国を追い出された令嬢は帝国で拾われる

氷雨

文字の大きさ
上 下
12 / 53
帝国編

令嬢、城で目覚める

しおりを挟む
    


何だろうこの温さぬく。ここ何日かで味わった中でもダントツに気持ちいい寝心地だわ。

私家に戻ってきたのかしら?
あ、もしかしたら国外追放なんて最初からなかったし婚約破棄自体されてなかったんじゃ...

そうよ、そうなんだわ!と自己完結していると声をかけられた。


「おはようございます、ミリアーナ様」

あ、起こしに来てくれたのかしら?
もうそんな時間なのね。


「...ん」

私はまどろみから冷めた頭を持ち上げゆっくりと目を開け、声がした方に顔を向ける。


「...え、誰?」


頭を持ち上げた状態で急に硬直した私を見て驚いた様子もなくメイドは自己紹介をしてくれる。

「ミリアーナ様、今日から貴方様のお世話をさせていただきます、コレットといいます。どうぞコレットと呼んでください。」


「えっと、コレットさん?見ない顔だけど新しく雇われたメイドなのかしら?」


「?いいえ、1年半ほど前からこのお城で務めております」


「ヘ~そうだったの.........ってお城!?貴方今お城と言いました!?」


「はい、確かに言いましたがそれがどうかなさいましたか?」


なんでこの子はこんなに冷静なの?
私はこんなにパニックになってるのに...
それにお城ってどういうこと?私は公爵家にいたんじゃなかったの?


しかし、その疑問は直ぐに解消された。


トントントン

「ミア、起きているか?」

ノックの後に続く言葉に何故だか聞き覚えがあった。そんなことを思っているとコレットっと呼ばれるメイドが扉に近づき静かに扉を開けてくれた。

扉の前に立っていた人は...

「貴方は...」


あの時の男性だ...確かハル様と言ったかしら。
じゃぁ、昨日の申し出は嘘ではなかったということ?そうだとしたら私はあの後眠ってしまったのね...だってそれまでの記憶がないから。
薄々感ずいていたのだけどまだ信じたくなかったのよね...それに、公爵家よりも広く綺麗な部屋がここは私の家じゃない、と教えてくれているようで、なんだか悲しくなったのよ。




ハル様は扉の前からスタスタと此方に歩いてくると私の横にしゃがみ込み、私がハル様を見下ろす体勢となった。


「よく眠れたか?」


「...はい、よく眠れました」

暗闇で見た時よりも眩しさの増したお顔のハル様が「それは良かった」と言って色香たっぷりに微笑むものだから思わず顔が熱くなった。

「そ、その、この部屋はハル様が用意したものなのですか?」

恥ずかしさを誤魔化すために早口に喋りかけると、

「あぁ、気に入ったか?気に入ったのならこの部屋はミアにやろう」


「え!?やる?この綺麗なお部屋をですか?」

「言っただろう?私の家に来いと、言い出した私がいいと言っているんだ、安心してこの部屋を使え」


「そ、それでは有難く使わせていただきますわ」

「あぁ、そうしろ」

はぇぇ、なんか凄いことになってしまったけど流石にただで住まわせてもらうのは良くないわよね?何もせずにお部屋を貸してもらうよりやはり私もなにかお手伝いをしたほうがいいし、聞いてみようかしら。

「あの、出来れば何か仕事をください」

「急にどうした、ミアは別に働かなくていいんだぞ?ミアは貴族だろ?」

「......」


え、バレてる...


「何でという顔をしているが、そんな綺麗な顔と仕草をしていたら誰だって気づく、見ていたところ別段隠していた訳ではなさそうだが、それでも気づかれないと思っていたみたいだな」


そう、だったのね...

「じゃぁ、聞きますが貴方は何者なんですの?こんな部屋を用意できるのです。それにここはお城と聞きました。部屋を自由に出来るのですからそれなりの身分のはずです......もしかして宰相とか...」


いや、だったらそんな人があんな平民街に居るはずが...

そんな事を思っていると目の前のハル様は慌てて叫んだ。

「あんな奴と一緒にするな!」

「...え?お知り合いなんですか?」

「あっ、いや......」

あれ、急にどもってしまったわ。どうしたのでしょう?
やっぱりお医者様を呼んだ方がいいんじゃないかしら?

「ミリアーナ嬢、医者は必要ないですよ?そこの馬鹿が私と同じにされてショックを受けているだけですから」

「まったく失礼な奴です」と付け加えた人を見遣れば茶色い髪にハル様と同じ金色の瞳をした男性が扉の前に立っていた。


「お初にお目にかかりますミリアーナ嬢、私はこの城で宰相を務めておりますアイザック・ヒューバートと申します、今朝はよく眠れましたか?」

「は、はい、とてもよく眠れました」

「そうですか、それは良かったです。」

「ですが...」と続けたアイザック様はハル様の方を向き、その綺麗な顔で冷笑を作り何やら聞き捨てならない言葉を放った。


「陛下?ここで何をしているんですか?」


そう言ったアイザック様の背後から氷のブリザードが...!

幻覚からしら?幻覚ならいいのだけど...ってそんな事考えている場合じゃない!今すっごく変な単語を聞いたのだけど...!


「あの、陛下って誰のことですの?」

私が慌てて質問するとアイザック様は氷のブリザードをしまい(どういう仕組みなのかしら?)はぁとため息をつくと説明をしてくれた。



「陛下、ミリアーナ嬢にお名前を伝えていなかったのですか?」


「あぁ」


お名前ならちゃんと聞いたわよ?ちゃんとハル=ディランと。もしかして家名の事かしら?それだったら確かに聞いていないわね。こんな広いお城で務められるくらいです。きっと有数の貴族なんだわ!きっとそうよ!だからアイザック様がハル様の事を陛下と呼んでいたのはきっと私の聞き間違いよ!!

とひとりで勝手に納得した。

私を見て少し残念な子を見るような目で見られたけど、知ったこったちゃないわよ!

てもそんな私の気持ちを裏切るようにハル様は立ち上がり一歩下がると、


「ミア、改めて名乗ろう、私の名前はハル=ディラン・クラシウスと言う。ちゃんと名乗らずに、すまなかった」

そう言うとハル様はとても綺麗な洗練された騎士の礼をとった。


クラシウス!?クラシウスって言ったらこの国の名前じゃない!?誰よ家名なんて思ったの!国名じゃないの!

何だろう...この気持ち。なんとも言えないわ...
ビックリしてはいるのだけど、いるのだけど、


なんで陛下ともあろうお方が平民街になんかいたの!?もうそればかりが甚だ疑問よ!

「......」

どうしよう、何も言えないわ。
何か言わなければ行けないのだろうけど、何を言っていいか、驚いたらいいのか、なんであんな所にいたのか、とか考えるとキリがないからつい何も言わずに固まってしまったわ...。


誰か、助けてください...。切実に願います。











しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった

雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。 人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。 「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」 エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。 なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。 そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。 いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。 動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。 ※他サイト様にも投稿しております。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...