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過去編

レイラ・スピンズ V

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今回で過去編が最終回になります。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「これはこれは、スピンズ子爵家でないですか、もしやそちらのご令嬢がレイラ嬢ですかな、いやはやお美しい...」

そう言って目の前のふくよかな中年の貴族が、品定めするような目で私を見てきた。

私はそれをいつもの事だと割り切り、慣れたように対応する。


「美しいなどと...私はアニー様の方がお美しいと思います...流石は伯爵様の娘ですわね」


そう言うと、あからさまに機嫌が良くなり、聞きたくもないのに娘の自慢話を始めた。

ただ、こうやって相手が喜ぶような事を話題にすることで、あの人は親しみやすい、好感が持てる、と知らせなければならない、これが私がこの数年間で身につけた技術だ。


あの日、あの淡い失恋の日をきっかけに、私とラヴェンの婚姻は白紙に戻ってしまった。
そしてその後は予想通り酷い仕打ちが待っていた。なんせ、伯爵家の子息を怒らせ、それに加えて私が平民の血が入っていることがバレてしまったのだから、口止めするのにも苦労したはずだ。


だからその失敗をチャラにするためにも、私は頑張らなくてはいけなかった。

そして私は母と父から譲り受けたこの容姿を利用し、数々の貴族達の信頼を得て今では私は社交界の花として知れ渡っている。


そのおかげで最近では両親に色々言われるようなことはなくなり、最近は平和そのものだ。



そんなことを考え今日も社交界で顔を売っていると、入口の扉が何やら騒がしくなった。


入口の扉へと視線を向けると、私と同じように周りにいる貴族たちも扉を見ていた。


一体なんなんだろうか?


とふと思ったが、扉に控える騎士が言い放った言葉に皆は固まり、そして一気に騒がしくなったことでその考えを振り払う。



皆の視線と興味を引きつける扉がゆっくりと、開いた。



そして現れたのが



「...ミリアーナ...」


そう、あの時、会うはずだった親友だ。

その親友は、数年前とは比べ物にならないくらい綺麗になっていた。


彼女が通った道にいた男性たちは揃って彼女に視線を送り見蕩れていた。


会場に彼女が入ってきた事により、周りの男性たちは揃いも揃って彼女を口説きに行っていた。

そんな様子を遠目から眺めやれやれと思いながらも私は親友を見ていた。

恐らく彼女は今日が社交界デビューなんだろう。
私の場合はデビューする前から父と一緒にパーティーなどに参加していたからデビューとかはなかったけど。


ただ少し面白くはなかった。
恐らくこれが対抗心と言うやつだろうと思う。

一応私も美人の部類に入るが親友は違う、あれはもう異次元の美貌だ、と心の底から思う。


だからまぁ、悔しくはあるけどあそこまで綺麗だと怒りも湧いてこなくなる。



さて、と、そろそろ親友に会いに行こうかな。


そう言って私は歩き出した。





✱ ✱ ✱





「久しぶりねミリアーナ、元気にしてた?」


軽い口調で親友に声をかけた。


だが、帰ってきた言葉に私は耳を疑った。


「失礼ですが、私は貴方に会うのは初めてですよ?」


そう彼女が言っからだ。


一瞬、人違い?とは思ったけど私が親友を見間違えるはずがなかった。



「そんなはずないわ、私はあなたの親友よ、冗談でも忘れないで」


そう、あの頃のような口調で言えば、目の前の親友の顔は怪訝な表情になり、徐々に期限は悪くなってくる。


「失礼ですが、本当に知りません、それにいつ私があなたと親友になったと言うのですか?」



え、どういうこと?もしかして冗談じゃないってこと?
困惑しながらも聞かれた質問の答えを返す。

「....10年前よ、たしかひまわり畑で、出会ったはずよ」


そう言うと親友は考える素振りを見せた。
だがそれは数秒で、親友の顔はみるみるうちに怒りに染っていった。


「あなたはあの時の...!!!私を呼び出して......そのせいで、母は...全部あなたのせいだわ!!!」


そう言って親友は私に掴みかかってきた。


「っ...」


彼女の手が頬に当たり、淡い痛みが頬に走った。


なんで、とそればかりが頭の中を埋め尽くす。

あの日、ミリアーナに何があったのか、何があったら 親友はこんなに激昂するのか...


