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帰国編
報告
しおりを挟むニックは騎士を連れ廊下を慌ただしく歩いていた。その光景を城の者が何事かと思いながらも、邪魔をしてはいけないと何も聞かず皆、見て見ぬふりをしていた。
そして10分かけ、漸く宰相の執務室へ2人はたどり着く。
トントン
「ニックです、緊急の報告があります」
ニックが扉を叩くとすかさず了承の旨が伝えられた。
「入れ」
アイザックの許可がおりたのを確認するとニックは騎士を連れ、執務室に入った。
「失礼します」
「失礼、します」
騎士はここの来るのが初めてなのか、それとも宰相という国で2番目に偉い人に会うからなのか、とても緊張していた。
ドアを開けると、ソファに座るアイザックがいた。どうやら今日の仕事は終わっていたようだ。
それを確認したニックはまたアイザックの許可を待つ。
「どうぞ座って」
「はい」
許可がおり、騎士とともにニックはソファに腰を下ろした。
「それで、報告とは何かな?」
ニックがお前が話せと騎士に目で合図を出す。
それを見た騎士が緊張しながらも口を開き説明を始めた。
「はい、実はこの前人身売買を行っていた者達が漸く情報を吐きまして...それで、その吐いた情報と言うのが、実は貴族が絡んでいるようなのです」
「それは、また...面倒だな」
騎士の話を聞き、アイザックは顔を歪め、心底面倒暗さそうに吐き捨てた。
「...それで、これからが本題なのですが、その貴族と言うのは我が国ではなく、カセドナ王国の貴族達のようで、この前捕らえた者達は、どうやら王国の者達だったようです...」
「なんだって!?」
今まで聞くことに徹していたニックが騎士の話に堪えきれず叫んだ。
「落ち着けニック、それで、王国の者達だった、というのはどういうことかな?」
「はい、実はあのもの達はある罪で国を追い出されていたんです」
柳眉を僅かに凄めたアイザックが呟くように言った。
「...追い出されていた、だと?」
そのを声を拾った騎士が続けて話し出す。
「はい、あのもの達は一度国を追い出されたものの、王国の貴族達に拾われ、今までずっと貴族の言いなりになってきたようです」
「ちょっとその話はおかしいね、一度国を追放されたなら普通は不干渉になるはずだ、関わることは許されない、ましてや犯罪に手を貸しているとなると......はぁ、それにだ、まさか他国でそれを行うとは、全くあの国は平気で条約を破ったな」
「はい、聞けば聞くほど悪事ばかりです、やはりあの国はダメですね」
アイザックの言葉にニックが同意する。
「これで以上になります、これからまた聴取を行いますので新たな情報が入り次第持って参ります」
「あぁ、ご苦労だった...えっと君は」
「は、はい、私はガルムと言います!」
「ガルム君、良い情報をありがとう、これからも頑張ってくれ」
「はい!失礼しました!」
ビシッと騎士の礼をとったガルムが最初の緊張が嘘のようにしっかりした声で返事をし、敬礼すると執務室を出ていった。
それを確認したアイザックがニックに指示を出す。
「ニック、君は急ぎこの書類を陛下に持って行ってくれ、それと陛下には緊急だと口添えするように、あの人のことだからきっとそう言わないと見ないだろうからね、頼んだよ」
そう言いながらアイザックは器用に先程メモした内容をまっさらな紙に書き写していた。
それを驚きと尊敬の交じった眼差しでニックは見ていた。
一通り書き写し、急いで文書を丸め紐を結ぶとニックに手渡した。それを受け取ると素早くニックは執務室を出ていった。
✱ ✱ ✱
このお城に来て、早くも2週間が過ぎた。
最初は何をするにも遠慮してしまって何も出来なかったけど、最近ではあれがしたい、これがしたいと言えるようになった。
けど、毎日毎日部屋の中に篭って刺繍をしたり紅茶を飲んだりしていたが、遂に時間を潰すことが出来なくなってきた。その為今日初めて庭で散歩をさせてもらっていたのだが、途中から雲行きが怪しくなり、気温が下がってきたため自室に戻ってきていた。
私の初のお庭デビューだったのに...ぐすん
「ミリアーナ様、レモンティーです、これを飲んで体を温めてください」
私が傷心しているとコレットに声をかけられた。
「ありがとうコレット...ふぅ、おいしいわぁ」
入れてもらったレモンティーをひと口含む。
じんわりと口の中にレモンの味が広がり、その後に蜂蜜の甘い香りとともに甘みが来た。
美味しすぎる、流石コレット!!
「それはようございました」
ミリアーナまたひと口、ひと口とレモンティーを飲み体を温めていると、コレットの称賛する声がした。
「ミリアーナ様は本当に綺麗な所作をしていらっしゃいますね、思わず見とれてしまいます」
そうでしょう?私の所作は綺麗なのよ?
誰のせいでしょう?
「ふふ、ありがとうコレット」
ミリアーナは不敵に笑い、コレットにお礼を言った。何故、不敵だったかと言うと、この所作はあの馬鹿王子の為に身につけたものだったからだ。
ああ、今思い出しただけでも腹立たしいわあのクソ王子!!
これじゃいくら褒められても嬉しくないわよ!!
そう思いながらついカップを音を立ててソーサーに置いてしまった。
だが許して欲しい、私はいまムカついて仕方が無いのよ!!
ごめんなさいね、褒めてもらった傍から音を立てて置いてしまって!!!
「ミリアーナ様?どうされました?」
私の雰囲気が変わったからかコレットが心配し始めた。
「だ、大丈夫よ...」
「本当、ですか?」
「ええ、本当よ」
そう言ってミリアーナ笑った。
多少右の方の口が引きつっていようと知ったこっちゃないわ、あはは。
「そうですか?...一応言っておきますが、ミリアーナ様の様子は陛下に報告していますので、体調が悪い場合隠していると、陛下が心配されます、ですから出来るだけ隠さないでくださいね」
「はぇっ!?」
え!?報告?なんて事を!!!そんなの聞いてないわよ!?
じゃあ今までの部屋でやってきた事が筒抜けじゃないの!!やだ、恥ずかしいわ!!
「あの、それはやめるわけには「いきません」だったら、今のは「報告しておきます」」
私が慌てて捲し立てると、的確にコレットが否定してくる。
もうなんなのよ!!
いーやー!!なんでよ!!なんでなのよーー!!
ミリアーナの悲鳴じみた声がが心の中で反響したのだった。
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