れなかった。
「正直、メイドではなく暗部に就けば、百倍の給金を貰えただろうに」
「結構ですよ、そんな闇の中にいる、血生臭い仕事は……平穏なのが一番なんです」
「平穏か……随分入れ込んでいるように見えるが、平穏という言葉に」
「……あまり詮索は無しですよ」
向こうは興味があるようだが……。
他人に話して面白い過去があるわけでもない。
少なくとも自分ではそう思っている。
誤魔化すようだが、話を変えることにする。
「それで……王子様の具合は?」
「ああ、順調に回復している。まだ公務も休んでおられるし、筋肉の衰えなどは見られるがな。もう少しすれば、自由に動けるようになるはずだ」
ヘンゼル様が笑みを浮かべる。
「今日もベッドの上でナタリー様と楽しそうにご歓談していたよ」
「そうですか、安心しました」
「殿下にも今回の件は伝えてある。できれば今日これから、貴様と話ができればとおっしゃっていた」
「殿下が」
相手は普段であれば、立場的に会話をすることもないだろう天上人。
そんな殿下が私と話をしたいと。
いや……もう、今更なんだけど。
まったく緊張なんてしないけど。
では、元気になった殿下と会うとしましょうか。
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