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エピローグ

すれ違いの結果

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「レイラ...」


忘れもしない、親友が目の前にいた。
名前は違うかもしれない、それでも、あの時のように突き放すような真似は、忘れたなんて思うことは絶対に許されない

私はもう一度、親友の名前を呟いた。

あの子に、聞こえるように。


今度は間違えない、間違えてはいけない。

だから、

「マリー......!」














だけど、あの時のすれ違いが、親友を酷く苦しめていたみたいだ。
縺れた関係は、そっとやそっとじゃ修復できない。何年も空いた親友との溝は、簡単には埋まらない。
あの時親友だと気づいてあげられなかった私が酷く憎い。
あの日の記憶を封印してしまった私も酷く憎くて怒りが湧いてくる。

親友をこんなに苦しめたのは私だ。

でも、多分だけど、苦しめたのは私だけじゃなかったんだと思う。親友だった私が言うんだから確かだ。

だからこそ、苦しい時にそばにいてあげられなかったことを今、凄く後悔している。


あぁ、なんでこんなふうになっちゃったのかな...


目の前の親友を見ながらそんなことを思う。

思考はどんどん沈んでいく。
まるで水に浸かっていくみたいに、どんどん深く...底へ。


ねぇ、やり直したいって言ったら...怒る?

謝りたいって言ったら...嘲う?


「......」


親友は何も言わなかった。

怒ってもいいのに、叩いてもいいのに。

それなのに、親友は何もせずにじっと私を見つめたまま動かなかった。


表情はまるで氷のようだった。


あの日、私が婚約破棄を言い渡された時の親友とはまるで正反対の顔だった。


あれは演技だったのか...と今更ながらに思う。

思えば、親友は人を楽しませるのが好きだった。

たまに私の真似をして喋ったり、私が読んだ絵本を語ると、あの子は思うがままに物語を演劇風にして見せてくれた。


思えば......と、考えれば考えるだけあの頃の記憶が蘇ってくる。


そのほんの一欠片でも、あの時、私に声をかけてくれた親友を悲しませないために思い出せていたら..........何か、変わっていたのかな。




目の前の親友が、静かに笑った。


もう、何も期待していない、もう諦めた、と言っているような濁った目をしていた。

それが私のせいだったと思うと、心が酷く締め付けられた。


そして、親友は口を開くと同時に私に駆け寄り______ナイフを突き刺した。




「......こんなに苦しい思いをするなら、いっそ消えてよっ.........」


そう言いながら、抉るようにナイフの柄を強く押してきた。


「...うぐっ...」


深く沈んでいくナイフのことより、今はどんどん酷くなる痛みに目眩がしそうだった。


「...はぁっ...」

呼吸するのが辛くなり、息が荒くなってきているのが分かる。


でも、やっぱり、これだけは言わなきゃ...
自己満足だと、笑ってくれていい、本当のことだし、なにより、これは謝って許されたいだけの我儘な部分から来るものだから。


「...マリー......ごめんね...本当に......ごめんね」


泣きそうになって、必死に涙を抑える。

私が泣いてどうする。

泣きたくても泣けない親友が目の前にいるのに、私が音を上げてどうする!!

自分を切羽し、体を奮い立たせた。

そして、私は親友をナイフから離した。

ドンっと肩を押し、親友との距離が遠くなる。


ナイフはまだ刺さったままだ。


「...っ」

私に押され、体勢を崩した親友は予想外の事に唇を切ってしまったようだった。

舌打ちをし、こちら睨んでくる。

その瞳が、憎しみに染められていることがとても悲しかった。


残った力を振り絞り、親友に声をかける。


「な...んで、...」


この少ない言葉にはたくさんの意味が詰まっている。

____私が記憶をなくしている間、あなたには何があったの?

____何が貴方をそんなに酷く苦しめるの?


________あなたは、何を怖がっているの?


親友は答えない。


その固まった口は二度と動かないように思えた。



「......」

「...なんで、なの?...」



それでも私は力が尽きないかぎり続けようと、尚も親友に問い続けた。


けど、やっぱり限界は来るもので、立っていられなくなってしまいガクッと膝がおれ、地面へと蹲った。


でも、まだ力は残ってる。


頭が痛い、刺されたお腹も痛すぎてもう分からない、目眩もする、自分の血の匂いにも酔いそうだ。


それでも、と、私は蹲った体勢から手を伸ばし、親友の足へ縋りついた。


約束を、果たさなきゃ...


「来たよ!」っていつもみたいに言ってあげなきゃ......だから。


「...離しなさい」

地を這うような低い声が、怒っている、言っている。それでも言わなきゃいけない、私が今動けるのは、それを果たしたいから。


「...やくそく、だから...」

力を振り絞り、言葉を紡ぐ。


その言葉が、親友を怒らせたのだろう。

私の手を引き剥がし、掴んだ腕ごとドンっと押された。


案の定、体勢を取れるだけの気力も体力も残っていない体は簡単に地面へと投げ出された。


はっきり言って、もう楽になりたい。

でも、そんなことは許されないと、心のどこかで思っている自分もいる。


お腹に刺さるナイフがこれ以上くい込まないよう、横向きに起き上がり、地面を這った。




「...っ、なんでよ...」

親友の先程とは違うその声色に、動揺しているとわかり、少し嬉しくなった。

少しでも本心を語って欲しかったから、動揺してくれたことは少しの進歩だった。


「.........やくそく、だから...」

さっきと同じように、もう一度言った。
はっきり聞こえるように、意識が飛んでしまわないように大きな声を出して言った。


そして、もう少しでたどり着こうと言う時、急に視界が暗くなってきた。

思考もままならないし、暗くなってくる視界に飲み込まれそうになる。


けど、どこからか遠くなる思考の中に、あの子の声が聞こえた気がした。


死なないで、と、言っていた気がする。


そんなことを妄想してしまうくらい、私は親友に許してもらいたかったんだと、気づいた。

悪いのは自分で、親友は悪くない。
だから私を許さなくていい、と誓ったはずだったのに......


霞む視界の中で、ふと、ハル様の顔が浮かんだ。

どれもこれも、優しいハル様の笑顔ばかりが走馬灯のように消えては浮かんで、また消えてと繰り返される。


死ぬ間際になって後悔していることに気づくとはよく言ったものだけど...まさか私もこんなに早く体験する時が来るなんてね.....

流石に早すぎるよ、せめてもっと長く生きてから後悔した方がまだよかったなぁ、なんて思いながら、今更気づいた気持ちに蓋をした。


そうかぁ、私.........なってたんだ...。


親友が、自分が死んでしまうことを悲しんでいるなんて都合のいい妄想に浸りながら、私は静かに目を閉じた。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


レイラは下手したらヤンデレ気質かもしれません(笑えない...)


あと2話くらいで終わりかな?

最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!!


P.S.   恋愛っていうジャンルに入れといて、恋愛しないのはおかしいので後日談か番外編あたりで恋愛ぶっ込もうと思います。

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