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わたくし、ルチアーノ・ステラスローンともうします。

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「わたくし、ルチアーノ・ステラスローンともうします、どうぞよろしくおねがいします」


と、私は目の前の天使様に自己紹介をした。
しかし、帰ってきた言葉は感情が一切籠っていない無機質な返答だった。


「そう…」

そんな反応をされると少し悲しいが、私は諦めずに笑顔で天使様に言った。

「はい、どうぞルチアと呼んでください!」

「……」


ま、まさかの無視ですか。

悲しい、とても悲しいわ。


お母様とお父様から、「これから仲良くするのよ?決して粗相はしでかさないでね?」と固く言われたのを今でも覚えている。


お父様とお母様に連れられてやってきたのはこの広い豪邸とお庭、華美な装飾が目立ち「こってるな~」とか「うわっ、キラキラしすぎよ!!」なんて子供らしからぬ苦言を吐きながら来たものの、今いる私の庭園は質素なもの、目の前にそびえる屋敷も立派なもののどこか寂しさを感じられるものだった。


そしてなんと言ってもこのお方、そう、今私の目の前にいる天使様のお家なんです。

天使様もとい、ノア・バーナード様、公爵家の嫡子で、お母様が王妹であらせられる凄いお方なんです。そんなお方となぜこんな小娘と一緒にいるのかって?それは私も一応貴族の娘だからです。

かと言って私の家は伯爵家、それも田舎貴族で、もっと言えばノア様の家、バーナード家の管理下にある土地を治めているためステラスローン伯爵家はバーナード公爵家には逆らえません。

ですから先程お母様とお父様に言われたように、私はノア様の機嫌を損ねるような真似は出来ないのですよ。


はぁ、なんでこんな子供のうちから苦労しなくちゃいけないのだろう。

まだ子供なのに…ここでカミングアウトなのですが、実は私、中身20歳超えてるんですよね。
所謂転生というやつです。

あの時の私は何をドジ踏んだのか分かりませんが、どこか高い所から落ちて死んでしまったんですよね。折角、必死に受験勉強して勝ち取った高校生活だったのに、まさか入学早々1ヶ月も経たないうちに死んでしまうなんて……はぁ、なんて運が悪かったんだろうかあの頃の私は。

だから正確に言えば外見は子供でも脳みそはしっかりとした大人です。
ただここは転生、いくら大人な考えはできてもその思考はやはり子供の体に引っ張られます。
ですから時々子供のような態度や発言をしてしまう時もしばしば、それでもこんな不思議な子供のせいかおかげか、両親は手がかからない子供と早々に判断し育児を放棄しました。


普通の子供ならそんな事されれば病みますよ?
でも私は前世でそれなりに愛されて育てられたので問題ありません、時々悲しくなることはあってもそれ程気にしていませんし、私も早々に諦めましたからね。

まぁこんな話をしてもつまらないだけでしょうし、聞きたくなったらまたお話しましょう。え?誰に話すのかって?誰でしょうねぇ、私結構変わり者ですからあまり気にしないでください。

まぁお話はそこまでにして、今は目の前の天使様です。
心無しか少しだけ機嫌が悪くなったようですね。え、私はただ挨拶しただけですよ?え、どうして?

頭にいくつものハテナマークが浮かぶものの、私のお家のためにもすぐにでも天使様の機嫌を良くしなければなりません。

なんで私は先程よりも気持ち優しめに問いかけました。


「天使さ、ノアさまとおよびしてもよろしいですか?」

いっけない!私ったら、ゲフゲフっ、つい口が滑ってしまって。


だってだって、目の前におられる天使様がまさに天使なんですもの!なんでこんな美少年なのかしら、私にもその美貌分けてくださらない?

特にその天使の輪が浮かぶ御髪なんて日光に照らされてキラキラと輝いていらっしゃるし、少し癖気味の髪だってふわふわしていて!!

それにそれに、瞳だって虹色!こんなことってある!?碧よりだけど光の下にいると虹色に輝くその瞳は何なのかしら!?本当に羨ましい!!!

私なんて前世と同じ黒髪セミロング、少し自慢できることと言ったら瞳が琥珀色で濁りが無いことぐらい!

ノア様の金髪と比べたら黒なんて対極の地味な髪色、はぁ、なんで神様はこんなに不公平な事するのかしら。私にもその美貌を分けて!!


ごほんっ、し、失礼しました、つい熱くなってしまったみたいで。いけないいけない、目の前の天使様に集中しなきゃ。

そう思って耳をそばだてると、天使様が何か言ってきた。


「…ぶな」

「え?…」

今なんて?


「勝手に僕の名を呼ぶな」

「……」

な、なんと言うこと、私は益々機嫌を損ねてしまったようです。


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これからよろしくお願いします。
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