そこに、親友からの拒絶とも言える言葉が耳に響いた。


「もう私の前に現れないで!!」


そう言って彼女は踵を返し、会場の中央へと戻っていった。


取り残された私は、ただただ親友の放った言葉に悲しみと、静かな怒りが滲んでいた。


彼女に何があったのからわからない、それでも、それでも私にだって酷く辛いことがあった。

それを乗り越えて私は今ここに立っている。
なのに、この言われ用は何?


私が何をしたっていうの?

私があの日、どれだけ辛い思いをしたか、あなたは知っているの?


立ち去る親友の後ろ姿を見ながらそんな事を考える。

すると、1人の青年が彼女へと近づき何やら話しかけていた。


その人物はラヴェンだった。


それが決め手となった。


彼女は先程とはうって変わりラヴェンと楽しそうに踊っている。

それが無性に腹立たしく思う。

いつもそうだ、彼女は誰からも愛されていた、そう、今だって...

なのに私はどうだ、もう愛されてなんかいない、愛してくれる人もいない、最後の望みをかけたラヴェンにも裏切られた。


「っ...」


下唇を噛み、行き場のない怒りをぶつける。
手に爪はくい込み、中指からは血が出ていた。


10年、そんな長い年月を私はあの孤独の中ひたすら生きていくために頑張った。



なのに、私は報われない。



あぁ、やっぱり私は裏切られる運命なんだ。


だったらもう、いいや。


そう言って私は、自称気味に笑った。




✱ ✱ ✱







先程までの晴れ空が嘘のように、今はただしとしとと雨が降ってきていた。





「な...んで、...」


掠れた声が静まる空間に響いた。

その声はか細く、なにかに耐えているようなそんな必死とも取れる声色だった。



「......」

「...なんで、なの?...」


そう言ってお腹を押え蹲った。

そして、最後の抵抗か、目の前にいる人物の足へと手を伸ばし強く掴んだ。


その手は赤い血に染められ、雨の所為もあり血はダラダラと腕を伝っていた。


「...離しなさい...」

「...い、いやよ」


そう言ってまた、先程よりも強く足を掴んだ。

「...離してよっ」

少女は目の前で踞る少女の手を強引に引き剥がすと、ドンと突き放した。

押された少女はバランスが取れなくなり、地面へとその身を投げ出した。

少女の体からは相変わらず血が流れていた。



「...っ」


少女の悲痛な叫びが聞こえた気がした。

歯を食いしばり唇をかみ締めるその顔は、痛みに必死に耐えていることは明らかだった。


それでも少女は諦めず地を這い、突き放した少女へと必死に近づく。


「...っ、なんでよ...」

「.........やくそく、だから...」


そう言いながらも少女は地を這い続ける。

そして、もう少しでたどり着こうと言う時、少女はピタリと、動かなくなった。

力尽きたのだ。

少女のお腹からは相変わらず血が出ていた。

雨はどんどん小降りから大降りへと変わり、草花が生い茂る地面は今や水溜まりができ幾つものクレーターを作っていた。


少女の血は水と混ざり、綺麗な赤い水溜まりを作っていた。


「......そ、そんな...もしかして、死んじゃったの?......う、うそ、嘘よ...!!」

そう言って倒れ伏す少女の傍に膝をつき少女を抱き上げた。



「いや!!死なないで_______ミリアーナ...!!!」

少女、いや、レイラの目からは大粒の雫が雨のように流れていた。








┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


なんだか主人公が悪いやつに思えてきました。
レイラにジョブチェンジしちゃいそう笑


次回から新章です!多分、次の章が最後です!

お読みいただきありがとうございました!
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