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3話 2人の奴隷

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「1500!!」

俺は再び芯のある声で叫んだ。


「...」

案の定周りは静まり返った。

その静けさに当てられ、俺も少し焦った。何をって?勿論金だ。ここまで競り上げたんだ、あとからやっぱり払えませんじゃ困る。俺は咄嗟にポケットに手を突っ込み束の数を確認した。
そしてこの金は無限にあるかのように数えれば数える程増えていくような感覚を覚えた。
もし金がなかったらもう逃げるしかないが、たぶん杞憂に終わるはずだ。漠然とだがそう思えた。

このポケット凄すぎない!?と心の中で思いながらも、口ではもう一度「1500!!」と声に出した。

それからはもう何が何だか分からないまま、物凄い喧騒に包まれたかと思えば落札者が別室にそれぞれ集められ、それぞれの手続きが始まった。


落札順で言うと俺は最後のため、手続きの時間が随分と遅くなってしまった。


体感で1時間ほど待っていると、ご機嫌な男がゴマすりをしながら近寄ってきた。

「いやいやお待たせいたしました...何せ今日は大盛況であったもので...」

すりすりすりすりと手を擦り合わせながら始終低姿勢の小太りの男は早速落札した奴隷達を連れてきてくれた。

木でできた扉がキィと音を立てながら開くと先程見た奴隷達が鎖で繋がれながら連れてこられた。

俺はそれにピクリと眉を動かすものの、平常心を保ちながら小太りの男に声をかけた。

「2300万ギルティでよろしいか?」

舐められることの無いよう、少し高圧的な口調で声をかけてみる。

「は、はいぃ、よろしゅうございます!」

俺は少し緊張しながら先程準備していたお金を渡した。実はここで1番不安に思ったのがどうやって見た目手ぶらの男からこれだけの金が出てきたのかを警戒されないかだった。
待合室で待つ中、非常に困っていた俺は、バックでもないかなぁ、いっぱい入るやつ...。
と心の中で呟いた時、丁度ポケットに手を突っ込んだまま固まっていた俺の手に、硬い感触の何かが触れたのだ。

取り出してみるとなんと鞄だった。

不思議に思いながらも異世界ならありえなく無いな、と無理やりに自分をな納得させて思いっきりポッケの中からトランクを引き抜いたのだった。



小太りの男は興奮を隠しきれない顔でその鞄を慎重に受け取ると、中身をいそいそと確認しだした。

冷や汗が流れる。
あー足りなかったらどうしよ。
ポケットからだしてもいいけど、あんまり足りないと怪しまれるよなぁ…!どうしようかなぁ!!

という考えは杞憂に終わり、しっかりお金は足りていたようだ。その事に小さく息を吐き出した。


「大丈夫だろうか?」

「は、はい丁度あります!」

「では、この者たちに着るものを与えてやれないだろうか、勿論金は支払う」

「き、着るものですか?それは何故です?...あ、あぁ分かりました恥をかかせようということですね!流石でございます!!」

「...恥?それはどういう...」

訳が分からず声に出すが、男にはどうやら聞こえなかったようですぐさま奥へと引っ込んでしまった。

そして早足に戻ってきたかと思えば、2人の奴隷達に上等そうな白シャツと黒のズボンを着させ、無難な黒色の靴を履かせると、此方へと連れてきた。

本来は艶やかな紅だろう真っ直ぐな髪に金色の瞳の細身の男と、癖のある黒髪に真っ赤な瞳を持つまたもや細身の2人の男が目の前に連れてこられた。

2人とも俺より頭1つ分高く、全てに絶望したようなそれでいて無機質な瞳をしていた。そして彼らに限らずあそこに並べられていた奴隷達はみな揃ってやせ細っていた。
きっとあまりいい扱いを受けずに暮らしてきたのだろうことがすぐに分かった。

それと同時に、この世界の奴隷にはあまり人権がないということも。

俺はそのあとも着々と手続きを済ませ、無事に彼らを買い受けることが出来た。


ガチャりと重たそうな枷が外される。

それと同時に、くっきりと残った枷の痕跡に俺は眉をしかめた。

「これからもご贔屓に!!マーレス商会はいつでも貴方様をお待ちしております!!」

そう言って外へと送り出されたのだった。



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