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1話 競り場 ①
しおりを挟む気がついたら俺は競り場に立っていた。
周りには俺のように立っている奴らがちらほら。ただ俺と違うところがあるとすれば、掌に小さな袋を握りしめながら何かを言っている事だ。
そしてその異様な光景に拍車をかけているのが仮面であった。
仮面舞踏会で付けるような顔の上半分を覆う仮面を被りながら彼ら彼女らは「100だ!!」「120だ!!」などと数字を出しては大騒ぎしていた。
そしてなんと言ってもこの目の前に広がる光景を俺はただただ唖然と眺めていることしか出来なかった。
数十人の人間が煤けた格好をして磔にされている光景を誰が予想できただろうか。
恐らく俺と同じ国で暮らす人々は黙って見ていることは出来ないだろう。
そう分かっていながらも、俺は酷く混乱していた。
なぜなら。
思い出せないのだ。
家族も、名前も、友人も。
思い出そうとして思い出せたのは、日本で暮らして得た知識と経験だけ。
そんな状態でも辛うじて今の状況を理解した程度。ここからどうしたらいいのかが分からない。
というかここがどこかも分からない。
ここに来る前、確かにどこかへ向かっていたはずだったんだ。だけどその場所が分からない。
俺はもう、この状況に驚いたらいいのか、それとも記憶の欠落に混乱したらいいのかそれすらも分からなかった。
ただひとつ分かるのは、この目の前の光景に酷く怒りを覚えていることだけだった。
俺は状況整理のためまず自分の体を触った。鏡がなかったから自分の姿を見ることは出来ないが、今は容姿のことなどどうでもよかった。
顔を触れたり、手を見たり、足元や服を見た限り、自分はこの会場の人達に劣ることの無い、いやそれ以上に上等な服を身につけていたのと、しっかりと仮面をつけていたことだ。そして何よりも沢山のお金を俺は持っていた。
衝撃だった。懐を探れば金の硬貨の詰まった小袋が出てきたし、ズボンのポケットに手を突っ込めば綺麗な札束が何束も出てきたのだ。
そしてここでもうひとつ衝撃だったのが、なんとポケットの底が無かったのだ。どんどん手が入っていくもんだから直ぐに腕を引き抜いたが、俺の間抜けな姿は数人には目撃されたのではないかと思う。
まぁそれはいいとして、俺はとにかく大量の金を持っていることが分かった。
そして気がつく。
もしかして俺、異世界に転移したんじゃないか?と...。服が全然日本人仕様じゃないけど恐らく成人は迎えているような身長だから多分転生じゃないとは思う。
まぁそれもこの際良いとして、この状況をしっかり理解しよう。
周りの人と目の前の光景を見ればだいたい予想はつくが、恐らく競売かなんかの場所にいるのではないかと思う、それも人間の。
服もそうだが、派手な髪色が多いし、知らない言語が飛び交っているから間違いなく地球ではない。
そんなことを考えながら俺を人垣を掻き分け慎重に前に進んでいくと、前から2列目辺りまで出てくることが出来た。
少し窮屈だが、今は我慢する。
やんややんやと声が飛び交う中俺は必死に、恐らく奴隷なのであろう彼らを眺めた。
計10人の男性達が苦悶の表情を浮かべながら鎖で磔にされている。右端から順に番号で記されており半裸になっている男たちの腹には番号が書き込まれていた。
今しがた、8番目の奴隷が買われてしまった。
そして、9番目の競り合いが始まった。
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