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帝国編
令嬢、城で目覚める
しおりを挟む何だろうこの温さ。ここ何日かで味わった中でもダントツに気持ちいい寝心地だわ。
私家に戻ってきたのかしら?
あ、もしかしたら国外追放なんて最初からなかったし婚約破棄自体されてなかったんじゃ...
そうよ、そうなんだわ!と自己完結していると声をかけられた。
「おはようございます、ミリアーナ様」
あ、起こしに来てくれたのかしら?
もうそんな時間なのね。
「...ん」
私はまどろみから冷めた頭を持ち上げゆっくりと目を開け、声がした方に顔を向ける。
「...え、誰?」
頭を持ち上げた状態で急に硬直した私を見て驚いた様子もなくメイドは自己紹介をしてくれる。
「ミリアーナ様、今日から貴方様のお世話をさせていただきます、コレットといいます。どうぞコレットと呼んでください。」
「えっと、コレットさん?見ない顔だけど新しく雇われたメイドなのかしら?」
「?いいえ、1年半ほど前からこのお城で務めております」
「ヘ~そうだったの.........ってお城!?貴方今お城と言いました!?」
「はい、確かに言いましたがそれがどうかなさいましたか?」
なんでこの子はこんなに冷静なの?
私はこんなにパニックになってるのに...
それにお城ってどういうこと?私は公爵家にいたんじゃなかったの?
しかし、その疑問は直ぐに解消された。
トントントン
「ミア、起きているか?」
ノックの後に続く言葉に何故だか聞き覚えがあった。そんなことを思っているとコレットっと呼ばれるメイドが扉に近づき静かに扉を開けてくれた。
扉の前に立っていた人は...
「貴方は...」
あの時の男性だ...確かハル様と言ったかしら。
じゃぁ、昨日の申し出は嘘ではなかったということ?そうだとしたら私はあの後眠ってしまったのね...だってそれまでの記憶がないから。
薄々感ずいていたのだけどまだ信じたくなかったのよね...それに、公爵家よりも広く綺麗な部屋がここは私の家じゃない、と教えてくれているようで、なんだか悲しくなったのよ。
ハル様は扉の前からスタスタと此方に歩いてくると私の横にしゃがみ込み、私がハル様を見下ろす体勢となった。
「よく眠れたか?」
「...はい、よく眠れました」
暗闇で見た時よりも眩しさの増したお顔のハル様が「それは良かった」と言って色香たっぷりに微笑むものだから思わず顔が熱くなった。
「そ、その、この部屋はハル様が用意したものなのですか?」
恥ずかしさを誤魔化すために早口に喋りかけると、
「あぁ、気に入ったか?気に入ったのならこの部屋はミアにやろう」
「え!?やる?この綺麗なお部屋をですか?」
「言っただろう?私の家に来いと、言い出した私がいいと言っているんだ、安心してこの部屋を使え」
「そ、それでは有難く使わせていただきますわ」
「あぁ、そうしろ」
はぇぇ、なんか凄いことになってしまったけど流石にただで住まわせてもらうのは良くないわよね?何もせずにお部屋を貸してもらうよりやはり私もなにかお手伝いをしたほうがいいし、聞いてみようかしら。
「あの、出来れば何か仕事をください」
「急にどうした、ミアは別に働かなくていいんだぞ?ミアは貴族だろ?」
「......」
え、バレてる...
「何でという顔をしているが、そんな綺麗な顔と仕草をしていたら誰だって気づく、見ていたところ別段隠していた訳ではなさそうだが、それでも気づかれないと思っていたみたいだな」
そう、だったのね...
「じゃぁ、聞きますが貴方は何者なんですの?こんな部屋を用意できるのです。それにここはお城と聞きました。部屋を自由に出来るのですからそれなりの身分のはずです......もしかして宰相とか...」
いや、だったらそんな人があんな平民街に居るはずが...
そんな事を思っていると目の前のハル様は慌てて叫んだ。
「あんな奴と一緒にするな!」
「...え?お知り合いなんですか?」
「あっ、いや......」
あれ、急にどもってしまったわ。どうしたのでしょう?
やっぱりお医者様を呼んだ方がいいんじゃないかしら?
「ミリアーナ嬢、医者は必要ないですよ?そこの馬鹿が私と同じにされてショックを受けているだけですから」
「まったく失礼な奴です」と付け加えた人を見遣れば茶色い髪にハル様と同じ金色の瞳をした男性が扉の前に立っていた。
「お初にお目にかかりますミリアーナ嬢、私はこの城で宰相を務めておりますアイザック・ヒューバートと申します、今朝はよく眠れましたか?」
「は、はい、とてもよく眠れました」
「そうですか、それは良かったです。」
「ですが...」と続けたアイザック様はハル様の方を向き、その綺麗な顔で冷笑を作り何やら聞き捨てならない言葉を放った。
「陛下?ここで何をしているんですか?」
そう言ったアイザック様の背後から氷のブリザードが...!
幻覚からしら?幻覚ならいいのだけど...ってそんな事考えている場合じゃない!今すっごく変な単語を聞いたのだけど...!
「あの、陛下って誰のことですの?」
私が慌てて質問するとアイザック様は氷のブリザードをしまい(どういう仕組みなのかしら?)はぁとため息をつくと説明をしてくれた。
「陛下、ミリアーナ嬢にお名前を伝えていなかったのですか?」
「あぁ」
お名前ならちゃんと聞いたわよ?ちゃんとハル=ディランと。もしかして家名の事かしら?それだったら確かに聞いていないわね。こんな広いお城で務められるくらいです。きっと有数の貴族なんだわ!きっとそうよ!だからアイザック様がハル様の事を陛下と呼んでいたのはきっと私の聞き間違いよ!!
とひとりで勝手に納得した。
私を見て少し残念な子を見るような目で見られたけど、知ったこったちゃないわよ!
てもそんな私の気持ちを裏切るようにハル様は立ち上がり一歩下がると、
「ミア、改めて名乗ろう、私の名前はハル=ディラン・クラシウスと言う。ちゃんと名乗らずに、すまなかった」
そう言うとハル様はとても綺麗な洗練された騎士の礼をとった。
クラシウス!?クラシウスって言ったらこの国の名前じゃない!?誰よ家名なんて思ったの!国名じゃないの!
何だろう...この気持ち。なんとも言えないわ...
ビックリしてはいるのだけど、いるのだけど、
なんで陛下ともあろうお方が平民街になんかいたの!?もうそればかりが甚だ疑問よ!
「......」
どうしよう、何も言えないわ。
何か言わなければ行けないのだろうけど、何を言っていいか、驚いたらいいのか、なんであんな所にいたのか、とか考えるとキリがないからつい何も言わずに固まってしまったわ...。
誰か、助けてください...。切実に願います。
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