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エピローグ
後悔
しおりを挟む雨のせいなのか、それとも生命の灯火が消えかけてきているせいなのか、親友の身体は少しずつ体温を失ってきていた。
実際はそんなに時間は経っていないはずなのに、この時間が延々のように感じる。
涙は相変わらず止まらないし、手の震えも止まらない、それでいて私の口は死なないでくれと必死に親友へと呼びかけている。
一体どの口が言っているんだろうかと思う。
_____私が、この手で殺したというのに...
あぁ、このまま私も死んでしまおうか。
家に帰ったところで私に関心を示す者はいない、外から帰ってきた時でさえ誰一人として出迎えてはくれないし、相変わらずあのボロい部屋に直行だ。ご飯になれば1人寂しく覚めたご飯を食べて一日を終える。
そんな毎日の何処に生きる価値があるのか、
もう私には分からない、性格もこんなに壊れてしまったし、もう本当にどうしていいか分からない。
頼りたいのに、誰も頼れる人がいない。
あの時、私だって、親友のマリーだってあなたが気づいてくれたら、「久しぶりね」って笑いかけてくれたら、こんなことになっていなかったかもね。
悪いのは、全部、ミリアーナのせいだよ?
私も悪いけど、そんな悪い私を作ったのは全部全部、ミリアーナのせいなんだから......だから、ね?
......もう、私を裏切らないで。
ふと、首筋にヒンヤリとした感触がした。
私は、ゆっくりと振り返って後ろを確認しようとして、やめた。
「...!!」
「......」
そこには、一人の男が、私の首筋に剣の切っ先を向けていたからだ。
✱ ✱ ✱
2日かけてようやく私は国へと帰ってきた。城門を通り、すぐさま執務室へと直行する。カセドナ王国での件を片付けるためだ。
さて、アイザックはどこだ?
私よりも一足先に帰ったはずだから居るはずなんだが...
主が帰ってきたというのに出迎えもしないから忙しいのかと思って私自ら宰相の執務室まで来てみれば、ここはもぬけの殻、部下までもいないしまつだ。
「いったいどこに......」
バンッ!!!
そこまで言おうとして、私の呟きは勢いよく開けられたドアの音によってかき消された。
「馬鹿野郎ーーー!!!」
そう言って私がよく知っている顔の男はスタスタと早歩きで近づいてくると私の胸ぐらをつかみグラグラと揺すってきた。
「うぐっ...やめろ、アイザック...し、しぬ」
「死ね...!!!...この際だ、俺自らその腐った頭を燃やしてやる!!」
な、何をそんなに怒っているだ此奴は...
それに、死ねって、お前それ不敬罪...
「俺はお前の従兄だ!不敬罪じゃねー!」
なんで考えてること分かったんだ...?
「それより、お前!!」
「あ、あぁ...」
相変わらず胸ぐらを掴まれた状態で問い詰められる。その距離はとても近く、今にも鼻と鼻がくっつきそうだ。
お願いだから離れて欲しい、このままでは...はぁ、やっぱり気持ち悪いから言わないでおこう。
それはいいとして、アイザックは何故こんなにも怒っているんだ?
それよりも早く国王の件を片付けたいんだが、こっちは連行までしてきたというのに。
「この、ヘタレが!!」
急ににどうした、って、ん......ヘタレ...?誰が?
突然の意味のわからない言葉に、ハテナ?と頭にクエッションマークが浮かんだ。
「あそこまで露骨に態度に出しておいて、求婚もせずに帰ってくるなんてヘタレ以外の何物でもないだろー!!!」
きゅう、こん...?きゅ、求婚!?
