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「はは…………ははは」

 松明の灯りが揺らめく、埃舞う薄汚れた地下空間の中。
 皺だらけの老婆の枯れた笑い声が響く。

(長かった……本当に)

 つつ……と。
 潤いを失くしたカサカサの肌に涙が伝い落ちる。

 ここは私以外に誰もいない海の孤島。
 何故、一人でこんな辺鄙極まる場所にいるのか?

 それは私、クラリス=ミドガルが十八歳の時。
 ミドガル辺境伯家が王国で起きた大災害(魔物暴走)の責任を取らされたからだ。
 父は処刑され、私は島流しにされた。

 何百年に一度という規模の魔物の大氾濫。
 それは、ミドガル辺境伯領の大森林を起点に発生した。
 十を超える街を滅ぼした大量の魔物によるスタンピード。
 全力で抗ったが、魔物の氾濫は私たちにはどうにかできる規模ではなかった。

 それは王家も理解していた。
 だが大切な家族を、生活を失った民は納得しない。
 家を失い飢えて倒れる民たち。王国中で暴動が起きようとしていた。
 どうしても、誰かが責任を取らねばならなかった。
 王家は災害発生地である父に責任を押し付けて、民の怒りを鎮めることに決めた。

 王家としても苦渋の判断だった。
 それはわかっている、理解はしている。
 だが……納得できるほど、私は大人じゃなかった。
 何故私たちだけが貧乏くじを引かねばならないのかと、毎日世界を恨んだ。

 ミドガル公爵家は取り潰された。
 父は処刑され、私は一生を島で孤独に過ごし、そして……死ぬ。
 
 そうなる……予定だった。

 しかし、ほんのわずかだけ私には運が残っていた。
 ここはかつて存在した古代王国が、極秘実験を行っていた場所。
 私が送られたのはそんな島であり、地下施設を見つけたのは本当に偶然だった。
 発生した巨大地震をきっかけに、地下への穴が島で見つかったのだ。

 行われていた実験内容だが。
 数万単位の人間を犠牲にすることで魔神を呼ぶ召喚魔法。
 浴びるほどの魔力を人体にそのまま注ぎこむことによる人体強化実験。
 非人道的な実験や禁忌的な魔法が大半だ。
 まぁそのいずれも開発途中で頓挫する形となったようだが……。

 永久魔力機関の開発実験中。
 魔力蓄積装置の暴走により島で大爆発が起き、地上施設の殆どは崩壊。
 以降は誰も使用しない孤島となったことが、調査の結果判明する。

 島に引きずり込む激流は中に入れても、一度入れば外には出られない。
 かといって、人間は空を飛ぶことなどできない。
 近くの森に食べられる植物や小動物などはいるが、こんな環境でか弱い女が長く生きられるはずもない。 

 あれから二百年。
 生きてこられたのは、本当に執念だった。

 何もできないまま、無念のまま死んでなるものかという……ただそれだけ。
 辛かった、本当に苦しかった。
 ここまで何度も泣きたくなった。

 だけど……もういい。

 こうしてやり直す機会を獲得できたのだから……。

「ついに完成したのよ、究極の魔法、時空魔法が……」

 歴史を書き換える禁断の魔法。
 爆発で吹き飛んだ島だが、地下資料は消滅せずに残されていたのだ。
 運良く私はそれを見つけることができ、その中に記されていた一つである時空魔法に興味を抱いた。
 記載されていたのは、まだ未完成のものだった。
 しかし二百年の時を経て、実現不可能かと思われるそれを私は完成させた。

 さぁ全部消えてもらうとしようか・・・・・・・・・・……。

 私はこれから過去に戻る。
 ようやく、やり直せる。
 楽しかった少女時代から……。

「こんな理不尽な世界いまは……もう要らない」

 老婆がそう呟くと同時に世界中が白く染まった。
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