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俺か、自由か

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「君達の名前を聞いてもいいかな?」


そう言うと、彼らは目を見合せ…片膝をついた。


「俺はアーシャ…半竜人だ」

「私はノア…半魚人の人魚族です」

「…俺はレオリュール……狼獣人だ」


頭を下げ、言われた通りに名前を教えてくれた。薄暗がりの馬車の中であっても十分わかるほど、皆、とても綺麗な顔をしていた。


「アーシャ、ノア、レオリュール、よろしくね」




さて、これからどうしようか…。


買ったはいいものの、正直彼らをどう扱ったらいいのか分からない。一応契約では衣食住を与えてあげるのが契約内容の一部だったが、俺は実の所、この馬車がどこに向かっているのか分からなかった。ただ、俺と乗り合わせていたオッサンが王都に納品に行かなくちゃいけないとか何とか言っていたから、バラモスもおそらく王都に向かっていると思われる。

となると、まずは生活に必要な道具を揃えて、それから4人で住める家を買おう。
家が決まるまでの間は宿をとって、この世界のお風呂に入ってみよう。



ただ、その過程に至るまでに一つ解決しておかなければいけない問題がある。


それは、彼らを自由に暮らしてあげられないことだ。彼らは奴隷なのだから仕方ない、そう思うかもしれないが、俺は出来れば彼らには自由に暮らしてもらいたい。
主人に危害を加えることが出来ないと言うのだから、別に離れて暮らしていても問題ないだろうと思う。だから、俺なんかのところに居ないで、死ぬまで自由に暮らしてくれても一向に俺は構わなかった。

第一、あの3人を買ったお金は俺が汗水流して貯めた金でも、ましてや残り少ない貯金などでもない、ただ俺のアイテムボックスに使い切れないほどの資金があった。だから自分の欲を満たすために彼らを買った。ただそれだけだったのだから。




「君達にひとつ、聞きたいことがある」


俺は、床に片膝をついたまま次の指示を静かに待っている彼らと同じようにしゃがみこみ、片膝をついた。


弾かれたように、3人が顔を上げる。

アーシャはこちらの出方を静かに伺う知的な目をしていているが、反対に、ノアはその瞳を不安そうに揺らし、こちらをじっと見ている。
レオリュールは目を見開き驚くものの、目を伏せ、再び下を向いてしまった。


俺は3人の顔を一人ずつ、しっかりと眺め、口を開いた。


「俺は…この世界のことをよく知らないから……君達に、迷惑をかけるかもしれない」

なんせ俺は、君達を養っていく覚悟も責任も、まだ出来ていないから。


「だから…君達には自由に生きてもらいたい…バラモスと別れ次第、俺は君達の手放す、もしそれが嫌なら俺から離れるなり、ついてくるなり、好きにすればいいよ」

「…君達が、自分で選べばいい」最後にそうとだけ言って、俺はへらっと笑った。


本当…自分でも何言ってんだろって思うよ。

でも、俺も今凄く迷ってるんだ。


だから、選択してくれ。
俺についてくるのか、自由を選ぶのかを。

俺を選ぶのなら、精一杯、主人らしく君達を養う覚悟をするよ、反対に、君達が自由を選ぶというのなら、俺は少なくない餞別を渡して君達を送り出す。



静かに、俺は彼らの答えを待った。











長い沈黙を破ったのは、アーシャだった。


「ご主人様、少し考える時間をくださいませんか」

意志のある紅い瞳がこちらを見つめる。


「うん、いいよ、好きなだけ考えればいいよ」


そんな彼に、俺は快く頷いて返した。


次に、俺は黙ったままのノアとレオリュールを見る。

視線が合ったのは、レオリュールだった。

「…ご主人様、俺はあなたについて行きます」

「…君はそれでいいの?」

「…はい」


どうやらレオリュールは、俺についてくることにしたようだ。俺に一時の正義感で同情することは無いと言って拒絶するように俺から視線を逸らしてしまった彼が、俺について行くと言ったことに俺は少しだけ嬉しくなった。けれど、どうして着いてきてくれるのかそれだけが気になる。


「理由を聞いてもいいかな?」

「…理由、ですか」

「うん」

そう言うと、レオリュールは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。


「…恥ずかしい話ですが、自分には生活能力がありません」

「え、そうなの?」

「はい」

見ると、ほんのりと頬を染め、照れていた。
いや可愛いな!


