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「うわああああああああん!」
「……お、お嬢様」
何故私が泣いているのか。
事情を知らないトーニャにはきっと理解できなかっただろう。
それでも嫌な彼女は顔一つせずに、泣き止むまでずっと私を抱きしめてくれた。
泣き続けて十分後。
どうにか落ち着きを取り戻す私。
「もう、大丈夫ですか、クラリスお嬢様?」
「うん、貴方のおかげで」
「ふふふ……そうですか、それならよかったです」
にこりと微笑むトーニャ。
それから私は、現状確認をするためにトーニャに色々と尋ねた。
まずはガイゼルお父様の現在のこと。
聞いた時、トーニャは少し怪訝な顔をしていた。
まだ物忘れする年じゃないので、当然の反応だが、強引に誤魔化しておいた。
お父様は王国の竜騎士団長を務めており、年の半分以上は仕事で王都にいる。
少しタイミングが悪かった。
すぐに会えなくて残念だ。
でも、無事に生きているならそれでいい。
現在の正確な時系列もわかった。
私は今六歳で、あと一か月すれば王都の学園に入学するようだ。
焦らずとも、その時にお父様と会える。
二百年耐え続けたのだから、一月待つぐらいなんてことはない。
懐かしさも混じり、話題が尽きることはなかった。
トーニャと色々と雑談していると。
ぐううぅ……とお腹から可愛い音がした。
「う」
「あらら」
さっき全力で泣いたせいか、お腹が減ったようだ。
恥ずかしくなり顔を赤くする私。
もうすぐ夕食の時間なので、続きの話は食事しながらすることに。
トーニャの手に引かれ、食堂へと移動する。
地元で取れた食材をふんだんに使ったメニューがずらりと食卓に並ぶ。
誰かと一緒の久しぶりの食事に心が躍る。
「トーニャ、今日は一緒に食べましょう」
「……え、で、ですが私は……」
「いいじゃない、偶には……」
私の提案を受け、遠慮がちに空いた椅子を見つめるトーニャ。
貴族令嬢と使用人が一緒の食事をとるなど通常はあり得ないが……。
「大丈夫よ、父様だって似たようなことしているもの……」
私は知っている。
屋敷に戻って来た時、家臣団と夜中二人で酒盛りをしているのを。
だから私のことはどうこう言えないでしょう。
まぁ、あの豪胆な性格のお父様のことだ。
一緒に食事をしても気にしないと思うけどね。
おずおずと椅子に座るトーニャ。
最初こそぎこちなかったが、徐々に状況に慣れきて、会話もはずんでくる。
昨日何があったのか、天気の話だとか、そんな当たり前の話ができるのがたまらなく嬉しい。
そして食事が終わり、椅子を立とうとしたところで。
「トーニャ、今夜は一緒に寝てもいい?」
「……え?」
意外な発言だったのかもしれない。
ず、随分間があった。
トーニャは困惑しているようだ。
外見幼女、中身は二百歳越えの老婆。
そんな私だけど、今日だけは誰かと一緒に眠りたかった。
起きたら今見ていることがすべてが嘘になってしまいそうで、怖かった。
生きている証を、誰かの体温を傍で感じたかった。
「今日は随分と甘えん坊なんですね、クラリス様は……」
「そ、そうかな、そそそ、そんなことはない思うけど」
どもる私。はっきりと言われてしまった。
トーニャもかなり戸惑っている。
「だ、駄目……かな」
「……う」
メイド服を掴み、私が上目遣いをすると口元を押さえるトーニャ。
「……か、可愛すぎる、なんで天使が地上に降臨しているのでしょう?」
「トーニャ?」
「あ、ああいえ、申し訳ありません」
ぶんぶんと首を振るトーニャ。
「ふふ、お嬢様にそんな泣きそうな顔をされたら、このトーニャ、断れませんよ」
「トーニャ、ありがとう」
「はうっ」
私を安心させるように、にこりとほほ笑むトーニャ。
何故か心臓を押さえながら……。
そのまま先に私室へと戻る私。
仕事を片付けたトーニャが約束通りにやってくる。
部屋の灯りを消し、月明かりだけが頼りの部屋で、姉妹のように並んでベッドに仰向けになる。
顔だけ互いの方向を向きながら……。
「あの、お嬢様……今日は何か、あったのですか?」
「何もないわ。ただ、ちょっとだけ……永遠のように長くて、怖い夢を見ていたの」
さすがに過去のことは言えないしね。
怖い夢を見ていた。
子供がベッドに潜り込む、よくある理由だ。
「そう、ですか」
ぎゅっと私の小さい体を抱きしめるトーニャ。
「不謹慎かもですが、私は少しだけ嬉しいです」
「え、な、なんで?」
「最近のお嬢様は甘えてくれなくて、ちょっとだけ寂しかったです。子供が変に大人ぶ……いえ、なんというか」
いや結構アウトだからね、その言葉。
確かに昔の私はかなり、いやほんの少しツンツンしていた。
素直に家族に甘えられない性格だった気がする。
変にませていたというか、なんというか……。
「だけど……どうしてでしょうか、素直に甘えてくる今日のクラリス様はいつもより、どこか大人に見えます」
「……こ、子供だよ、私は」
「ふふ、わかっていますよ。ただ、なんとなくそう思っただけですから」
壊れ物を扱うように優しくトーニャに髪を撫でられる。
慈愛の瞳で私を見つめるトーニャ。
この笑顔を守るために、悲劇を繰り返さないために。
今度は私が彼女たちを守れるようにならないとね。
その日。
私は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
