国を追い出された令嬢は帝国で拾われる

氷雨

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過去編

レイラ・スピンズ Ⅲ

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「......ママっ...」

掠れた声で、今まさに実の子に手をかけようと首を絞め続ける親へと懇願する。

だが、そんな願いは聞き入れては貰えなかった。

尚もママは私の首を締め付ける。

「...マ、...マっ...」


両手は塞がってはいない。
だから抵抗しようとすれば、出来るはずだ、だけど私は抵抗しなかった。

それに、やっぱり大人に子供の力は敵わない。
と、どこか言い訳めいた言葉が心を締め付ける。

だから足掻いたところで息が詰まるだけだ、と言い訳をする。


けどやっぱり、死ぬのは嫌だ。


それも、親の手によって死ぬのは......なにより悲しい。


ママ......やめて...やめてよ。


「...お前の、せいで、お前のせいで...!!!」

そう言ってまた、私の首を絞めた。


「...う、あ...」


そろそろ、ダメかもしれない。


ギリギリと首にめり込む爪の痛みさえ、今はどうでもいい、それよりも、頭に昇る血が、息ができない口が、あぁ自分は死ぬのだと、教えてくれる。


「.....マ...」

最後に、「ママ」と言おうとして、やめた。


掠れた視界の中で、確かにママが泣いている光景が見えた。
ぽた、ぽた、と雫が頬を伝ったような気がした。


なんで...泣いてるの?



でもその疑問を解決する前に私は限界を迎えた。



「...ごめんね...」


と、ママが言ったような気がした。


そこで私の意識は静かに沈んでいった。




最後に見たママの顔は、降り注ぐ雫のせいでよく見えなかった。






✱ ✱ ✱




あの日から丸一日経った夕刻に、私は目を覚ました。


私、死ななかったんだ。


ママは、どうしたのかな。

私が生きているってことは、ママは本気で私を殺すつもりなんてなかったのかな。

そうだと、いいなぁ。


そう言って、涙が頬を伝った。


親に、殺されそうになった。

愛されていたはずなのに、あの目を見た瞬間、それは間違いだったのだと思えた。

1度溢れてしまえばもう、止まらない。

今まで我慢していた分の涙が、次々に溢れてくる。

涙はとめどなく流れ、枯れることを知らない。

嗚咽も堪えずに、いつの間にか運ばれていた自室のベットで、布団に顔を押し付け泣いた。



今はとにかく、泣きたい、泣いて忘れたい。


そしてまた、あの頃に戻れたらと願い、それはもう敵わない願いだと思い返し、また涙が溢れた。


私はそれから一晩中泣き続けた。





✱ ✱ ✱








あれからまた2日経った。

風に聞いた噂で、ママが修道院に送られた、と聞いた。これはメイド情報だ。
あの人たちは聞かなくても影で色々なことを喋っているから、壁に聞く耳を立てていれば必要な情報を教えてくれる。全く便利だ。


そして、私が正式にレイラの代わりとして生活し始める日々がスタートした。

はっきり言って辛い。


私は元々平民で、貴族の振る舞いなんていう硬っ苦しい作法は正直いってきついものだった。

でも、それが出来ないと怒られてしまうし、家を追い出されてしまうかもしれない。

もうママもパパもいない、今のこの屋敷から逃げたとして助けてくれる人が誰もいないのだ。


私は子どもだ、その事実がこうも自分を苦しめるとは思っていなかった。


大人は大変だから、子供のままでいいいやなんて考えていた自分に言ってやりたい。


「レイラ様、お時間です」

そんなことを考えていると、扉の向こうからメイドの声がした。

その声に「はい」と答えて、外に出た。

因みに私はまだあのボロボロの小屋にいる。

男爵様いわく、「平民が屋敷に住むなどと....!」だそうだ、だから私は一生この小屋で暮らすんだ。
そして極力部屋からは出るなとも言われている。

だからこうやってメイドが決められた言葉をかけに来るのだ。

かけられる言葉は全部で3つ。


まず、勉強の時間を知らせる言葉「お時間です」

次に、執務室に来いと言う言葉「旦那様がお呼びです」

最後に、来客が来た時の言葉「お客様です」

という3パターンだ、あとは食事だが、これは勝手に部屋の前に置いていくから特に声をかけられ知らされることは無い、そして食べ終わって元の場所に戻しておけば知らないうちにさげられているのだ、だからまぁ快適ではある。

ただ、こうも人と話さずに部屋に篭っていては喋り方を忘れてしまいそうだ。



「レイラ様、今日は地理について復習をいたしましょう_______」


そう言ってまた、今日の分の勉強が始まった。








✱ ✱ ✱



「レイラ様、お客様です」


そう言ったメイドの声を聞き、少し動揺する。

ここに来て久しぶりの来客だ。

だが、すぐに返事をしないとあとあと面倒になる。外に出るのは嫌だが「はい」と取り敢えず答える。

流石にこうも部屋に篭ってばかりだと慣れてきたもので、今では外に出るのが嫌になったくらいだ。だから出来れば来客は来るなよ?と願っていたのだが、そんな上手くいくわけはやはりなかった。


メイドに連れられ、執務室へと通される。

執務室へと入ると、私のと言うより、本当のレイラの両親と来客がいた。

私が執務室に入るとあからさまに父が舌打ちをする。母も似たようなもので、私を視界に捉えているもののその目は明らかに平民に対しての蔑んだ目だった。


もう慣れたので、私は慣れた動作で父と母のもとまで歩いていく。

そして改めて向かいに座る来客に目を向けた。


そこには私と同じくらいの年の少年がいた。

金の髪に碧い瞳の美少年、頭には天使の輪がかかりまさに絵本から出てきたような容貌だった。


こんなに綺麗な子、初めて見た...。

私は一言断ってソファに座ると、少年を見て少しの間見惚れていた。

だがすぐに父から紹介が入った。


「レイラ、こちらはハインズ伯爵とそのご子息のラヴェンくんだ」

その紹介を合図に、向かいに座る2人組が立ち上がり自己紹介を始めた。


「ご紹介に上がりました、私はバールド・ハインズこちらは私の息子のラヴェンです、ラヴェン」


「はい父上、僕はラヴェン・ハインズです、よろしくお願いします」

そう言って私の目を見てはにかみながらお辞儀をする。


可愛い...素直にそう思った。

女の子より可愛いっていうのはちょっと悔しいけど、ここまで可愛いと悔しさもどこかへ行ってしまう。

私も立ち上がり、自己紹介をした。



「レイラ・スピンズです、よろしくお願いします」








┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



あと何話で過去編終わるかな?

そんな事ばり考えて書いてますw

お読みいただきありがとうございました!







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