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本編
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「ふぅ……これで一応、終わりですかね」
無事、王子の体内の寄生スライムの摘出が完了。
王子の静かな呼吸が聞こえる。
顔色もよく、手術前と比べかなり落ち着いている様子だ。
とりあえず危険な山は越えているはずだ。
しっかし疲れたああ。
目が痛い、本当にしんどい。
「大丈夫か? 貴様、眼が真っ赤だぞ」
「でしょうね……あ~気持ちわる」
ずっと、酷使してきた眼を閉じて休ませる。
ここまで長時間、千里眼を連続で使用したのは初めてだ。
便利な眼ではあるが……代償も当然ある。
長時間多用すると、視界がぐっちゃぐっちゃになる。
これは比喩的言い方ではない。
千里眼で見た映像の残滓が、終わった後も脳裏に強烈に残る。
そのせいで、元の視界に順応させるのに時間がかかる。
明るい場所から暗い場所に移動した時、人の目が対応して見えるようになるまでに時間がかかるように。
「ああ……うぅ、視界が定まらない」
「…………」
「なんです? こっちをジロジロ見て……あまりレディの顔を凝視するものではないですよ、ヘンゼル様」
「とても面白い冗談だ」
どこに冗談成分があるのか?
「だがまぁ……くく、今初めて、貴様が年相応の女に見えたよ」
「え? そんなに私老けて見えます?」
ちょっとショックなんですが……。
何少し楽しそうに笑ってるんだ、オイ。
「容姿の話ではない。今の隙だらけの姿、あれだけ大胆な真似をした女とは思えなくてな。とても他国の間者などには見えん、普通の少女だ」
「……」
「今なら貴様のことを簡単に捕まえられそうだな」
「ふふ、試してみますか?」
「やらんよ、言ってみただけだ」
「ま、その方がいいですよ。下手すれば私と融合(フュージョン)することになりますからね」
「お、恐ろしい女だな、本当に」
私の発言に顔をひくひくさせる騎士団長様。
今の私は感覚がずれていて、正確に転移位置を把握できない状態だからね。
転移に巻き込まれたら、私だけでなく周りも危ないのだ。
「まあ、わざわざ脅さずとも貴方はそんなことはしないでしょうけど」
「ああ、ナタリー様が決めたことを俺が覆すようなことはせん、それに……」
この寄生スライムについても、まだ未知数である。
今、私を敵に回すような真似はしないはずだ。
もしかすると、今後同じような事件が起きる可能性だってある。
その時に対処できるのは私だけだ。
解析用のサンプルとして、瓶を用意してスライムの一部を保存してある。
時間が経てば何かわかるだろう。
「で、貴様はこれからどうするつもりだ?」
「とりあえず今日は城を出ます」
適当な宿を探して泊まることにする。
「私も疲れたし、万全ではないんで、それに……話の前にナタリー様には時間が必要でしょう?」
私たちは王子の傍にいるナタリー王女を見る。
ドレスが汚れるのも構わず、ベッド傍でしゃがみ込み、キルリー王子の胸に顔を預けている。
喜びの涙だろう、ぐすん、ぐすんとナタリー王女の嗚咽が聞こえる。
今日一日で一生分の涙を流すんじゃないのかあの人。
さて、と。
話しながら休憩し、ぼちぼち視界も安定してきた。
千里眼の影響も殆どなくなった。
これなら転移しても大丈夫だろう。
「では、近いうちにまた来ますので、それでは……」
「お、おい! ちょっと待て! 貴様……」
「なんです?」
慌てたように、私を呼び止めるヘンゼル様。
「頼む、せめて……行く前に礼ぐらい言わせてくれよ」
「別にいいのに……私たちはこれから協力関係になるのですから、相手に先行投資ってやつですよ」
「ビジネスライクな関係にしても、貴様が我らに与えた物は大きすぎる。簡単には返せそうもない」
そう言ったあと。
王国の騎士団長が、国を代表する武の象徴であり、最前線に立ち続けるべき存在である彼が。
一切の迷いもなく私に頭を下げた。
「心から感謝する、メイド。今日ここに来てくれて、殿下を助けてくれて、ありがとう」
「…………」
「俺も……お前を信じよう」
顔を上げ、真剣な表情で私を見つめる。
真っすぐな言葉に、ちょっと照れ臭かったが……。
まぁ悪くはない気分だ。
今度はしっかりとさよならを言い、私は城を転移した。
無事、王子の体内の寄生スライムの摘出が完了。
王子の静かな呼吸が聞こえる。
顔色もよく、手術前と比べかなり落ち着いている様子だ。
とりあえず危険な山は越えているはずだ。
しっかし疲れたああ。
目が痛い、本当にしんどい。
「大丈夫か? 貴様、眼が真っ赤だぞ」
「でしょうね……あ~気持ちわる」
ずっと、酷使してきた眼を閉じて休ませる。
ここまで長時間、千里眼を連続で使用したのは初めてだ。
便利な眼ではあるが……代償も当然ある。
長時間多用すると、視界がぐっちゃぐっちゃになる。
これは比喩的言い方ではない。
千里眼で見た映像の残滓が、終わった後も脳裏に強烈に残る。
そのせいで、元の視界に順応させるのに時間がかかる。
明るい場所から暗い場所に移動した時、人の目が対応して見えるようになるまでに時間がかかるように。
「ああ……うぅ、視界が定まらない」
「…………」
「なんです? こっちをジロジロ見て……あまりレディの顔を凝視するものではないですよ、ヘンゼル様」
「とても面白い冗談だ」
どこに冗談成分があるのか?
