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第1章 帝国編
5話 帝都へ
しおりを挟むぱちりと瞼を開くと、なぜか見覚えのない天井が拡がっていた。
「え、ここはどこなの?」
ベットから上半身を起こし、周りを確認してみれば簡素な部屋であることが分かった。
窓を見れば、空がピンク色に染まり、もうすぐ日の入りが近いことを知らせていた。
横を見ると、サイドチェストに水差しが置いてあり、まるで飲んでくださいとばかりに水が入れられ、置かれている。
喉が渇いていたので遠慮なくふた口ほど水を飲むと、私はベットから起き上がった。
それとほぼ同時に、ガチャリとドアノブが動き、木でできた扉がキィと音を立てて開いた。
「あ、起きたんだね、ぐっすり眠れた?」
そう言って男が近づいてきた。
「あの、どちら様でしょうか?」
「え、覚えてない?ちょっと悲しいな、これでも真剣にお誘いしたんだけどな」
そう言ってバサバサと音がしそうなまつ毛を伏せ、憂いを帯びたようにため息を吐く男性。
その光景を見てだんだんと脳が覚醒し、自分がこの男にいいように翻弄され気絶してしまったことを思い出した。
「あぁ!あの時のっ、す、すみませんっ、びっくりして、私気絶してしまって……ってことはここはあなたの家?」
「そういうのに慣れてないって分かったから今度からは自重するよ、別に謝らないで……それとここは俺の家じゃなくてギルドが貸し出している宿だよ、一応2日分取ったけどどうする?」
そう言って首を傾げる。
その仕草すら破壊的な色気を漂わせている。
ていうか、今度からは自重する?え、今度があるの?あれで終わりじゃないの?それに、どうするってどういうこと?ここを好きに使ってもいいよってこと?
「いいえ、私は他に宿を取るので気にしないでください……それと、先程はすみませんでした、バディの件はまた今度にしてください、それでは!」
そう言って部屋から出ようとすれば、「ちょっと待って!」と言って私の腕を掴んできた。
びっくりして振り返れば、青年が焦ったように口を開く。
「……っ俺の名前はリヒト、君の名前は!?」
「...私の名前はエリシア・ラズ……いえ、エリシアよ」
それだけ言うと私は1度ぺこりとお辞儀をして、部屋から飛び出した。
去り際に見た彼の顔は、心做しか寂しそうな目をしていて、それだけが、少し気になった。
駆け足で階段を下っていくと食堂に出た。
どうやら宿は食堂を経由して行くようで、朝のためかそれほど人はいなかった。
早足で食堂を抜けると、私はそのままギルドを出て、この街に来た時に利用した馬車の停留所に向かった。
「すみません、帝都に行きたいのですが、馬車を出せますか?」
「いらっしゃい、帝都行きの馬車はあの緑の馬車さ、今から丁度1時間ほどで出発するから乗り込んで待っているといい、買い出しとかに行ってもいいが、定員揃うともう乗り込めねーから気をつけろよ」
「承知しました、ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をして、言われた通り緑の馬車に乗り込んだ。
中に入ると私以外に6人ほど座れるようで、既に1組の親子とおじさんが1人乗り込んで座っていた。
邪魔にならないようにスペースを開けて窓際に座ると、真向かいに座っている親子が話しかけてきた。
「お嬢さんも帝都に行くのかい?」
「はい、お姉さんも帝都へ?」
「お姉さんだなんて、アンナと呼んで、この子は息子のズニーよ、私たちは帝都に行ったら、そこから隣国のミスラエル商業都市へ行くの」
「商業都市ですか、そこに家族でも?」
「ええ、出稼ぎに行った夫がそこで働いていて、今度店を出すから一緒に住まないかって言われて、こうして息子と共に向かうところなんです」
「そうなんですね、早く会えるといいですね」
そんな風に他愛ない話をしながら1時間ほど話していると、先程停留所の入口にいたおじさんがやってきた。
「お待たせしやした、これより帝都に向けて出発しやす」
そう言ったおじさんがパタンと馬車の扉を閉めると、数秒後に馬車が走り出したのだった。
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