3 / 5
3話 2人の奴隷
しおりを挟む「1500!!」
俺は再び芯のある声で叫んだ。
「...」
案の定周りは静まり返った。
その静けさに当てられ、俺も少し焦った。何をって?勿論金だ。ここまで競り上げたんだ、あとからやっぱり払えませんじゃ困る。俺は咄嗟にポケットに手を突っ込み束の数を確認した。
そしてこの金は無限にあるかのように数えれば数える程増えていくような感覚を覚えた。
もし金がなかったらもう逃げるしかないが、たぶん杞憂に終わるはずだ。漠然とだがそう思えた。
このポケット凄すぎない!?と心の中で思いながらも、口ではもう一度「1500!!」と声に出した。
それからはもう何が何だか分からないまま、物凄い喧騒に包まれたかと思えば落札者が別室にそれぞれ集められ、それぞれの手続きが始まった。
落札順で言うと俺は最後のため、手続きの時間が随分と遅くなってしまった。
体感で1時間ほど待っていると、ご機嫌な男がゴマすりをしながら近寄ってきた。
「いやいやお待たせいたしました...何せ今日は大盛況であったもので...」
すりすりすりすりと手を擦り合わせながら始終低姿勢の小太りの男は早速落札した奴隷達を連れてきてくれた。
木でできた扉がキィと音を立てながら開くと先程見た奴隷達が鎖で繋がれながら連れてこられた。
俺はそれにピクリと眉を動かすものの、平常心を保ちながら小太りの男に声をかけた。
「2300万ギルティでよろしいか?」
舐められることの無いよう、少し高圧的な口調で声をかけてみる。
「は、はいぃ、よろしゅうございます!」
俺は少し緊張しながら先程準備していたお金を渡した。実はここで1番不安に思ったのがどうやって見た目手ぶらの男からこれだけの金が出てきたのかを警戒されないかだった。
待合室で待つ中、非常に困っていた俺は、バックでもないかなぁ、いっぱい入るやつ...。
と心の中で呟いた時、丁度ポケットに手を突っ込んだまま固まっていた俺の手に、硬い感触の何かが触れたのだ。
取り出してみるとなんと鞄だった。
不思議に思いながらも異世界ならありえなく無いな、と無理やりに自分をな納得させて思いっきりポッケの中からトランクを引き抜いたのだった。
小太りの男は興奮を隠しきれない顔でその鞄を慎重に受け取ると、中身をいそいそと確認しだした。
冷や汗が流れる。
あー足りなかったらどうしよ。
ポケットからだしてもいいけど、あんまり足りないと怪しまれるよなぁ…!どうしようかなぁ!!
という考えは杞憂に終わり、しっかりお金は足りていたようだ。その事に小さく息を吐き出した。
「大丈夫だろうか?」
「は、はい丁度あります!」
「では、この者たちに着るものを与えてやれないだろうか、勿論金は支払う」
「き、着るものですか?それは何故です?...あ、あぁ分かりました恥をかかせようということですね!流石でございます!!」
「...恥?それはどういう...」
訳が分からず声に出すが、男にはどうやら聞こえなかったようですぐさま奥へと引っ込んでしまった。
そして早足に戻ってきたかと思えば、2人の奴隷達に上等そうな白シャツと黒のズボンを着させ、無難な黒色の靴を履かせると、此方へと連れてきた。
本来は艶やかな紅だろう真っ直ぐな髪に金色の瞳の細身の男と、癖のある黒髪に真っ赤な瞳を持つまたもや細身の2人の男が目の前に連れてこられた。
2人とも俺より頭1つ分高く、全てに絶望したようなそれでいて無機質な瞳をしていた。そして彼らに限らずあそこに並べられていた奴隷達はみな揃ってやせ細っていた。
きっとあまりいい扱いを受けずに暮らしてきたのだろうことがすぐに分かった。
それと同時に、この世界の奴隷にはあまり人権がないということも。
俺はそのあとも着々と手続きを済ませ、無事に彼らを買い受けることが出来た。
ガチャりと重たそうな枷が外される。
それと同時に、くっきりと残った枷の痕跡に俺は眉をしかめた。
「これからもご贔屓に!!マーレス商会はいつでも貴方様をお待ちしております!!」
そう言って外へと送り出されたのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
魔王さんのガチペット
回路メグル
BL
人間が「魔族のペット」として扱われる異世界に召喚されてしまった、元ナンバーワンホストでヒモの大長谷ライト(26歳)。
魔族の基準で「最高に美しい容姿」と、ホストやヒモ生活で培った「愛され上手」な才能を生かして上手く立ち回り、魔王にめちゃくちゃ気に入られ、かわいがられ、楽しいペット生活をおくるものの……だんだんただのペットでは満足できなくなってしまう。
飼い主とペットから始まって、より親密な関係を目指していく、「尊敬されているけど孤独な魔王」と「寂しがり屋の愛され体質ペット」がお互いの孤独を埋めるハートフル溺愛ストーリーです。
※第11回BL小説大賞、「ファンタジーBL賞」受賞しました!ありがとうございます!!
※性描写は予告なく何度か入ります。
※本編一区切りつきました。後日談を不定期更新中です。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる