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1章 10歳

番外編 私が見ていたものは side結衣

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――――――義姉が死んだ...死んでしまった...私のせいで。


呼んでも呼んでも答えない、呼んでも呼んでも義姉は何処かを見ている。

いつもそうだった。
話しかけてもらっても、笑いかけてもらっても、義姉の瞳に私は映ってはいなかった。
そして、義姉もまた同じだった。

実の両親であるのにもかかわらずあの人たちは、義姉を、実の娘である義姉を見てはいなかった。
義姉の利用価値のある道具として、その先にある未来を見ていた。



それに気が付いたのは義姉が死んだ後だった。




義姉は笑っていた、楽しそうに...それが羨ましくて仕方なかった。
最初は義姉が出来たことがとても嬉しかった。

両親が死んだ悲しみも、引きずるように私を連れてきた嫌な義姉の両親さえもどうでもよくなるくらいに...それだけ義姉は私を可愛がってくれた。


大好きだというゲームについて語っている義姉は生き生きとしていてこの息苦しい家でさえも照らす太陽の様な存在だった。


だからそんな義姉の笑顔を奪っていた両親が憎かった。


でも、そんなこと、あの頃の私にはどうでもよかった。


私は、あの太陽のような義姉をいつしか妬み始めていた。
優しい両親に愛情を注がれ笑顔をこぼす義姉、養子にしておいて見向きもしな義両親。

義姉を誉め、私を蔑む者たち。


何もかも私に苦痛を与えた。



いつしか私と義姉の間には大きな溝が出来ていた。
それを悲しむ義姉を見て、私の心は愉悦で埋まっていく。

義姉が私のために送ってくれたノートも、誕生日に送ってくるプレゼントも何度も何度も切り刻んで捨てた。

なのに、私はなにか大事なことを見落としているようで、不安になった。
それが何なのか分からなかった私は、もっと義姉を苦しめてやろうと義姉の嫌がらせを企んだ。

柊家を目の敵にする者たちに近づき、私は計画を進めた。

けれど、それは成功することはなかった。

学校側に見つかってしまったのだ。

そして、そんな私は、馬鹿なあいつらの尻拭いとして退学処分。

成功する筈だったのに...馬鹿なあいつらは私の足を引っ張た。その結果が退学処分。






もう何もかもがどうでもよくなった。


だから両親のもとに行こうと、私は夕方の交差点まで足を運んだ。


なのに...なのにっ...義姉が死ぬなんて思いもしなかったっ...!!


あんたが死んだら私はどうなる...!

そんなの捨てられるに決まってるでしょっ...!
あんたを陥れるために画策して、おまけに退学処分...そんなのあいつらが許すはずないでしょう...!?なんの利用価値もない、必死に勉強して義姉の通う学校に編入しても下から数えた方が早い順位。





だからお願い死なないでよ...!(私のために...っ!)

置いてかないでよ...!(このままだと捨てられる...っ!)

お願いだから目を開けてよ...!(また私から目を背けるの...!?)


それでも、必死に呼びかけても、義姉が目を開けることはなかった。







それからはもう、私に義姉殺しのレッテルが張られ、同時に養子の縁組が破棄される話が流れ始めた。そして義姉の葬式が終わると同時に私も柊家の養子から外された。


当然だと思った。

あんなことをして、そして大事な娘を死なせてしまったのだから。

でも、私が少しのお金を投げられて家から追い出されるとき、あいつらは言った。


「結局はあいつも役立たずだ、あれだけ好きに遊ばせて学校にも通わせてやったというのにこのざまだ...いったい誰に似たんだか、わったく恥さらしな奴だ...あんなのが娘だと思うと虫唾が走る...おい、お前も早く私の前から消えろ、あの頭だけしか取り柄のない屑な男の娘だからと引き取ったというのに、使えない...はぁ、まったく何故私の周りには屑しかいないんだ...」


聞き間違いかと思った。

だって、義姉は幸せそうだった、だから愛されているのだと、だから幸せそうに笑っていたのだと思って、いたのに...。


「そんな...」


これじゃぁ私は...。


「なんのために...」


こんな...。




そんな風に考えにばかり夢中になっていたからだろうか、目の前に迫る車に気付きもしなかった。






「私はいったい、義姉の何を見ていたんだろう...」


赤く染まる視界が涙で塗りつぶされる。


ごめんなさい...義姉様。

私、あなたのやさしさに全然気付いてなかった。
辛かったはずなのに、それでもちゃんと、私を愛していてくれたんですね...。

死ぬ間際になって分かるなんて、義姉が死んでからそのことに気付くなんて...。



「わたしは...な、んて...ばか、なの...」


空がぼやける。

それでもそんな空が、あのゲームの話をしているときにだけ見せる義姉の笑顔を思い出させて、同時にそんな義姉をぼやける視界がまるで本当の義姉を見ていなかった私の様で...酷く悲しくなった。



神様どうか、私にやり直す権利をくださるのならどうか...義姉がいる世界に連れて行ってはくれませんか?


私に、一度だけでもいい...義姉に謝る権利をくださいませんか...?


そんな叶うかも分からない小さな望みを胸に、私は息を引き取った。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

次回から2章に入ると同時に攻略キャラ度々出てきます。
お読みいただきありがとうございました。
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