処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

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本編

3 (ビリア視点)

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「消え……た?」

 信じられないことが起きた。
 さっきまで王子暗殺未遂の犯人として、そこに確かにいたはずの女がいないのだ。
 その身体を拘束しようとしていた兵士たちの手が空をきる。

 フロア内は混乱の極致である。


「ま、まさか……転移魔法、何故……メイドがこんな魔法を」

 その現象を見ていた治癒術師の一人がポツリと呟く。
 専門ではないが、他の魔法についてもそれなりに詳しいらしい。


(て、転移魔法ですって?)

 少し話は聞いたことがある。

 高レベルの空間把握能力、魔力出力量の絶妙なバランス調整が求められ、その扱いの難しさから、殆ど使い手のいない禁呪と呼ばれる魔法。
 一歩間違えば、転移先の壁や土の中に埋まってしまったり、空から急降下して即死することもある。

 転移魔法は理論的には可能でも、実行にはとてつもない勇気が必要。
 一見便利そうだが、宮廷魔術師の誰もがその魔法の危険性から習得を諦めている。

 極めれば移動距離の超短縮ができるが、リスクを考えれば、多少時間がかかっても、身体強化魔法で走る速度を上げたりする方がまだいいとのこと。


 まさか、転移魔法で逃げるなんて。
 というか、何故そんな魔法の使い手がメイドなどをしているのか?

 意味がわからない。


 あのメイドの経歴は調べさせてある。

 見たところ特に不自然な点はなかったはずだ。
 孤児で家族もおらず、色々とこちらで演出しやすい点から、キルリー王子毒殺の犯人として仕立て上げるのが簡単であると判断した。

 とはいえ、さすがに転移魔法が扱えるとは、予想もしていなかった。

(まぁ……いいわ)

 予想外ではあるけど、計画に大きな問題はないはず。
 あのメイドもこんな派手な逃げ方をすれば。自分が犯人だと強調しているようなものだ。

 それに、メイドの口から直接犯行を吐かせずとも、その証拠はこちらの方で既に用意してあるのだ。
 しっかり準備はできている。

 もしかすると、先ほどの転移は、イチかバチかの苦し紛れの転移だったという可能性もある。

 だとしたら、今は海の底に沈んでいたとしても不思議ではない。



 それに第一王子の方も……。

 キルリー王子はまだ死んではいないが時間の問題だ。
 この様子ではもっても、三日というところか。
 意識が戻るところまで回復することはまずあるまい。

 あれは治癒魔法では決して治せない特注の毒だそうだ。
 その治癒方法は作った本人にしかわからない。

 第一王子キルリーが死ぬば、私の夫である第二王子エリアスが、王位継承権第一位となる。
 そうなれば最終的に必然、私はその妃として巨大な権力を手に入れることができる。


 誰にも私の邪魔はさせない。




 この時の私は知る由もなかった。

 あのメイドを選んだことで、既にとてつもない失敗を犯していたということを。
 すべてが根本からひっくり返されるということを。

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