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エピローグ
追憶
しおりを挟むミアの居場所を聞いただけで、ミアが何をしに家を出たのかが分からないまま私は馬を走らせていた。
一体、どうしてこんなことに...
気持ちを伝えると意気込んできたものの、まさかこんな事態になっているとは知らず、昂っていた気持ちが今は嘘のように萎んでしまった。
だが、恐らくあのままでは上手く雰囲気を作れず失敗していたはずだ、だからまぁこんな事態になって冷静さを取り戻せたのでミアには感謝しよう。
それでだ、と馬を走らせながら情報を整理しようと一息つく。
先程の使用人らしき男から聞いた話では、朝方の5時くらいに馬小屋に行くと、ミア付きの使用人が馬の準備をしていたと言う。そしてその傍にはミアもいたようだった。2人は何やら話していたがそれは直ぐに終わり、程なくして馬車は走り出してしまったようだった。
そこまで聞いて分からない私ではない、隠れて出ていくぐらいだ、きっと知られてはまずいことに違いない。
そして、朝に出たことからここからでは時間がかかるのだろう。
だが、それは馬車だからであって馬で行く私には関係ない、今からならまだ間に合うはずだ。
私も夜に早馬でこちらまで来たため、ミアが消えてからまだ数時間程しか経っていないだろう。
そう推測を立て、ミアが無事なことを願いながら私は馬の手綱を強く握った。
日が南の空を通過した頃、私はあの使用人が言っていたひまわり畑にいたどり着いた。
一旦近くにある木の幹へと馬の手綱を括りつけると、馬を置き私はミアを探すべくひまわり畑へと向かった。
あちこちに視線を向けながらミアを探す。
空を見るといつの間にか雲が覆い、青く綺麗な空は今や見る影もない。
このままだと雨が降る、早く見つけなければ...
ふと、遠くの方に目を向けると丘が見えた。
そこにはひまわりに負けない程草花が生い茂っていた。晴れの日に見れば草花が光に照らされ綺麗だっただろうが、曇り空のせいで今はなんだか薄気味悪かった。
それに、なんだか胸騒ぎもする。
なんの感が働いたのか、自然と足は加速して丘を目ざしていた。
だが、丘に近づくにつれ何やら言い争う声が聞こえてくる。
そして、その声の主を確認できたときには......既に遅かった。
「......ミア!!」
私はすぐさま駆け寄り倒れ伏すミアのもとまで駆けて行こうとすると、傍にミアを抱きしめる女がいたことに気づいた。
この女、何を...
そうだ、私は見ていた、この女が......!!
私は左腰に提げた剣を抜き、女の首元に剣の切っ先を向けた。
女は剣を向けられたことに最初、気づいていないようだったが、気配がしたのか女は恐る恐るといった風に後ろを向こうとして、刃を向けられていることに気づき振り向くのをやめたようだ。
心の中は今や言い知れない怒りがドロドロと渦巻いていた。
しかし、この静寂を破るように震えた声で女は口を開いた。
「...あなたは......誰?」
そんなことにいちいち答えられるほど私は心は広くない。それよりも今はミアの手当が先だ。
「......今すぐその子から離れろ」
そう言ったものの、女はミアから離れようとしない。
「...いや!ミリアーナに何をするの!?......私は、私はこのままミリアーナと一緒に死ぬの!!...邪魔しないでよ!!」
そう言って、剣の切っ先を手で掴み自らで押しやった。
女の手からは案の定、血が滴り落ちていた。
私はそれに絶句した。
ミアを刺し、自分も一緒に死ぬという、そして傷つくことも厭わず剣を掴み邪魔をするなと押しやった。
それだけ、この女が本気なのだと、理解させられた。
だが、いくら本気だろうと、私はミアが死ぬなんて耐えられない!折角、この想いを自覚したのに、伝えられないまま、私を置いて死んでしまうなど許さない!
「...お前の我儘で...人を、人の命を殺すな!...どけ!」
ミアを抱きかかえる女の手を無理やり引き剥がし、ミアを女の手から奪うと私は急いで馬のもとへと向かった。
後ろから甲高く喚く声が聞こえたが、私はそれを無視して走った。
向かった先には、1つの馬車が止まっていた。
見れば一人の男がウロウロと馬車の周りを行ったり来たりとしていていて、急いでいる私にはとても邪魔に思えた。
しかし、私が近づいていることに気づいたのか男が反応を見せる。
「ミリアーナ様!!...それに、陛下まで何故ここに!!?」
そう言って男はこちらに駆け寄ってきた。
が、ミアの状態を見て男は顔を青くさせた。
「...ど、どうしたのですか!!...ま、まさか陛下が!?」
「待てっ!...これは私ではない!」
混乱しているせいで、話が危ない方向へ行こうとしていたため急いで訂正し、先程から後ろを付いて走ってくるあの女へと話を逸らした。
「......もしかして、マリー、様なんですか?...こんな酷いことをしたのは!!」
どうやらこの女のことを知っていたようだ。
ただ、ここで揉めるのはやめてもらいたい。
「おい、落ち着くんだ、それよりも今すぐ馬車の準備をしろ!!出血が酷い!!」
そう言われて初めて気づいたのか、腹に深く刺さるナイフに視線を移し顔を青くした。だが、今はそんな場合ではないと切り替えたのか馬車の元まで走っていき扉を開けた。
「..馬車なら既に準備は整っています!お乗り下さい!」
「あぁ、助かる!!」
私は急いで馬車に乗り込みミアを降ろすとあの女へと声をかけた。
「おい女!お前も乗れ!」
「...へ、な、なんでよ!」
「何故こんな事をしたのか、後でじっくり聞かせてもうためだ!そして然る裁きも受けてもらう!!分かったらさっさと乗れ!ミアが死んでしまうぞ!」
最後の言葉が引き金になったのか、女は急いで馬車へと乗り込んできた。
そして私は自分の馬を馬車につけて欲しいと指示を出すと、程なくして馬車が走り出した。
✱ ✱ ✱
身体が、鉛のように重い。それでいて、頭はふわふわとどこか夢見心地でとても不思議だ。
どこか遠くなっていく意識を感じながら、私はただただ暗闇の中にいた。
「...ミア?どうしたの?」
懐かしい声が、耳を掠めた。
これは、お母様?
でも、どうして...
そしてふと、暗闇の視界が歪み、懐かしいあの頃の記憶を映し出した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
2話じゃ終わりませんでした。
なのであと何話で終わるか分かりませんがお付き合いください。
お読みいただきありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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