処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

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 転移魔法で王子の体内から寄生スライムを取り出す。

「て、転移魔法は自分自身を転移させる魔法ではないのか? 別の対象をなんて……そんなことができるなど聞いたこともないぞ」

「できますよ……あくまで私の魔力の及ぶ範囲であればね」

 転移対象を魔力で薄く包み込み発動させる。
 超高等技術ではあるが……。

 今回の場合は王子の体内に私の魔力を浸透させ、件のスライムを私の魔力でコーティングし、外に転移させる。
 消費魔力は転移させる物体の質量が影響するが、調べた感じでは問題なさそうだ。

「わ、訳が分からん……き、貴様は……本当に何者なのだ」

「しがないメイドです」

「はぁ……もういい」

 今はその問答をしている時でもない。
 ヘンゼル騎士団長もそれは理解しており、疲れた顔だが、それ以上は突っ込んでこなかった。

「ヘンゼル様……王子の服を全部脱がせてもらっていいですか?」

「な、なに?」

「少しでも成功率を上げるためです。服が邪魔なんですよ、私の魔力を浸透させるのに」

 一応、女ですしね。
 わざわざ殿方の服を脱がすような真似はお断りしたい。

 緊急事態で断るわけにもいかず、なんとも言えない表情で服を脱がしていくヘンゼル。




「お、お願いします、メイドさん」

「任せてください」

 二人の同意を得て、いざスライム摘出のオペ開始。
 王子の身体の中にあるスライムの位置を魔力感知で把握する。

「……ふぅ」

 丁寧に慎重に、落ち着いて進めていく。
 深呼吸、深呼吸だ。
 もし、失敗して王子の臓器の一部を転移させるなどすれば洒落にならない。

「あ……ちょっとコーティング位置ずれた」

「お、おい! だ、大丈夫なのか、本当にっ!」

「そうは言われても本当に難しいんですよ、これ」

 今更だが……予想以上に大変だった。

 魔力感知で全身をきっちりと把握しながら、同時に緻密な魔力コントロールで内部のスライムを包み込む。
 物凄い神経を使わなければならない。

 しかも、ごほごほと咳で身体を震わせたりするキルリー王子。
 乱れた呼吸、小刻みに動く身体。
 対象が頻繁に動くから、転移させるタイミングを計るのが超難しい。

 私の額からツツと冷たい汗が流れていく。
 それを見て汗をハンカチで拭いてくれる王女様。

 ありがたい、助かるよ。



(だけど、このままじゃ、無理か……)

 仕方ない。使うかアレを。
 あまり周囲に見せたいものではなかったが……。
 ここで失敗だけはしたくない。

 ゆっくりと眼を閉じて、開くと同時に発動させる。

「な! 貴様、ま……魔眼持ちだったのか」

「ええ、まぁ」


 使用すると、うっすらと緑色に光る私の眼。

 以前、城から脱出する時にも使っていた。
 あの時は一瞬だったし、ライトで明るい城のダンスホールだったので気づかなかったろうが、この薄暗い空間の中ではこの眼は目立つ。


【千里眼】

 私のもう一つの能力だ。
 私は魔眼と呼ばれる稀有な眼を持っている。
 いくつか制約はあるが、壁を隔てた場所でも、山の向こう側でも、海の底でも、どれだけ遠距離に位置する場所でも、この目で見ることができる。

 この眼は転移魔法と相性が抜群にいい。
 転移先に障害物があるかないか、簡単に安全確認することができるからだ。

 この眼を使って王子の体内を直接見る。
 ぼんやりと王子の体内で発光している魔力。

 これならより確実に狙った部分をできる。


 ふふ、これで完璧であ…………。


「……ぐ」


 ぐ、グロああああ……。

 目に入ってきたショッキングな光景。
 生きた人間の体内とか見るもんじゃないね。

 人は中身とか言うけど、嘘でしょ。


 二度とやるまいと決心し、ごりごりメンタルを削られながらも。

 私は摘出作業を続けていく。

 



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