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本編
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しおりを挟む「ヘンゼルッ! ヘンゼル!」
「ナタリー様! いかがなさいましたかっ!」
どたどたと音がして部屋の扉が開く。
おかげで、面倒臭い事態になりそうである。
中に現れたのは短い黒髪をツンと立て、上等な白銀の鎧を身に着けた大柄の男。
確か王国騎士団長を務める男だったはずだ。
「……なっ!」
ナタリ―王女の傍に立つ、侵入者の私を見て、即座に抜剣の構えを見せる。
できるだけ温厚に進めたかったのに、こうなっては仕方がない。
「動くな……この女の身が大切ならばな」
「…………なっ」
ナタリーの背後に転移し、護身用のナイフを首元にちらつかす。
「ものども、であっ!」
「助けを呼ぶのも無しだ」
「…………」
言わなくても、普通に考えればわかるだろうが。
てんぱってるのか?
主従揃ってまったく……。
君たち軍隊蟻じゃないんだからさ、困ったからってポンポン仲間呼ぶんじゃないよ。
「理解したならそっと扉を閉めろ。私の指示に従ってくれれば何もしないと約束する。だがもし、裏切るような真似をすれば、王女の安全は保障しない」
「き、貴様……」
ぎりりと歯ぎしりをするヘンゼル。
「王女も、二回目は許しませんからね」
「……」
しっかりと脅しておく。
まぁ……実際にそんなことしないけど。
さっきは優しくし過ぎて舐められたからね。
きっちりと方針を切り替えることにする。
幸いここにいるのはヘンゼルとナタリーだけだ、まだ修正は効く。
部屋の扉が閉まり、外に声が漏れないようになったのを確認したあと。
ようやく話を切り出すことにする。
「周りくどいのは好きじゃないですし、はっきり言います。私は貴方たちの敵ではない、いえ……もしかしたら味方になるかもしれない女です」
「な、何を意味不明なことを……貴様がキルリー様にこんな真似をしたんだろう!」
「断じて違います、私はこの城で働いていた、ただのメイドです。嘘偽りはありません」
二人に言い聞かせるように言う。
「生贄として差し出された……か弱い哀れな女なのです」
「い、生贄が転移魔法で逃げてたまるか……」
「そう言われても、誰だって死にたくないでしょうに」
吐き捨てるようにヘンゼル騎士団長が言う。
「まぁいいです、本題に入りますね。今回の件、私は嵌められたんですよ、あのビリア王女に……」
「なんだと?」
あの日、私の身に起きたことを丁寧に語る。
眉間に皺を寄せるヘンゼル。
ナタリー王女の顔はここからだと見えないが、同じような顔をしているのではなかろうか?
脅したおかげもあってか、黙って話を聞いていた二人だったが……。
「私に協力していただけませんか? 無実であることを証明するために」
「「……」」
沈黙の時間。
「やはり、信じられませんか?」
「貴様の話、即否定はしないが……単純に信じることもできない」
ヘンゼルが言う。
その目はやはり懐疑的である。
「仮に貴様がビリア王女と無関係だったとしてもだ。他国から送り込まれた間者でない保証がどこにある、転移魔法なんて物騒な魔法が使えるのであれば、寧ろその可能性の方が高い。流れで考えれば普通はそう思うぞ」
視線を下げればこくこくと首を動かして、同意を示すナタリー。
でもまぁ、そうでしょうね。
予想の範疇ではある。
今もかなり悪役ムーブしてますしね。
ここで「うん」と言われても、それはそれで頭大丈夫かとなってしまうが……。
どう彼女たちから信頼を勝ち取るか。
さて……ここからが私の腕の見せ所だ。
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