「はぁ!?」
思ってもみなかった言葉に、私は変な声を上げた。おそらく今私の顔は真っ赤になっている事だろう。
「...本当に、その態度を見るだけでお前がどれだけ初心でヘタレだってことが分かるよ...」
はぁ、と息を吐きアイザックは私を見て呆れた表情を作った。
「さっきから聞いていればヘタレヘタレと...お前も似たようなものだろう!?」
「違いますね、私は陛下がいつまで結婚しないから出会いの場に行けないだけですよ」
そう言ってビシリっと音がしそうなほど鋭くアイザックは指を立て、こちらに指を指してきた。
「好き、なんでしょ?なんでミリアーナ嬢を帰したりなんかしたんですか?ここは求婚して我が国に迎えるべきだったでしょう」
「それは...」
考えてはいた...と言おうとして、やめた。
「あ、好きは否定しないんですね...良かったです」
「何がだ?」
「だって陛下、女嫌いで恋愛から1番遠いとこにいたんですから、好きなんて言葉知らないと思って...」
そう言ってアイザックは残念な子を見るような目で私を見てきた。
相変わらず失礼な奴だな...。
まぁそれはいい...
「...想いを伝えて、相手がその気持ちに答えられないとして、そのあと私はどうしたらいい?それに、私は今ミアと離れたことで漸くその気持ちを自覚したんだ、どの道遅かった。」
「だから、仕方ない...って?」
「......」
いつもの態度が嘘のように、アイザックは真剣な目でこちらを見てきた。
その視線に、その言葉に返せるものがなく、押し黙る。
「これじゃ......」
「......」
「私がいき遅れになってしまう!!!」
「.........はあぁ?」
その後、私は何時間か、懇切丁寧に説明された。
結婚の大事さ、彼女のいる幸せ、などなど。
あいつ彼女いないよな?
と思うも、1度もできたことの無い兄を気遣い、私はアイザックの妄想癖を聞かなかったことにした。
「ふぅ、これで少しは理解して頂けましたか?」
満足といった満面の笑みでこちらに話を降ってくる。
「あ、あぁ、もう分かったから、終わろう、な?」
「はぁ、実を言うとまだ話し足りないんですがね、まぁそれはいいとして、はいどうぞ」
そう言ってアイザックは焦げ茶色のローブを渡してきた。
「これは?」
「行ってきていいですよ?...カセドナ王国」
「......はあぁ?」
呆れてモノも言えないとはまさにこの事だ。
「あ、馬車は出しませんよ、馬を使ってください」
私の気持ちを無視し、アイザックはどんどん話を進めていく。
「ま、待て!私はまだ行くとは言っていない!!」
「いやいや、顔にははっきり出ていますよ、嘘つかないでくださいね」
「いや、だから!」
「はいはい、分かりました行きたいんですね、はーい分かりましたから行きましょうねー」
グイグイと押すアイザックの力は強く、とてもじゃないが抗えない、その為いつの間にか私は馬の前まで来てしまっていた。
いつの間に...
「はーい行ってらっしゃーい!!」
そう言って馬の手綱を渡してきたアイザックは無理やり私の手に巻き付け、無理やり送り出したのだった。
最初はなんでこんな事に...と悩んではいたが、途中からは私の気持ちは吹っ切れていた。
この際だから、振られてもいいからとにかく想いを伝えよう!と意気揚々と馬の手綱を握っていた。
そして、緊張した面持ちで公爵家に訪問したところ、ミアは公爵家にいなかった。
それも、ミアがいなくなったことを屋敷の誰もが知らないという。
私が公爵家に行った時、そこは既に大騒ぎだった。
これは今私が行けば、余計に騒ぎになるかもしれないな...だがわざわざ馬を飛ばしてきた手前帰るわけにも...
そこでふと気づく、あれは...
私は馬から降り、馬の手綱を引きながらある男の元まで行った。みんな騒いでいるせいか、私が近づいていることに気づいていないみたいだ。
その男に近寄ると予想通り、他のもの達と違った反応をしていた。
「...酷い顔色だが、大丈夫か?」
「は、い、大丈夫...って誰ですか?」
「それはまぁ、気にするな、それであなたは何故そんなに顔色が悪いんです?」
「そ、それは......」
と、自信なさげに語られる話に、冷や汗がつたい、何の感か、このままではまづいと私は慌てて馬に跨り屋敷の門を飛び出した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
予定だとあと1話ですが、終われるかなぁ?
今回もお読みいただきありがとうございました!
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