4 / 19
本編
3 (ビリア視点)
しおりを挟む
「消え……た?」
信じられないことが起きた。
さっきまで王子暗殺未遂の犯人として、そこに確かにいたはずの女がいないのだ。
その身体を拘束しようとしていた兵士たちの手が空をきる。
フロア内は混乱の極致である。
「ま、まさか……転移魔法、何故……メイドがこんな魔法を」
その現象を見ていた治癒術師の一人がポツリと呟く。
専門ではないが、他の魔法についてもそれなりに詳しいらしい。
(て、転移魔法ですって?)
少し話は聞いたことがある。
高レベルの空間把握能力、魔力出力量の絶妙なバランス調整が求められ、その扱いの難しさから、殆ど使い手のいない禁呪と呼ばれる魔法。
一歩間違えば、転移先の壁や土の中に埋まってしまったり、空から急降下して即死することもある。
転移魔法は理論的には可能でも、実行にはとてつもない勇気が必要。
一見便利そうだが、宮廷魔術師の誰もがその魔法の危険性から習得を諦めている。
極めれば移動距離の超短縮ができるが、リスクを考えれば、多少時間がかかっても、身体強化魔法で走る速度を上げたりする方がまだいいとのこと。
まさか、転移魔法で逃げるなんて。
というか、何故そんな魔法の使い手がメイドなどをしているのか?
意味がわからない。
あのメイドの経歴は調べさせてある。
見たところ特に不自然な点はなかったはずだ。
孤児で家族もおらず、色々とこちらで演出しやすい点から、キルリー王子毒殺の犯人として仕立て上げるのが簡単であると判断した。
とはいえ、さすがに転移魔法が扱えるとは、予想もしていなかった。
(まぁ……いいわ)
予想外ではあるけど、計画に大きな問題はないはず。
あのメイドもこんな派手な逃げ方をすれば。自分が犯人だと強調しているようなものだ。
それに、メイドの口から直接犯行を吐かせずとも、その証拠はこちらの方で既に用意してあるのだ。
しっかり準備はできている。
もしかすると、先ほどの転移は、イチかバチかの苦し紛れの転移だったという可能性もある。
だとしたら、今は海の底に沈んでいたとしても不思議ではない。
それに第一王子の方も……。
キルリー王子はまだ死んではいないが時間の問題だ。
この様子ではもっても、三日というところか。
意識が戻るところまで回復することはまずあるまい。
あれは治癒魔法では決して治せない特注の毒だそうだ。
その治癒方法は作った本人にしかわからない。
第一王子キルリーが死ぬば、私の夫である第二王子エリアスが、王位継承権第一位となる。
そうなれば最終的に必然、私はその妃として巨大な権力を手に入れることができる。
誰にも私の邪魔はさせない。
この時の私は知る由もなかった。
あのメイドを選んだことで、既にとてつもない失敗を犯していたということを。
すべてが根本からひっくり返されるということを。
信じられないことが起きた。
さっきまで王子暗殺未遂の犯人として、そこに確かにいたはずの女がいないのだ。
その身体を拘束しようとしていた兵士たちの手が空をきる。
フロア内は混乱の極致である。
「ま、まさか……転移魔法、何故……メイドがこんな魔法を」
その現象を見ていた治癒術師の一人がポツリと呟く。
専門ではないが、他の魔法についてもそれなりに詳しいらしい。
(て、転移魔法ですって?)
少し話は聞いたことがある。
高レベルの空間把握能力、魔力出力量の絶妙なバランス調整が求められ、その扱いの難しさから、殆ど使い手のいない禁呪と呼ばれる魔法。
一歩間違えば、転移先の壁や土の中に埋まってしまったり、空から急降下して即死することもある。
転移魔法は理論的には可能でも、実行にはとてつもない勇気が必要。
一見便利そうだが、宮廷魔術師の誰もがその魔法の危険性から習得を諦めている。
極めれば移動距離の超短縮ができるが、リスクを考えれば、多少時間がかかっても、身体強化魔法で走る速度を上げたりする方がまだいいとのこと。
まさか、転移魔法で逃げるなんて。
というか、何故そんな魔法の使い手がメイドなどをしているのか?
意味がわからない。
あのメイドの経歴は調べさせてある。
見たところ特に不自然な点はなかったはずだ。
孤児で家族もおらず、色々とこちらで演出しやすい点から、キルリー王子毒殺の犯人として仕立て上げるのが簡単であると判断した。
とはいえ、さすがに転移魔法が扱えるとは、予想もしていなかった。
(まぁ……いいわ)
予想外ではあるけど、計画に大きな問題はないはず。
あのメイドもこんな派手な逃げ方をすれば。自分が犯人だと強調しているようなものだ。
それに、メイドの口から直接犯行を吐かせずとも、その証拠はこちらの方で既に用意してあるのだ。
しっかり準備はできている。
もしかすると、先ほどの転移は、イチかバチかの苦し紛れの転移だったという可能性もある。
だとしたら、今は海の底に沈んでいたとしても不思議ではない。
それに第一王子の方も……。
キルリー王子はまだ死んではいないが時間の問題だ。
この様子ではもっても、三日というところか。
意識が戻るところまで回復することはまずあるまい。
あれは治癒魔法では決して治せない特注の毒だそうだ。
その治癒方法は作った本人にしかわからない。
第一王子キルリーが死ぬば、私の夫である第二王子エリアスが、王位継承権第一位となる。
そうなれば最終的に必然、私はその妃として巨大な権力を手に入れることができる。
誰にも私の邪魔はさせない。
この時の私は知る由もなかった。
あのメイドを選んだことで、既にとてつもない失敗を犯していたということを。
すべてが根本からひっくり返されるということを。
0
お気に入りに追加
4,780
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
グレイス=アフレイドは男爵家の一人娘で、もうすぐ十六歳。
傍にはいつも、小さい頃から仕えてくれていた、フレン=グリーティアという従者がいた。
グレイスは数年前から彼にほんのり恋心を覚えていた。
ある日グレイスは父から、伯爵家の次男・ダージル=オーランジュという人物と婚約を結ぶのだと告げられる。
突然の結婚の話にグレイスは戸惑い悩むが、フレンが「ひとつだけ変わらないことがある」「わたくしはいつでもお嬢様のお傍に」と誓ってくれる。
グレイスの心は恋心と婚約の間で揺れ動いて……。
【第三回 ビーズログ小説大賞】一次選考通過作品
エブリスタにて特集掲載

瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜
瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。
ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。
何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話
小説家になろう様でも掲載しております。
(更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる