11 / 13
第1章 帝国編
11話 なんやかんや
しおりを挟む「ねぇ、考え直さない?」
「ダメよ、ずっと貴方に乗せてもらうなんて出来ないもの」
あれから何十分か経ったが、未だに私たちはガイル湖付近にとどまったままだった。
何故かと言うと、何度もこのような問答を繰り返しているからだ。
「じゃあこの先ずっと、貴方が何処へ行くにも私を連れて行ってくれるって言うの?そんなの無理よ!」
「無理じゃない!」
なんだか、告白みたいに聞こえなくは無いが、今はそんなこと言ってられないので、私は真剣に彼、そういえばリヒトと言ったか、リヒトに真面目に言ったのだ。
すると、先程までの困ったような顔が一瞬で真面目な顔へと変わった。
彼はその金色の瞳に私を映しながら口を開いた。
「無理なんかじゃないよ...俺は本気だ、確かに俺たちは出会ったばかりだから、信じてもらえないのも分かってはいるんだ、だけどこの...君への想いだけは否定しないで欲しい...」
そう言って少し眉尻を下げながら、泣きそうな顔をした。
「ごめんなさい...人からの好意が分からなくて...理屈では理解しているのだけど、信じられなくて、信じたくなくて...それで...」
「...お前は道具でしかないのだから人間として生きようとするな」
「公爵家の子供として生まれていなければお前は使用人以下の存在だ」
何年も何年もそう言われ続けたせいで、今更向けられた好意を素直に受け取れるほど、私は純粋じゃなくなってしまったのだ。
日本の知識や経験がある分、自分の今の状態がどう言ったものか分かってはいる。
けれど、前世を思い出す前までは悪役令嬢のエリシア・ラズヴェルトとして生きてきたのだからその性格が直ぐに変わるわけもなかった。
「...それで」
ポツリと静かな、それでいてどこか迷子の子供のような声が自分の口から零れ落ちる。
「...ごめんね、君を困らせたくはないんだ、だからそんな泣きそうな顔をしないで」
そう言って剣だこのついた大きな手が私の頬を包み込む。
「...ねぇ、どうしら君は笑ってくれる?俺は君の笑顔が見たいよ...エリシア」
辛そうに顔を歪めたリヒトがエリシアと辛そうに名前を呼んだ。
その事に驚くとともに、涙が一筋頬を伝った。
「...名前、覚えていたのね、リヒト」
「...!!、君もじゃないか」
伝った涙をリヒトがそっと掬いとる。
「ふふっ、そうね、なんだか呼んでみたくなっちゃった」
「あぁ~、なんで君はそう俺を殺しにかかるんだろうね」
「あら大変、あなた今死にそうなの?」
「あぁ、なんだか君を見てると妙に動悸が早くなるんだ、病気かもしれない」
そう言って「うっ」とわざとらしく苦しそうに呻き声をあげる。
「まぁ、それじゃあ病院に行かなきゃならないわね」
すかさず私がそう言えば、「いや、病院より君のそばにいた方が治るのが早そうだ」と言って、空いていた片方の手を私の指に絡めてきた。
「それ、意味なくない?」
「確かに」
ぷっとお互いに吹き出す。
先程の悲しい雰囲気が一気に明るくなった。
私は「ふふっ」と軽く笑うと、リヒトの目をしっかりと見つめながら口を開いた。
「...一緒に冒険、してもいいわよ」
「貴方となら楽しそうだもの」と言って笑いかけると、当の本人は頬を紅くして、その目が溢れんばかりに見開かれた。
「ちょ、ちょっと待って、え、本当に?俺とバディ組んでくれるの?...ぇぇ、やばい、凄い嬉しい」
そう言って、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「...そんなに照れること?」
「いや、別にそれに対して照れてる訳じゃなくて、君の笑顔が凶器というか...」
「...誰の笑顔が凶器ですって?」
「いや、それは言葉の綾であって...別に君の笑顔が凶器そのものというわけでは...」
「へぇ、そうですか、分かりました、バディは解消しましょう」
「はぁ!?ちょっと待って、それだけはやめて、お願い!!!」
さっきまでの照れ顔はなりを潜め、今はただ必死な形相で脂汗を流している。
「...」
なんだか、こんなふうに会話するのが楽しいと、そう思えている時点で、私も少なからず彼に惹かれているのかもしれないしれない。
「もう、冗談よ...ふふっ、褒めてただけでしょ?私の顔は整ってるもの」
「あ、それ自分で分かってたんだね、でもそれを自分から言っちゃうのもいい...」
「もう何言ってるの、さっさと行くわよ?連れていってくれるんでしょ?」
「もちろん!!任せてくれ」
こんなにもコロコロと表情が変わるものかとビックリする反面、ちょっと犬みたいだな...と思い始める。
まるで主人の言葉に一喜一憂する犬のような...いや待ってさすがにリヒトが年上だったら失礼よね。
そう思って聞いてみる。
「そう言えばリヒト、あなたって何歳なの?」
「ん?昨日で24歳になったよ」
「えぇ!?あなた昨日誕生日だったの?」
「誕生日?誕生日だと何かあるの?」
あぁ、そうね、ゲームのキャラじゃないリヒトは日本の知識がないから、誕生日を知らないのだわ。
ゲームじゃもちろん誕生日イベントというものがあって、攻略対象も他の、それこそ王国中の人々が知っていたはず、もしかしたらあの国だけがゲームの舞台になっていて、そのほかの国々の人々はそもそもの世界の成り立ちが違うのかもしれない。
うーん、ちょっと考えれば考えるほど難しいことのように思えるので、とりあえずそこら辺を考えるのは後回しにしようと思い、思考を切り変えた。
「えぇ、私のいた国じゃみんなから贈り物を貰ったりしてお祝いされるのよ」
「そうなんだね、逆に俺は君に贈り物をしたいな」
「それは遠慮しておくわ、とりあえず先に買い物に行きましょう?」
「...えぇ?」
困惑気味なリヒトの手を引っ張って屋台の並ぶレンガ通りを進む。
そんな私をリヒトは楽しそうに見ていたのだが、私はまたもお上りさんのごとく色々なものに瞳を輝かせていたので気が付つことはなかったのだった。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。
藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。
「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」
十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。
父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。
食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。
父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。
その時、あなた達は後悔することになる。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる