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1章 10歳
友達と言う名の戦友ができました 2
しおりを挟む目の前には光り輝く陣と、その中心に倒れ伏す美青年。
その情報を飲み込むのに幾ばくかの時間を要したが、なんとか理解することができた。
取り合えず落ち着こう、まずはそれからだ。
まず召喚は成功、でいいのかな?
そして精霊というのはあの青年ことなのでしょう。
ただ、何故彼は怪我を?
というか怪我って、すぐに手当てしないとだめじゃない!何してるのよ私は!
自分を叱責しながら私は急いで蹲って苦しそうに唸る青年へと手を伸ばし、回復魔法(中)をかけた。
「回復」
腕や顔の擦り傷や火傷の様な傷は消えたものの、お腹から流れる血は止まらなかった。
なので先ほどよりも一段階上げた回復魔法(上)を行使する。
「回復」
するとお腹の傷は塞がり、苦しそうに眉を寄せていた青年は表情を和らげ寝息を立て始めた。
「はぁ...」
よかったぁ、回復魔法なんて始めて使ったからうまく治せるか自信はなかったけど、無事に回復出来てよかった~。
安心した私は改めて青年を観察した。
さっらさらのエメラルドグリーンの髪にこれまたさらさらでばっさばさの睫毛、瞳の色は閉じられていて分からないけど、これだけ綺麗な顔をしているのだからきっと綺麗な色をしているだろう。
それと、血濡れた服。
どこか中国の漢服を彷彿とさせる服装はこの青年にとても似合っていた。
その衣服も怪我によって所々破けており、血が染み込んでいる。
なので重ね掛けで「清爽」「修復」を唱え、血濡れた服を綺麗にしてから破けた部分をもとの綺麗な状態に修復してあげた。
だがしかし、私はこの青年を、否、この青年の下で今だに輝いている召喚陣がいつまで経っても消えないことに少々焦り始めていた。
やばいやばいやばい、只でさえ本当に成功するとは思ってなかったし、しかもこんな傷だらけの精霊が出てくるなんて知らなかったし、それにそれに何時まで経っても陣が消えないなんて知らなかったしいいぃぃぃ!!
どうしようどうしよう、このままだとリリスが帰ってきちゃう、その前までにこの青年を送還しなければ、でもいやこんな病み上がりの青年を送り返すなんてできない、というかこんな傷を負うくらいあちっ側で何かあったってことだろうし、送還できたとして果たしてこのまま返してもいいのだろうかっ!!!
あーーーもーーーどうしようーーーー!!
誰か助けてーーーーー!!
「うっ...」
あら?
どうやら私が頭の中で暴れまわっている間に、精霊さんが起きたようだ。
よし、取り合えずこの陣だけは消してもらおう、話し合いはそれからだ。
さぁ起きたまえ青年!
「女神...様?」
え?...女神?
それって私のことですか?
起きて早々第一声がまさかの女神さまですか。まぁ私は可愛いからな!
ただ君、この召喚陣の輝きに騙されているんじゃないかい?
私が陣に照らされて光ってるから...。
はッもしや目に傷が?
私ってばちゃんと回復かけられてなかったんじゃ...。
あの、お目目は大丈夫ですか?
もしかして眼球にも傷があったりします?お直ししましょうか?
