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本編
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メイド(ナナ)の活躍によって、キルリー王子の容態は快方へと向かう。
そしてスライムを摘出した二日後。
王子の意識がついに戻った。
吉報はすぐさま王宮中に広がった。
王と王妃だけでなく、兵士たちも手を叩いて歓喜の声をあげた。
その様子を見て非常に面白くないと考える人物がいた。
ナナに罪を着せ、今回の暗殺事件を企んだ女、ビリアである。
王宮、ビリアの部屋。
ボスン、ボスンと枕をベッドに叩きつける音。
渦巻いた金髪を振り乱し、怒り狂う女の姿。
苛立ちをぶつけるように、その行為は続けられる。
「くっ!」
キルリー王子の死亡報告かと思えば、まさかのドンデン返し。
王子があの状態から生き延びるなんて。
つい先日までは治癒術士もさじを投げかけていたほどなのに。
何故……失敗したのか?
計画では絶対にうまくいくはずだったのに。
作成者曰く、解毒魔法も効果のない、特別製の自信作だったと聞いている。
それなのに……。
(回復してるじゃない……役立たずの無能めが)
まだキルリー王子は完治はしていないが、もう数日すれば元の状態に戻るらしい。
その前にもう一度動くべきか?
毒がぶり返したという体にして始末して。
いや……さすがに軽率か。
無理に何度も動いて私が疑われては困る。
せっかくあのメイドに罪を着せたのに何の意味もない。
時期を見ることにした方が賢明か。
怒りを沈め、今後の算段を練っていると……。
「ビリア様……紅茶をお持ちしました」
部屋の外から聞こえてくる給仕の女の声。
声をスイッチに私は心優しい王女の仮面を被る。
少し外面を良く演じるだけで、周囲が私を多少なりとも信用してくれるなら対価としては悪くない。
不愉快だからといって、わざわざ当たり散らして敵を作るような馬鹿な真似を私はしない。
感情を表に出さず封じ込める。
部屋に入ってきた眼鏡をかけた茶髪の少女に、私はにこやかに微笑んだ。
「ありがとう、そこに置いておいてくれる?」
「畏まりました」
今は王宮中が喜びムード。
私もそれに合わせ、同じ空気に溶け混まなければならない。
不快だが、笑顔を保つ。
「今日は本当に良き日でございますね? ビリア様」
「え……ええ、そうね」
驚く私。
メイドの方から圧倒的に目上の存在である私に話しかけてくるなんて。
一体、何を考えているのか?
浮かれているのだろうか?
腹が立つ……薄汚い給仕風情が。
無論、それを顔には出さないが。
「ふふ、なんて、意地悪な質問でしたね……聞かずとも、わかりきったことだというのに」
「え?」
続けられるメイドの言葉。
その様子に若干の違和感を持つ。
「いいんですよ……無理しなくて。私には本心を伝えてもらってもね」
そう言い、メイドが自身の髪に手を伸ばす。
手を頭から下ろすと同時、バサリと……茶色い何かが落ちた。
(カツ……ラ?)
見上げると、視界には黒髪の少女。
そのまま。ゆっくりと眼鏡を取る。
「な……あ、あんたはっ!」
驚きからか、つい素の口調が出てしまった。
私の反応を見て頬をつり上げる、件のメイド。
「お久しぶりです……という程でもないですが、会いに来てしまいましたよ、ビリア様。用のついでに、今の貴方の様子を直接見たくなったのでね」
そしてスライムを摘出した二日後。
王子の意識がついに戻った。
吉報はすぐさま王宮中に広がった。
王と王妃だけでなく、兵士たちも手を叩いて歓喜の声をあげた。
その様子を見て非常に面白くないと考える人物がいた。
ナナに罪を着せ、今回の暗殺事件を企んだ女、ビリアである。
王宮、ビリアの部屋。
ボスン、ボスンと枕をベッドに叩きつける音。
渦巻いた金髪を振り乱し、怒り狂う女の姿。
苛立ちをぶつけるように、その行為は続けられる。
「くっ!」
キルリー王子の死亡報告かと思えば、まさかのドンデン返し。
王子があの状態から生き延びるなんて。
つい先日までは治癒術士もさじを投げかけていたほどなのに。
何故……失敗したのか?
計画では絶対にうまくいくはずだったのに。
作成者曰く、解毒魔法も効果のない、特別製の自信作だったと聞いている。
それなのに……。
(回復してるじゃない……役立たずの無能めが)
まだキルリー王子は完治はしていないが、もう数日すれば元の状態に戻るらしい。
その前にもう一度動くべきか?
毒がぶり返したという体にして始末して。
いや……さすがに軽率か。
無理に何度も動いて私が疑われては困る。
せっかくあのメイドに罪を着せたのに何の意味もない。
時期を見ることにした方が賢明か。
怒りを沈め、今後の算段を練っていると……。
「ビリア様……紅茶をお持ちしました」
部屋の外から聞こえてくる給仕の女の声。
声をスイッチに私は心優しい王女の仮面を被る。
少し外面を良く演じるだけで、周囲が私を多少なりとも信用してくれるなら対価としては悪くない。
不愉快だからといって、わざわざ当たり散らして敵を作るような馬鹿な真似を私はしない。
感情を表に出さず封じ込める。
部屋に入ってきた眼鏡をかけた茶髪の少女に、私はにこやかに微笑んだ。
「ありがとう、そこに置いておいてくれる?」
「畏まりました」
今は王宮中が喜びムード。
私もそれに合わせ、同じ空気に溶け混まなければならない。
不快だが、笑顔を保つ。
「今日は本当に良き日でございますね? ビリア様」
「え……ええ、そうね」
驚く私。
メイドの方から圧倒的に目上の存在である私に話しかけてくるなんて。
一体、何を考えているのか?
浮かれているのだろうか?
腹が立つ……薄汚い給仕風情が。
無論、それを顔には出さないが。
「ふふ、なんて、意地悪な質問でしたね……聞かずとも、わかりきったことだというのに」
「え?」
続けられるメイドの言葉。
その様子に若干の違和感を持つ。
「いいんですよ……無理しなくて。私には本心を伝えてもらってもね」
そう言い、メイドが自身の髪に手を伸ばす。
手を頭から下ろすと同時、バサリと……茶色い何かが落ちた。
(カツ……ラ?)
見上げると、視界には黒髪の少女。
そのまま。ゆっくりと眼鏡を取る。
「な……あ、あんたはっ!」
驚きからか、つい素の口調が出てしまった。
私の反応を見て頬をつり上げる、件のメイド。
「お久しぶりです……という程でもないですが、会いに来てしまいましたよ、ビリア様。用のついでに、今の貴方の様子を直接見たくなったのでね」
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