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第1章 帝国編
10話 再会
しおりを挟むあれから半日もかからずにガイル湖街へと入った。それから1時間ほどしたところで馬車は止まり、「...ここから10分ほど歩くとガイル湖が見えてくるぞ」と業者のおじさんに教えてもらった。
その際に、目元が赤いことを指摘されたがなんとか誤魔化して、今はガイル湖行きの道を歩いている。
ここにも屋台がたくさん出ていて、城下程じゃないが凄く賑わっていた。
またお上りさんのごとく町を眺めていると、風に運ばれて不思議な匂いが運ばれてきた。
前方を見ると屋台が途切れた先に花畑が見えた。
早足に花畑の方に向かうと、徐々に徐々に綺麗な湖が見えてきて、日に照らされた湖面がキラキラと輝いていた。
レンガ造りの道を歩きながら湖面に近づくと、青と水色、そして黄緑が混じったようなそんな宝石のような湖面が広がっていた。
よく見ると、奥の方に湖面を光から隠すように水辺と接している木を見つけた。
5分ほどかけて近づいてみると、木の下に50cm程の岩があり、そこに苔が群生していた。
おそらくこの苔がサラサ苔なのだろう。
その他の場所にも目を向けてみると、ここにある木がサラサ苔のように大量の苔が生えていた。
どうやらFランクの依頼だけあって本当に初心者用の依頼らしい。
現に周りは子供が遊び回っているし、チラホラとカップルも見られる。
こんな安全地帯への依頼なのだ、危険なことなんて起こるわけもない。
初めての依頼で、採取もの。
少なからず危険なことがあるかもしれないと身構えていたのだが、緊張して損したかもしれない。
まぁそれは置いておいて、あんまり取りすぎると他の人も困るだろうし、とりあえず手のひらサイズ程の量を布で包んで異空間へとしまった。
「よし、戻りましょう」
すっと立ち上がり、手をパッパっと叩いて汚れを落としていた時だった、聞き覚えのある声がそっと耳元で聞こえた。
「やっと見つけた」
「...!?」
バッと音がしそうなほど早く振り向くと、予想していた人物と目が合い後ずさる。
「いやー、こんな所にいたんだね、探したよ」
「え、どうして...なんでここに」
「えー?うーん、執念?」
てへっと音がしそうなほどおどけた様子で話すその姿は、数日前に見た彼そのもので、違うところがあるとすれば外套で体を隠していないことくらいだった。
金色の瞳が日に照らされて、呼応するようにその輝きが増している。
暗闇であまり見えていなかったが、こうして真昼間に見ると彼の体が細身でありながら凄くがっしりした体をしていることがわかった。
脚はスラリと長く、顔は小さい、身長なんて180どころか190cmくらいありそうだ。
顔もいいのに、体型まで神がかり的にいいときた。
一体神様はあの人にどれだけものを与えたのか...。
口元に艶やかな笑みを浮かべ、こちらを見る様は本当に心臓に悪いと思った。本当に。
話を戻そう。
今さっき執念と言ったが、それほど執着される理由がわからない。私の一体どこに執着する要素があるというのか、てっきり飽きらめているか、そこまで本気じゃなかったと思って忘れようとしていたのに、なんでこの男はここにいるのよ。
偶然?
いえ、そんな偶然あるわけないわ、意図的としか思えない。まさか追っ手?と思ったがそんな人が付き合おうなどと言ってくるわけがない。
では本当に私に会いたくて来た?
いやでも会ったばかりだったのに...そんなことある?何億分の1の確率でありうるのかしら?
いやもしかしたらその何億分の1の確率にこの男があてはまっているだけの話じゃ...。
「...なんか色々考えてるみたいだけどー、俺は君に会いたくてここまで来たんだよ、それは本当、信じて?」
そう言って思考の彼方に行っていた私の髪をひと房手に取ると、チュッと触れるだけのキスをしてきた。
「!?...またあなたはっ」
「えー、仕方ないでしょ?顔にキスしたらまた倒れちゃうかもしれないじゃん、それにこんなに可愛いのに何もしないなんてそんなこと出来ないよ」
あはは~と笑いながらにへらと笑っている男にイラッとする。
なので、私はその金色の髪に手を伸ばし、ぐちゃぐちゃと掻き回してやった。
「...どうよ!今のあなた鳥の巣みたいな頭してるわよっ、また私にキスなんかしてきたらもっと酷いことしますからね!」
「ふんっ」と鼻息荒く言ってやると。
男は「うぐっ」と胸を抑えてうずくまってしまった。
「えっ!?ちょ、ちょっとどうしたのよ!」
慌てて男の背中に手を回すと「かッ、かわいいぃぃ...」と噛み締めるように唸っていたので、心配したのが馬鹿らしくなってきた。
「はあぁぁぁぁーー」
と疲れたようにため息を吐いた私は、時間の無駄とばかりに男に背を向けて歩き出す。
馬車の乗り合い所まで戻るためだ。そもそも依頼の採取は終わっているんだから、話してないでさっさと戻ればよかったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、それはちょっと酷くないかな!?」
と後ろで声が聞こえてきたけど、無視して歩く速度を早める。
「ごめんって、もうしないから、それにこれから冒険者ギルドに戻るんでしょ?なんなら俺の馬があっちで待ってるから一緒に行こう?ね?」
「え、馬...?」
馬と聞いて早めていた足を止める。
話に食いついたと思ったのか嬉しそうに男が話し始めた。
「あぁ!だから一緒に行こう!」
「...いいかもしれないわね、うん、私も馬を買えば馬車代も必要なくなりそう」
「へ...?」
その手があったわ。なんで今まで気が付かなかったんだろ。愛馬を持てば馬車なんて必要なくなるじゃない。よし、貯金はある事だし、これから買いに行こう。
ぽかんとこちらを見る美貌の男が少しおかしくて笑ってしまうが、気を取り直して質問してみる。
「ふふっ、ねぇ、ここら辺で馬を買える場所を知らない?」
「...えっ?あー、それならあっちの方に~って話をそらさないで!ていうか馬を買う気なの?というか乗れるのかい?」
「乗れるわよ、そう、あっちの方にあるのね、ありがとう」
話をそこで終わらせると、私は再び歩き出した。
男が横で何か言っているが、何だかそれが面白く思えて、彼と共に笑いながら歩を進めたのだった。
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