「……お、お嬢様」
何故私が泣いているのか。
事情を知らないトーニャにはきっと理解できなかっただろう。
それでも嫌な彼女は顔一つせずに、泣き止むまでずっと私を抱きしめてくれた。
泣き続けて十分後。
どうにか落ち着きを取り戻す私。
「もう、大丈夫ですか、クラリスお嬢様?」
「うん、貴方のおかげで」
「ふふふ……そうですか、それならよかったです」
にこりと微笑むトーニャ。
それから私は、現状確認をするためにトーニャに色々と尋ねた。
まずはガイゼルお父様の現在のこと。
聞いた時、トーニャは少し怪訝な顔をしていた。
まだ物忘れする年じゃないので、当然の反応だが、強引に誤魔化しておいた。
お父様は王国の竜騎士団長を務めており、年の半分以上は仕事で王都にいる。
少しタイミングが悪かった。
すぐに会えなくて残念だ。
でも、無事に生きているならそれでいい。
現在の正確な時系列もわかった。
私は今六歳で、あと一か月すれば王都の学園に入学するようだ。
焦らずとも、その時にお父様と会える。
二百年耐え続けたのだから、一月待つぐらいなんてことはない。
懐かしさも混じり、話題が尽きることはなかった。
トーニャと色々と雑談していると。
ぐううぅ……とお腹から可愛い音がした。
「う」
「あらら」
さっき全力で泣いたせいか、お腹が減ったようだ。
恥ずかしくなり顔を赤くする私。
もうすぐ夕食の時間なので、続きの話は食事しながらすることに。
トーニャの手に引かれ、食堂へと移動する。
地元で取れた食材をふんだんに使ったメニューがずらりと食卓に並ぶ。
誰かと一緒の久しぶりの食事に心が躍る。
「トーニャ、今日は一緒に食べましょう」
「……え、で、ですが私は……」
「いいじゃない、偶には……」
私の提案を受け、遠慮がちに空いた椅子を見つめるトーニャ。
貴族令嬢と使用人が一緒の食事をとるなど通常はあり得ないが……。
「大丈夫よ、父様だって似たようなことしているもの……」
私は知っている。
屋敷に戻って来た時、家臣団と夜中二人で酒盛りをしているのを。
だから私のことはどうこう言えないでしょう。
まぁ、あの豪胆な性格のお父様のことだ。
一緒に食事をしても気にしないと思うけどね。
おずおずと椅子に座るトーニャ。
最初こそぎこちなかったが、徐々に状況に慣れきて、会話もはずんでくる。
昨日何があったのか、天気の話だとか、そんな当たり前の話ができるのがたまらなく嬉しい。
そして食事が終わり、椅子を立とうとしたところで。
「トーニャ、今夜は一緒に寝てもいい?」
「……え?」
意外な発言だったのかもしれない。
ず、随分間があった。
トーニャは困惑しているようだ。
外見幼女、中身は二百歳越えの老婆。
そんな私だけど、今日だけは誰かと一緒に眠りたかった。
起きたら今見ていることがすべてが嘘になってしまいそうで、怖かった。
生きている証を、誰かの体温を傍で感じたかった。
「今日は随分と甘えん坊なんですね、クラリス様は……」
「そ、そうかな、そそそ、そんなことはない思うけど」
どもる私。はっきりと言われてしまった。
トーニャもかなり戸惑っている。
「だ、駄目……かな」
「……う」
メイド服を掴み、私が上目遣いをすると口元を押さえるトーニャ。
「……か、可愛すぎる、なんで天使が地上に降臨しているのでしょう?」
「トーニャ?」
「あ、ああいえ、申し訳ありません」
ぶんぶんと首を振るトーニャ。
「ふふ、お嬢様にそんな泣きそうな顔をされたら、このトーニャ、断れませんよ」
「トーニャ、ありがとう」
「はうっ」
私を安心させるように、にこりとほほ笑むトーニャ。
何故か心臓を押さえながら……。
そのまま先に私室へと戻る私。
仕事を片付けたトーニャが約束通りにやってくる。
部屋の灯りを消し、月明かりだけが頼りの部屋で、姉妹のように並んでベッドに仰向けになる。
顔だけ互いの方向を向きながら……。
「あの、お嬢様……今日は何か、あったのですか?」
「何もないわ。ただ、ちょっとだけ……永遠のように長くて、怖い夢を見ていたの」
さすがに過去のことは言えないしね。
怖い夢を見ていた。
子供がベッドに潜り込む、よくある理由だ。
「そう、ですか」
ぎゅっと私の小さい体を抱きしめるトーニャ。
「不謹慎かもですが、私は少しだけ嬉しいです」
「え、な、なんで?」
「最近のお嬢様は甘えてくれなくて、ちょっとだけ寂しかったです。子供が変に大人ぶ……いえ、なんというか」
いや結構アウトだからね、その言葉。
確かに昔の私はかなり、いやほんの少しツンツンしていた。
素直に家族に甘えられない性格だった気がする。
変にませていたというか、なんというか……。
「だけど……どうしてでしょうか、素直に甘えてくる今日のクラリス様はいつもより、どこか大人に見えます」
「……こ、子供だよ、私は」
「ふふ、わかっていますよ。ただ、なんとなくそう思っただけですから」
壊れ物を扱うように優しくトーニャに髪を撫でられる。
慈愛の瞳で私を見つめるトーニャ。
この笑顔を守るために、悲劇を繰り返さないために。
今度は私が彼女たちを守れるようにならないとね。
その日。
私は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
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