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「どうしてっ! どうして貴方がこんな目に……」
憔悴しきった夫の顔を見ながら、ナタリーが呟く。
キルリー王子の暗殺容疑で、逃走中のナナという名のメイド。
王宮から少し離れた場所には城勤めのメイドたちが暮らす寮がある。
中にあるナナの部屋からは、禍々しい色をした毒草や毒キノコの粉末が発見されたそうだ。
見つかった素材を元に、王国お抱えの優秀な薬師たちが寝る間も惜しんで解毒法を解析している。
だが……。
今宵は満月。
室内を照らすその灯りが、苦し気な夫の顔をはっきりと浮かび上がらせ、嫌でも残酷な未来を彼女に想像させてしまう。
このままだと、夫は長くない……見ていればわかる。
だけどまだ、覚悟なんてしたくない。
もっとずっと、一緒にこの人と生きていたい。
何故誰よりも優しい彼が、何故こんな目に合わなければならないのか?
王位争いなどに巻き込まれているが、本心では彼自身は王位など決して望んでいない。
親同士の決めた政略結婚だったけど。
今ではナタリーにとってキルリー誰よりも大切な人だ。
愛していた。
この部屋のバルコニーから夫と眺める月が好きだった。
彼に肩を抱かれ、二人の間に静かに流れる優しい時間。
普段は凛々しくても、くしゅんと可愛らしくクシャミをするところ。
もう少し、ここにいたいと……子供のように我が儘を言うところもすべてが愛おしかった。
しかし、その時間も終わってしまうかもしれない。
確かにあったはずのその光景も、今ではかすんで見えてしまう。
「ああ、うううっ! あああっ!」
みっともなく、泣き声が外に零れる。
どうしようもない、制御できない感情が吐き出される。
そんな中。
ふわりと……風が吹いた。
ナタリーの頭を風で浮いた白いカーテンが優しくなでる。
なんとなしに、思わず反射的に顔を上げるナタリー。
すると。
「こんばんは……とても月の綺麗な夜ですね。ナタリー様」
「……え?」
声がした。
そこにいたのは見覚えのある一人の女。
件のメイドが、暗殺容疑のかかった女が。
ナタリーのことを見下ろしていた。
憔悴しきった夫の顔を見ながら、ナタリーが呟く。
キルリー王子の暗殺容疑で、逃走中のナナという名のメイド。
王宮から少し離れた場所には城勤めのメイドたちが暮らす寮がある。
中にあるナナの部屋からは、禍々しい色をした毒草や毒キノコの粉末が発見されたそうだ。
見つかった素材を元に、王国お抱えの優秀な薬師たちが寝る間も惜しんで解毒法を解析している。
だが……。
今宵は満月。
室内を照らすその灯りが、苦し気な夫の顔をはっきりと浮かび上がらせ、嫌でも残酷な未来を彼女に想像させてしまう。
このままだと、夫は長くない……見ていればわかる。
だけどまだ、覚悟なんてしたくない。
もっとずっと、一緒にこの人と生きていたい。
何故誰よりも優しい彼が、何故こんな目に合わなければならないのか?
王位争いなどに巻き込まれているが、本心では彼自身は王位など決して望んでいない。
親同士の決めた政略結婚だったけど。
今ではナタリーにとってキルリー誰よりも大切な人だ。
愛していた。
この部屋のバルコニーから夫と眺める月が好きだった。
彼に肩を抱かれ、二人の間に静かに流れる優しい時間。
普段は凛々しくても、くしゅんと可愛らしくクシャミをするところ。
もう少し、ここにいたいと……子供のように我が儘を言うところもすべてが愛おしかった。
しかし、その時間も終わってしまうかもしれない。
確かにあったはずのその光景も、今ではかすんで見えてしまう。
「ああ、うううっ! あああっ!」
みっともなく、泣き声が外に零れる。
どうしようもない、制御できない感情が吐き出される。
そんな中。
ふわりと……風が吹いた。
ナタリーの頭を風で浮いた白いカーテンが優しくなでる。
なんとなしに、思わず反射的に顔を上げるナタリー。
すると。
「こんばんは……とても月の綺麗な夜ですね。ナタリー様」
「……え?」
声がした。
そこにいたのは見覚えのある一人の女。
件のメイドが、暗殺容疑のかかった女が。
ナタリーのことを見下ろしていた。
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