「…だから、自分には一人暮らしは向いていないと思い、着いて行くことにいたしました、家事などはできませんが俺は獣人なので、力仕事や戦闘に関してはお任せください」

「そうなんだね…よろしくね!レオリュール」

「…はい、よろしくお願いいたします」



レオリュールと話し終わった俺は、ノアはどうするのだろうと、彼を見つめていると、ノアが不安そうな瞳でこちらに視線を向けていた。


「…私、は…」

「うん…」

視線をさ迷わせるノアに、俺は優しく頷いた。


「分かり、ません…ご主人様は私達にどうして欲しいのですか?…ご主人様について行けば苦しまずに済むのですか?…それともご主人様から解放されれば、私は自由になれるのでしょうか?」


「……」


「…私には…記憶がありません、だから1人になったところで、暮らしていけるはずもない…かと言ってご主人様について行けば幸せになれるとも限らない…」


「分からない…分からないのです…」そう言って、ノアは瞳に真珠のような涙が浮かべた。
それは文字通り真珠で、こぼれた涙が形を成し、カラン、カランと床に落ちていく。


俺は、真珠の涙を静かに流すノアを優しく抱き寄せた。


「大丈夫だよ…記憶が無いのなら、これから作っていけばいいじゃないか…自分のしたい事をして、自分のしたいように生きる、俺はただそれを見守るだけだ、不安に思うことはないよ」


サラサラとした髪を梳きながら、ゆっくりと言い聞かせる。


すると、ノアは顔を上げ、縋るような瞳で俺を見つめてきた。綺麗な虹色の瞳に吸い込まれそうになる。


「…ほんとう、ですか?」

「あぁ、約束する」

言いながら頭を撫でると、「…ご主人様…貴方を信じてみること…にいたします」
そう言って、また涙を零した。
目じりに溜まった涙を優しく取ってあげると、ノアは擽ったそうに片目を閉じた。


この懐かない猫を手なずけたような、そんな感覚に陥りながら、俺は胸を抑える。

(…何だこの可愛い生き物は!!!)
心の中で悶える。きっと今の俺の顔は聖母のように凪いでいるだろう。がしかし、心の中は違う、荒波のように大暴れだ。


よもや男性に対してこんな気持ちを抱くとは…。
どうやら俺は自分が思うよりもずっとパーソナルスペースが広いようだ。


18年生きてきて始めた知った新事実であった。


勝手に自己解決した俺は、動揺する気持ちを急いで落ち着け、未だ考えているであろうアーシャに視線を向けた。けれど、彼は視線を下に向け、難しい顔をして何かを考え込んでいた。





「…すみません、ご主人様」

申し訳なさそうな顔をするノアの頭をひと撫ですると、ゆっくりと拘束をとき、立ち上がった。



いつの間にか馬車は止まっていたようで、外を覗いてみると空は夕焼け色に染まっていた。遠くにはバラモスの姿があり、彼は薪の準備を始めていた。


俺は彼らに「好きにくつろいでいて」と言い残し、荷馬車から降りた。



俺は近くにあった木の根元に腰掛け、ステータス画面を開く。



ユキ     18歳    rank.43

人間   :    男

体力    782/782

魔力    943/1603

スキル   剣技  lv.7  かぎ爪 lv.3  気配察知  lv.2  鑑定  lv.4  創造 lv.2  クリーン  lv.2  new 火魔法  lv.1

称号    【異世界転移者】【闇に好かれし者】【ドランゴンスレイヤー】【セーリャ神の加護】new【無慈悲なる者】



久々に開いてみると、俺のステータスは色々と変化していた。

まずランクが43に上がり、それに伴って体力と魔力が上がっていた。
それから、スキルに新しく火魔法が加わっていた。これはおそらくゴブリンの能力だろうと思う。まだレベルは1だが、俺の魔力量を考えれば今後大きな即戦力になるだろう。

また、称号にも変化があり、新たに「無慈悲なる者」という称号が追加されていた。
これは絶対、盗賊達を殺さず苦しめ続けたことが原因だろう、いや間違いなく。
今考えると、あの時の自分は少し、いやかなりいかれていたと思う。なんせ腕や足を切り落としておいて、トドメを刺さなかったんだから。
今頃俺は、あの盗賊達に恨まれてそうだ。

他にも、剣術、かぎ爪、鑑定、創造、クリーンのスキルのレベルが幾らか上がっていた。


俺はそれを確認し、ステータス画面を閉じると、念の為に気配察知を発動した。


頭の中でサークルが広がる感覚がする。

しかし、この森には特に生き物自体生息していないのか、自分と彼ら以外でなにも反応することは無かった。

現在俺たちがいるこの盆地のような広場は、とても安全らしく、俺は強ばった体から力を抜いた。
自分でも気が付かないほど、俺は気を張っていたようだった。





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みんなの感想(2件)

シオン
2024.03.04 シオン

続きがすごい気になります😍楽しみにしてます

解除
コウ
2022.08.10 コウ

面白くてイッキ見しました。(*^^*)
連載から結構時間がたっていますが
更新されますでしょうか?

出来たら更新してほしいです💦

解除
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