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1章 10歳
情報を整理をしましょう 1
しおりを挟む私、マリージュア・グレースは、前世の記憶を持っている。
と言ってもつい最近思いだしたばっかりだけど。
きっかけは階段から落ちて頭に強い衝撃が当たったこと、だと思う。
私付きの侍女のリリスが慌てて駆け寄ってくるのを眺めながら、私の頭は怒涛の勢いで情報と映像が走馬灯のように流れていた。
日本と言う国で暮らしていたこと。
名家の長女で愛されずに育ったこと。
『乙女ゲーム』というものにのめり込むようにプレイしていた廃課金プレイヤーだったこと。
そして、恐らくだが何かを助けるために命を落としてしまったこと。
流れてくる映像は一見初めて見るもの様で、私の中にいるもう一人の私がそれを良く知っていた。
目が覚めるとそれは謙虚に表れていて、まるで今まで解けなかった謎が解けてスッキリしたという気分で目が覚めたのだ。
だがそんな気分のいい私とは裏腹に、ベットから起き上がってペタペタと頬や頭を触っていたりしたらすっかり老け込んでしまったような顔のリリスが部屋に入ってきて、私は心底びっくりしたのだった。
気になってリリスに(さり気なく)「何だか気分が悪そうね?」と聞いたら、リリスはカッと目をかっぴらいて私に説教をし始めたのだ。
リリスによると、階段から落ちた私は3日も目を覚まさず、あろうことかそこから高熱を出し始めて1週間寝込んでいたのだとか。
(道理でお腹がすいているわけね...)
まぁそんな感想は置いておいて、ここまで心配するリリスを見て私も心苦しかったため「心配をかけて本当にごめんなさい、それとありがとうリリス」と言ってあげたらリリスは滝のように涙や鼻水を流しながら「本当でございばず~もうごんなごどはなざらないでくだざいね~!!」と抱き着きながら必死に懇願してきたのだった。
酷かったのは私の家族で、1日中泣きながら私を放してくれなかった。
熱が収まってスッキリした私は前世の記憶についていろいろと考えを巡らせた。
そして私はある事実に気づいたのだった。
まず一つ目は、マリージュア・グレースという私の名前。
二つ目は私の容姿である。
記憶が戻る前から私はこの二つについて常々違和感を覚えていたのである。
それもそのはず、ここが乙女ゲームの世界であったから。
しかもここは私が3年間も欠かさず情熱を注いでいた『王宮帝華‐君に出会って恋を知る‐』の世界だったから。
つまりはそのゲームに登場するキャラたちの中に悪役令嬢として私が居たからである。
私はその事実に少なからず絶望した。
それもそのはず、ゲームのマリージュアは高飛車傲慢令嬢で、一見儚く見える容姿に反してキッツイ性格をしていたからだ。
世間では「白蝶の女神」などともてはやされていたが、マリージュアの性格を知った者たちは一切「白蝶の女神」などと口にしなくなったのである。
また、この悪役令嬢は特殊で、ヒーローが体裁を加えずとも勝手に自滅してくれるのである。
マリージュア・グレースは、編入してきたヒロインに数々の嫌がらせ、嫌味、酷い時には魔法で攻撃したり令嬢にあるまじき行為を平気でやる。
それもすべては婚約者のため。
マリージュア・グレースは嫉妬心が人一倍強いキャラであり、嫉妬に狂ったマリージュアは婚約者からの愛を取り戻すためにヒロインを陥れるのである。
しかし、そんな暴挙が許されるはずもなくマリージュアは国外追放となる。
が、しかし、ここからがこの悪役令嬢の特殊と言われている理由で、なんと追放されたマリージュアは呪いによって灰になって消えるのである。
ゲーム上ではヒロインが「マリージュア様は魔女だったのでしょうか...」と呟くシーンがあって、そこにヒーローが「分からない、ただ私たちは助かった、それでいいんじゃいか?」などのセリフがあったのである。
でも今ならはっきりわかる。
何故なら私がそのマリージュアだから。
マリージュアは魔女なんかじゃない、マリージュアは祖先のやらかしつけを押し付けられた被害者だったのだ。
――――成人の18歳までに初恋を実らせないと灰になって消えてしまう。
そんな呪いが私にはかけられていた。
だから両親や兄は必要以上に私を心配するし、お父様の休暇が取れた日にはみんなでお出かけをしていた。それもこれもすべては死んでしまう前に良い思い出を。という家族の方針という名の愛情だったからだ。
だから私は絶対18歳になるまで死ねないし、逆に18歳になってしまったら死んでしまう。
私はそんな自分の境遇を呪った。
幸い、前世の影響でゲームのようなわがままっ子に育ったわけではなく、至って温厚な性格で育った。もし記憶を思い出す前の性格がゲームのようなキャラだったら流石に両親や兄が可哀そうだ。
だから本当に良かった。
と、感傷に浸るのはそろそろやめてっと。
ぃよっしゃあああぁぁぁぁぁ!!!
私心の中で奇声を上げながらベットの上で暴れまわった。それはもう大暴れだった。
だって、だってここはあのゲームの世界なのよ!!喜ばない方がおかしいわ!
たとえ私が悪役令嬢に転生していても、そんなのどうでもよくなるくらい嬉しい!
だって、だってっ、ここには、この世界にはノア様がいるのよ!!
私の推しがっ、私の推し様がいる世界なのよ~!!
なんということなの!!まさかノア様と同じ世界で生きられるなんて...!
はッ!ということは同じ世界の空気を私たちは吸っている...!?
なんていうことっ!!
神様ありがとう、推しの世界に転生させてくれてありがとう、推しと同じ空気吸わせてくれてありがとうッ!!悪役令嬢に転生させたのは怒るけどそれを差し引いても嬉しさしかないわ神様ありがとう!!
そうやってうれし涙をうかべてベットの上で暴れまわり、耐えきれなくなって布団をバッサバッサし始めたらリリスに無理やり抑え込まれてしまった。
その際リリスはまるで珍獣でも見るかのような視線を送ってきたのすぐさま部屋から退場いただいた。
それを確認した私は興奮冷めやらぬまま急いでベットから降りると、机のもとまで走って行き、引き出しからノートとペンを取り出して乙女ゲームの情報をまとめ始めたのだった。
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