国を追い出された令嬢は帝国で拾われる

氷雨

文字の大きさ
上 下
41 / 53
エピローグ

後悔

しおりを挟む


雨のせいなのか、それとも生命の灯火が消えかけてきているせいなのか、親友の身体は少しずつ体温を失ってきていた。

実際はそんなに時間は経っていないはずなのに、この時間が延々のように感じる。


涙は相変わらず止まらないし、手の震えも止まらない、それでいて私の口は死なないでくれと必死に親友へと呼びかけている。


一体どの口が言っているんだろうかと思う。

_____私が、この手で殺したというのに...


あぁ、このまま私も死んでしまおうか。

家に帰ったところで私に関心を示す者はいない、外から帰ってきた時でさえ誰一人として出迎えてはくれないし、相変わらずあのボロい部屋に直行だ。ご飯になれば1人寂しく覚めたご飯を食べて一日を終える。


そんな毎日の何処に生きる価値があるのか、

もう私には分からない、性格もこんなに壊れてしまったし、もう本当にどうしていいか分からない。

頼りたいのに、誰も頼れる人がいない。


あの時、私だって、親友のマリーだってあなたが気づいてくれたら、「久しぶりね」って笑いかけてくれたら、こんなことになっていなかったかもね。


悪いのは、全部、ミリアーナのせいだよ?

私も悪いけど、そんな悪い私を作ったのは全部全部、ミリアーナのせいなんだから......だから、ね?



......もう、私を裏切らないで。







ふと、首筋にヒンヤリとした感触がした。

私は、ゆっくりと振り返って後ろを確認しようとして、やめた。

「...!!」

「......」


そこには、一人の男が、私の首筋に剣の切っ先を向けていたからだ。






✱ ✱ ✱





2日かけてようやく私は国へと帰ってきた。城門を通り、すぐさま執務室へと直行する。カセドナ王国での件を片付けるためだ。

さて、アイザックはどこだ?
私よりも一足先に帰ったはずだから居るはずなんだが...

主が帰ってきたというのに出迎えもしないから忙しいのかと思って私自ら宰相の執務室まで来てみれば、ここはもぬけの殻、部下までもいないしまつだ。


「いったいどこに......」



バンッ!!!


そこまで言おうとして、私の呟きは勢いよく開けられたドアの音によってかき消された。


「馬鹿野郎ーーー!!!」


そう言って私がよく知っている顔の男はスタスタと早歩きで近づいてくると私の胸ぐらをつかみグラグラと揺すってきた。


「うぐっ...やめろ、アイザック...し、しぬ」

「死ね...!!!...この際だ、俺自らその腐った頭を燃やしてやる!!」


な、何をそんなに怒っているだ此奴は...


それに、死ねって、お前それ不敬罪...

「俺はお前の従兄だ!不敬罪じゃねー!」

なんで考えてること分かったんだ...?



「それより、お前!!」


「あ、あぁ...」

相変わらず胸ぐらを掴まれた状態で問い詰められる。その距離はとても近く、今にも鼻と鼻がくっつきそうだ。


お願いだから離れて欲しい、このままでは...はぁ、やっぱり気持ち悪いから言わないでおこう。


それはいいとして、アイザックは何故こんなにも怒っているんだ?
それよりも早く国王の件を片付けたいんだが、こっちは連行までしてきたというのに。


「この、ヘタレが!!」

急ににどうした、って、ん......ヘタレ...?誰が?

突然の意味のわからない言葉に、ハテナ?と頭にクエッションマークが浮かんだ。

「あそこまで露骨に態度に出しておいて、求婚もせずに帰ってくるなんてヘタレ以外の何物でもないだろー!!!」


きゅう、こん...?きゅ、求婚!?


