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復讐編
会場へ
しおりを挟む私はハル様に手を引かれ、ただ今入口でスタンバっています。もう、かれこれ30分程。
ん?いくらなんでも待たせすぎじゃない?
おかしい、と思い5度目になるハル様の顔を伺う。
さっきからずっとこう。私とハル様はこうやって何回も顔を合わせ首を傾げていた。
「...いくらなんでも遅すぎるね」
ハル様も困ったように言ってきますので、私も同意します。
「...はい」
それに、周りに控えているはずのメイド達もいない。本当にどうしたのだろうか。
そんなことを悶々と考えていると、後ろの方から慌ただしいいくつもの足音が近ずいてきた。
後ろを振り返ると...なんと宰相様でした!
やっぱり何かあったのね、そうでなければ態々来ないだろうし。
「長らく待たせてしまい誠に申し訳ありませんでした!これより会場に入場して頂きます」
息も絶え絶えに言う宰相にびっくりしたものの、素直に従う。
「あぁ、分かった」
「えぇ、分かりましたわ」
やっと入場出来るようだ。
本当に何待たせてくれてんだ...!あ、いえ、ごほん。あのですね、私これからダンスをしますの、ですから30分も待たされた私の足はもう結構疲れているんですよ。分かります?
あぁ、ちょっとムカついたから後でなにかゲテモノでも送ってやろうかしら。
「ミア」
「はい、陛下」
私はハル様の手に自分の手を再び重ねた。
それに合わせるように、先程駆けてきた使用人が扉の前に立ち、取手を引いた。
ギィィィと重層感漂う音が鳴り響きながら扉が開かれる。それと同時に、オーケストラの綺麗な音色が耳に心地よい響きを届けてきてくれた。
私はハル様に引かれ、会場へと足を踏み入れた。
会場にいた人々が皆一様に先程開いた扉に釘付けとなっていた。
お喋りを楽しんでいた令嬢達は顔を朱に染め、飲んだり喋ったりと楽しんでいた令息達も会話をやめ、惚けた表情で入口に釘付けとなっていた。
黒髪を靡かせ微笑みを湛えた美しい女性を、光り輝く美貌の男性がエスコートする、その様はまるで絵画の世界から飛び出してきたような美しさがあったからだ。
しかし、その美しい女性がミリアーナ、ということが分かった者達から驚きの声が上がった。
その声は顰められているもののしっかりと聞こえる声量であった。
口々に「どうしてミリアーナ様が?」「ジルクレイド様に捨てられて気でも迷ったか...?」等など、憶測だけの考えがその会場を支配していた。
つまりは、皆混乱していたのだ。
それでも。
2人はお互いに微笑みを湛えながら歩く。
道を塞いでいた者達が次々に2人の雰囲気に引き込まれ、自然と道ができ始めた。
中央を2人だけが歩く形となり、そのまま2人は王座のもとまでたどり着き、賛辞を述べたのだった。
✱ ✱ ✱
やっぱりか、と。私は心の底からため息がでた。
今現在私達は王座のもとまで行き、婚約祝いの賛辞を述べていた。
だが、王座に座るジルクレイド様とレイラを見て、やっぱりかと言わざるおえなかった。
遡ること数分前、私達は晴れて長い待機の時間から解放され入場した。
会場の端々から私がこの場所で陛下にエスコートされているのに驚いていたみたいだが私は気にせずスルーして歩いた。
朧気だった王座が次第に見えてくる。
勿論、王座には王と、元婚約者の王太子と次期王妃のレイラがいた。
まず思ったのが......王様、菓子を食べる手を止めなさい!
そして...そこの王太子!話をしっかり聞け!!
それでレイラ、あなたは隣の婚約者に目を向けろ!!
もうなんなのよこの光景、王族だとはとてもではないけど思えないわ...品位がなさすぎる。
目の前で賛辞を述べているのは陛下と、仮にもそのパートナーの私を無視するとはどうかと思う。
ポリポリ、ポリポリとうるっさいわね!!
その贅肉今すぐ潰してやりたいわ!!
「...チッ」と思わず舌打ちしてしまったのは仕方の無いことだと思う。隣のハル様が目ざとくその音声を拾ってしまったようで、横目でちらりと見ると軽く目を見開き驚いていたようだが私は知らん。
何を聞かれてもノーコメントを貫くつもりよ。どんと来なさい。
ハル様の挨拶が終わったようなので私も続けて挨拶をする。
「王様、ジルクレイド様にレイラ様、お久しぶりにございます。此度のご婚約、誠におめでとうございます。」
と軽く挨拶をしたのだが、さっきの態度が嘘のようにレイラが私に食ってかかってきた、いえ違います、あくまで猫を被った状態で話しかけてきました。まぁその隣の人はレイラを見て惚けているので...まぁ、はい。
「ミリアーナ様、お久しぶりです、陛下と一緒にいらっしゃるなんてビックリしちゃいました。それに、婚約者破棄されたのに今回のパーティーに陛下と参加するなんて、レイラとっても羨ましいです!私も陛下と一緒にいたいですぅ!!」
と猫なで声で話しかけてきたレイラに嫌気がする。話の中に時々嫌味が含まれていたこともあるが、婚約者がいるにもかかわらずあからさまにハル様への好意を隠さないレイラにも腹が立った。
おまけに、レイラばかり見つめているジルクレイド様は、まさに"おばたもえくぼ"と言うやつね、全く困ったものだわ。
でも1番嫌なのは、この愚王よ!!さっきから煩いのよ!!
私はぎゅっとハル様の袖をつかみ、ここから離れたいですというような視線を送ると、察してくれたハル様が私の手を引き下がらせてくれた。
本当はここより大国の皇帝陛下に対してこのような態度は今にも国ごと潰されてもおかしくないほど失礼だ。そこはハル様の優しさと心の広さを褒めてあげたい。
私だったらあんな奴ら今すぐ引っ叩いて獣の餌に...あらやだ、また私ったら!口が勝手に。
そんなだからこの国はダメなのよ、まったく宰相の苦労も知らないで食っちゃ寝生活送ってるからあんなみっともない体になるのよ、豚が。
あぁ、もう帰りたいです。
でもこの会場の雰囲気がそうさせてくれない。
新しい曲にうつり、再びダンス曲を弾き始めたからだ。周りは一向に踊り出さない。
これは私達に踊れということよね。
ハル様を見ると、丁度私をダンスに誘おうと口を開きかけていたようだ。
私がハル様の誘いを無下にしてしまったのだろうか?
すみません、もう1回お願いします。
私の懇願が伝わったようで再び誘ってくれた。
ありがとうございますハル様。
「ミリアーナ嬢、私と踊っていただけませんか?」
とよくある誘い言葉を言ってくる、これが普通顔の男性なら、心は踊らないだろうが、今絶賛誘ってきているのは黄金比が美しいお顔のハル様だ。
眼福だ、これでときめかない女性はいないだろう。
私は照れる気持ちを抑えハル様の手を取ろうと自分の手を差し出そうとして...止まった。
は?
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
次回、ミリアーナ求婚される
え、誰に?と思うかもしれませんが、まぁそこはお楽しみに、それと、気持ち悪いことになりますとだけ言っておきます。同時にレイラが暴走しますので、そちらもお楽しみに。
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