「だがまぁ……くく、今初めて、貴様が年相応の女に見えたよ」
「え? そんなに私老けて見えます?」
ちょっとショックなんですが……。
何少し楽しそうに笑ってるんだ、オイ。
「容姿の話ではない。今の隙だらけの姿、あれだけ大胆な真似をした女とは思えなくてな。とても他国の間者などには見えん、普通の少女だ」
「……」
「今なら貴様のことを簡単に捕まえられそうだな」
「ふふ、試してみますか?」
「やらんよ、言ってみただけだ」
「ま、その方がいいですよ。下手すれば私と融合(フュージョン)することになりますからね」
「お、恐ろしい女だな、本当に」
私の発言に顔をひくひくさせる騎士団長様。
今の私は感覚がずれていて、正確に転移位置を把握できない状態だからね。
転移に巻き込まれたら、私だけでなく周りも危ないのだ。
「まあ、わざわざ脅さずとも貴方はそんなことはしないでしょうけど」
「ああ、ナタリー様が決めたことを俺が覆すようなことはせん、それに……」
この寄生スライムについても、まだ未知数である。
今、私を敵に回すような真似はしないはずだ。
もしかすると、今後同じような事件が起きる可能性だってある。
その時に対処できるのは私だけだ。
解析用のサンプルとして、瓶を用意してスライムの一部を保存してある。
時間が経てば何かわかるだろう。
「で、貴様はこれからどうするつもりだ?」
「とりあえず今日は城を出ます」
適当な宿を探して泊まることにする。
「私も疲れたし、万全ではないんで、それに……話の前にナタリー様には時間が必要でしょう?」
私たちは王子の傍にいるナタリー王女を見る。
ドレスが汚れるのも構わず、ベッド傍でしゃがみ込み、キルリー王子の胸に顔を預けている。
喜びの涙だろう、ぐすん、ぐすんとナタリー王女の嗚咽が聞こえる。
今日一日で一生分の涙を流すんじゃないのかあの人。
さて、と。
話しながら休憩し、ぼちぼち視界も安定してきた。
千里眼の影響も殆どなくなった。
これなら転移しても大丈夫だろう。
「では、近いうちにまた来ますので、それでは……」
「お、おい! ちょっと待て! 貴様……」
「なんです?」
慌てたように、私を呼び止めるヘンゼル様。
「頼む、せめて……行く前に礼ぐらい言わせてくれよ」
「別にいいのに……私たちはこれから協力関係になるのですから、相手に先行投資ってやつですよ」
「ビジネスライクな関係にしても、貴様が我らに与えた物は大きすぎる。簡単には返せそうもない」
そう言ったあと。
王国の騎士団長が、国を代表する武の象徴であり、最前線に立ち続けるべき存在である彼が。
一切の迷いもなく私に頭を下げた。
「心から感謝する、メイド。今日ここに来てくれて、殿下を助けてくれて、ありがとう」
「…………」
「俺も……お前を信じよう」
顔を上げ、真剣な表情で私を見つめる。
真っすぐな言葉に、ちょっと照れ臭かったが……。
まぁ悪くはない気分だ。
今度はしっかりとさよならを言い、私は城を転移した。
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