「はぁ!?」

思ってもみなかった言葉に、私は変な声を上げた。おそらく今私の顔は真っ赤になっている事だろう。


「...本当に、その態度を見るだけでお前がどれだけ初心でヘタレだってことが分かるよ...」


はぁ、と息を吐きアイザックは私を見て呆れた表情を作った。


「さっきから聞いていればヘタレヘタレと...お前も似たようなものだろう!?」

「違いますね、私は陛下がいつまで結婚しないから出会いの場に行けないだけですよ」


そう言ってビシリっと音がしそうなほど鋭くアイザックは指を立て、こちらに指を指してきた。


「好き、なんでしょ?なんでミリアーナ嬢を帰したりなんかしたんですか?ここは求婚して我が国に迎えるべきだったでしょう」


「それは...」


考えてはいた...と言おうとして、やめた。



「あ、好きは否定しないんですね...良かったです」


「何がだ?」


「だって陛下、女嫌いで恋愛から1番遠いとこにいたんですから、好きなんて言葉知らないと思って...」


そう言ってアイザックは残念な子を見るような目で私を見てきた。


相変わらず失礼な奴だな...。


まぁそれはいい...



「...想いを伝えて、相手がその気持ちに答えられないとして、そのあと私はどうしたらいい?それに、私は今ミアと離れたことで漸くその気持ちを自覚したんだ、どの道遅かった。」


「だから、仕方ない...って?」

「......」

いつもの態度が嘘のように、アイザックは真剣な目でこちらを見てきた。

その視線に、その言葉に返せるものがなく、押し黙る。


「これじゃ......」

「......」


「私がいき遅れになってしまう!!!」


「.........はあぁ?」



その後、私は何時間か、懇切丁寧に説明された。
結婚の大事さ、彼女のいる幸せ、などなど。

あいつ彼女いないよな?
と思うも、1度もできたことの無い兄を気遣い、私はアイザックの妄想癖を聞かなかったことにした。


「ふぅ、これで少しは理解して頂けましたか?」

満足といった満面の笑みでこちらに話を降ってくる。

「あ、あぁ、もう分かったから、終わろう、な?」

「はぁ、実を言うとまだ話し足りないんですがね、まぁそれはいいとして、はいどうぞ」

そう言ってアイザックは焦げ茶色のローブを渡してきた。


「これは?」

「行ってきていいですよ?...カセドナ王国」


「......はあぁ?」

呆れてモノも言えないとはまさにこの事だ。

「あ、馬車は出しませんよ、馬を使ってください」

私の気持ちを無視し、アイザックはどんどん話を進めていく。


「ま、待て!私はまだ行くとは言っていない!!」

「いやいや、顔にははっきり出ていますよ、嘘つかないでくださいね」


「いや、だから!」


「はいはい、分かりました行きたいんですね、はーい分かりましたから行きましょうねー」

グイグイと押すアイザックの力は強く、とてもじゃないが抗えない、その為いつの間にか私は馬の前まで来てしまっていた。


いつの間に...


「はーい行ってらっしゃーい!!」


そう言って馬の手綱を渡してきたアイザックは無理やり私の手に巻き付け、無理やり送り出したのだった。



最初はなんでこんな事に...と悩んではいたが、途中からは私の気持ちは吹っ切れていた。


この際だから、振られてもいいからとにかく想いを伝えよう!と意気揚々と馬の手綱を握っていた。


そして、緊張した面持ちで公爵家に訪問したところ、ミアは公爵家にいなかった。

それも、ミアがいなくなったことを屋敷の誰もが知らないという。

私が公爵家に行った時、そこは既に大騒ぎだった。

これは今私が行けば、余計に騒ぎになるかもしれないな...だがわざわざ馬を飛ばしてきた手前帰るわけにも...


そこでふと気づく、あれは...


私は馬から降り、馬の手綱を引きながらある男の元まで行った。みんな騒いでいるせいか、私が近づいていることに気づいていないみたいだ。

その男に近寄ると予想通り、他のもの達と違った反応をしていた。


「...酷い顔色だが、大丈夫か?」


「は、い、大丈夫...って誰ですか?」


「それはまぁ、気にするな、それであなたは何故そんなに顔色が悪いんです?」


「そ、それは......」


と、自信なさげに語られる話に、冷や汗がつたい、何の感か、このままではまづいと私は慌てて馬に跨り屋敷の門を飛び出した。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


予定だとあと1話ですが、終われるかなぁ?

今回もお読みいただきありがとうございました!













しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった

雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。 人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。 「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」 エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。 なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。 そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。 いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。 動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。 ※他サイト様にも投稿しております。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...