処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

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本編

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「あ、相も変わらず、心臓に悪い行動をする女ね」

「ふふ、フットワークの軽さが私の売りですから」

 私の神出鬼没な登場に、呆気に取られるビリア。
 すぐに距離を取り警戒した表情に。

「それで、指名手配中の凶悪犯が私に何の用かしら……」

「別に、大した用ではないですよ」

 嘘偽りなどなく、本当に。
 今は特に、彼女に対し危害を加えるつもりもない。

「「…………」」

 誕生日パーティ以来、四日ぶりの再会。
 緊張感漂う空気の中、二人の視線が交錯する。

「そんなに警戒せずとも本当に言葉通りですよ。貴方が今、どんな顔をしているのか、確認しに来ただけです。いやぁ、よかったですね、王子が回復して……」

 挑発するように私は微笑む。

「ビリア様も、あの時泣いていましたからね。さぞかし今日は嬉しかったことでしょう」

「ええ……そうね、本当に嬉しいわ」

 にこり、とビリアが微笑みを返す。

 もっと私の登場に動揺すると思ったけど。
 なかなかの胆力、切り替えの早さはさすがというところか。

 思った以上に堂々としている。
 もっと焦った顔を見れると思ったけど、少し残念だ。

「貴方も、こんな場所に来ないで、早く自首したらどうかしら?」

「あくまで、そういうスタンスを貫くつもりですか?」

「何を言っているのか、わからないわね」

 はっきりと告げるビリア。

「罪の無い無垢な少女がどうなろうが、知ったことではないと……」

「ふふ、それが真実だとしたら、心が痛むわね……」

 見るからに大げさな演技で、胸を抑え悲し気な顔をするビリア。

「ただ、あの時は私も動揺もしていたし、少々記憶が曖昧な点もあるわ。キルリー王子も助かったことだし、心の底から反省しているのならば、特別に私が擁護してあげてもいいわよ。今なら罪も軽くして貰えるはず」

「……」

「それとも、王子の次は私の命でも狙ってみる?」

「ご冗談を……そのつもりなら、こんな遊び混じりの登場はしないですよ」

 私が本気でやるならば不意打ちである。
 わざわざ入口からご丁寧にメイドの真似事をして入ってきて。
 いやまぁ、私メイドなんですけど……ややこしいな。
 
 とにかく、どこぞの影でねちねち動く陰険女と一緒にしないで欲しい。
 その辺は私を見てビリアも理解している様子ではある。

「それに……そんなつまらないものに用はないので」

「な……なん、ですって?」

 私の切り返しにビリアの表情が停止する。

「ず、随分面白いことを言ってくれるじゃないの?」

「でも事実ですからね、それに、貴方を殺したところで私の平穏が戻ってくるわけでもない」

 ぎり、小さくと歯ぎしりをするビリア。
 笑顔だが、その目は完全に笑っていない。
 権力ある立場にいる彼女は、侮辱の言葉には慣れていないのだろう。

「言ったでしょう、貴方を私の敵と認めたと、徹底的に邪魔をして差し上げますので……その方が貴方には効果がありそうですし」

「まさか……キルリー王子が元に戻ったのは、貴方が」

「あはは……転移魔法で人を救えるわけがないでしょうに」

 訝し気な顔のビリア。

「ナタリー様の愛が奇跡を起こしたんですよ……きっと」

「随分ロマンチックな答えね、らしくないこと」

 その問いを適当に笑ってはぐらかす私。

 私が王子を助けたことは、現段階ではナタリー様とヘンゼル騎士団長以外知らない。
 あの夜のことは、今後の活動のためにも必要最小限の人物の中で留めるように伝えてある。
 その方が動きやすいという判断だ。
 転移魔法についてはバレているので今更だけど、千里眼については黙ってもらうよう頼んだ。

 すべてを正直に公開することも考えたがやめた。
 ナタリー様に協力して貰えば、周囲も耳を貸さないことはないだろうし、ビリアに暗殺未遂の疑惑の目を向けるまではできるかもしれない。
 
 けど……そこまでだ。
 断定できる決定的な証拠が今はない……まだその先にはいけない。

「それでは、ビリア様……またお会いしましょう」

 顔見せも終わったことだし、これ以上長居する理由もない。
 用は済んだ。

 そう言い、転移の準備に入る私。


「おや、ベッドシーツが乱れていますね? まるで誰かに八つ当たりされたかのように皺だらけです。せっかくですし、私が直していきましょうか?」

「っ! ……結構よ!」

「ふふ……そうですか? ……ではまた」

 まぁ千里眼で見て中の様子はわかっていたのだけどね。

 しかしビリアもだけど。
 私もなかなかに言動が悪女っぽいな。

 彼女と一緒にいると雰囲気に飲まれて染まっていきそうだ。
 
 まったく、本当に危険な女である。

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