私は回復魔法をかけようとどうやら目に傷があった青年に手を伸ばした。
ただ、青年のその吸い込まれそうな程に綺麗な水色の瞳を覗見た瞬間、私はフリーズした。
嘘、でしょ...。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「...」
「あの...」
青年が私の顔の前で手をパタパタと振っているが、私はそのあまりの衝撃に頭痛を覚え、バタリと倒れてしまったのだった。
◇ ◇ ◇
「義姉様~、無事にエンディングに辿り着きました~!!」
「まぁ本当っ!?良かったわね!」
「はい!...それでなんですけど、義姉様と語ろうと思って、お菓子持ってきちゃいました~!」
「ふふふ、あなたも随分と沼に嵌ってしまったようね...いいでしょうっ、今日は徹夜で語り合うわよ!!」
「はい!義姉様!」
頭ががんがんする。
この光景を思い浮かべると酷く苦しくなるのに、どうにも目を逸らせそうにない。
それにこれは紛れもない前世の私、ただ私の傍で笑っているこの少女が誰なのか、メルを攻略出来て喜ぶこの少女が誰なのか、いくら考えても分からない。
私はその光景を只々見ていた。
けれど映像が途切れるまでいくら考えても、やっぱり少女が誰なのか分からなかった。
◇ ◇ ◇
「...んっ」
夢の感覚から覚めると、近くで誰かの声がした。
「あの...!、大丈夫!?」
ゆっくりと瞼を持ち上げると、絶世の美青年が...いや、メルがこちらを心配そうな目で見ていた。
「...メル?」
思わず呟くと、目の前の美青年の顔に驚きの表情が浮かんだ。
「え?...ねぇ、僕たちってどこかで会ったことあったっけ...?」
「...いいえ...ありません」
「じゃぁなんで...」
なんで...?
そんなの私が聞きたい。私は確かに興味本位で召喚してしまったけど、まさか、まさかね!ヒロインと契約するはずのメルが出てくるなんて思ってもなかったのよ!
それに、何故に攻略対象!嬉しい、正直とっても嬉しいのだけど、私はノア様以外の攻略対象とはなるべく関わらないようにしようと決めていたのに!まさかメルを召喚してしまうなんて!
くっ、口から血が出そう。耐えられない、もしこれが原因でノア様になにか悪影響を及ぼしてしまうかと思うと胃が持たないっ!
胃薬、胃薬はないかしら...。
そう思ってむくりと起き上がろうとしたら、私の今の態勢がおかしいことに気付いた。
「君、まだ動いちゃダメだよ。只でさえ僕の傷を治すためにあれだけの魔力を使ったんだ。お願いだからもう少しゆっくりしてて」
そう言って、頭をトンと押して、そのまま髪をなでなで。
なでなで...?
「えぇ...!?」
私は恥ずかしさの余り勢いよく起き上がった。
そして案の定メルのおでこに私の頭がクリティカルヒット。
「ったぁ~!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
「もぉ!、起き上がっちゃダメって言ったよね??僕の話聞いてた?」
「き、聞いていましたとも...」
た、ただ、まさか、こんな美青年が私に膝枕してるなんて、耐えられるはずがないでしょうっ!?
「や、やっぱり無理です!」
「え!?そんなに起きていたいの?」
「そういう事じゃないです!!」
「じゃぁどうして?、あ、もしかして膝枕のせい?」
「...」
「図星か~あははっ」
ちょ、笑うなっ!
しょうがないだろ、前世含めて男性に、それもこんな美青年に膝枕なんてしてもらったことがなかったんだから!
そう思ってメルを睨みつけるとメルはまた笑って、ごめんごめんと謝った。
そしてふぅ~と笑いを抑えるように息を吐きだすとゆっくりと立ち上がり、私の前にゆっくりと跪いた。
「いったい何を...」
その光景に急にどうしたのかと首を傾げると、メルは顔を上げ、先ほどの柔和な表情が嘘の様な真剣な瞳で私を見た。
綺麗な宝石のような瞳に私を映す。
静寂が支配する部屋に、透き通るような美声が響いた。
「お名前を、教えていただけますか」
え、こんなに溜めておいて名前?
別にいいけど...そう言えば自己紹介がまだだったなと思い、私は口を開いた。
「私は、マリージュア・グレースです」
ただ名乗っただけなのに、メルは何度も私の名前を小さく呟きと嬉しそうに笑った。
そしてその嬉しそうな表情のままメルは口を開いた。
「...マリージュア様、お名前を教えていただきありがとうございます。僕はメル、これから末永くよろしくお願いいたします、主・様・」
へ?
「...は、はぃぃ?」
呆ける私をよそに、メルはそれはそれは美しく微笑んだのだった。
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