9 / 11
彼らとの出会い 1
しおりを挟む「早く逃げたい気持ちもわかるが、押すな!」
「い、いいえ!早く逃げませんと!!…いつあいつらが追ってくるか分からないんですよ!!?」
恰幅のいいオッサンは、その横に広がった大きな身体をこれでもかと動かしながら準備をすると、俺を一番後ろに停車させた荷馬車へと押し込んだ。
「おいやめろ!自分で行ける!!」
安心できないのか、焦りながら俺を押し込むオッサンに声をかけるが、オッサンは聞いちゃいなかった。
荷馬車の備え付けの階段に足をかけた途端に、後ろからドンッと押された。
「うわあっ!!!!」
そしてそう時間も経たないうちに、馬車は動き出した。
「…っいたた…」
ぶつけた鼻を摩り、ゆっくりと起き上がる。
外からはガタゴトと車輪が回る音が聞こえる。
膝に着いた汚れを払っていると、どこかからか声が聞こえた。
「…誰だ」
反射的に剣に手をかける。
目前には、煤けた布のかぶさった何かがあった。
俺はそれに近づき、バッと、その煤けた布をひっぺがした。
「…!!」
剥がれた布の奥には、鉄でできた頑丈な檻があり、その中には3人の男達がこちらを冷めた目で見つめていた。
見つめあったまま、暫し沈黙が続く。
どちらも無言だが、彼らは俺の出方を伺っているようだった。
俺はこの信じられない光景に、口の中が徐々に乾燥していくのを感じる。
本当に、この世界に来てから驚くことばかりが起きる。
現にこうして、また俺に選択を突きつけてくる。
彼らは相変わらず、俺の事を観察している。俺は無い唾を飲み込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「君たちは…どうしてここに?その檻は…」
「……俺は、いや、俺達は…奴隷だ」
少しの沈黙の後、黒髪の男が口を開いた。
彼の言葉に「やっぱり…」と自然と声が出た。彼らは、俺の予想していた通り奴隷であった。それを表すように、3人の足首には重厚な枷が嵌められていた。俺は、次々と突きつけられるこの世界の現実に、いちいち心が動揺するのを感じる。
この世界の奴隷、それは虐げられ、こき使われる存在のことなのだろうか…もしそうならば、俺はまた選択しなくてはならない。
この世界に適応していくために。
「君たちは…虐げられているのか?」
「…虐げられては、いない」
歯切れ悪く、黒髪の男はつぶやく。
「本当に?」
「……」
俺がフードを脱ぎ、しゃがんで彼と目を合わせながら問うと、目を見開き驚く素振りを見せたものの、視線を逸らし黙り込んでしまった。
すると、淡いピンク色の髪の男がこちらをしっかりと見て、口を開いた。
「本当だよ…なんせ僕らは、愛玩用だからね」
「愛玩用…」
それはつまり、見世物や観賞用という事だろうか。
「……一時のな正義感で同情することはない、お前は気にするな」
目を伏せたままそう言ってきたのは、銀色の髪の男だった。
それぎり、彼らは話すことはなく、痛いくらいの沈黙だけが続いた。俺は檻から少し離れた場所に腰を下ろし、ロングソードを床にコトリと置いた。
幕布の隙間から、外の景色がチラチラと見える。
正直、俺はあの銀髪の男が言っていたように、一時的な正義感で彼らを助けようとして、あんなことを聞いた。愛玩用と言うからにはきっと彼らはそれなりの値が張る。けれど無限資金を持っている俺には関係の無い事だった。だから、辛いなら、苦しい日々を送っているのなら、俺が彼らを買おうと、あの瞬間、彼らを見た瞬間、そう思ってしまったのだ。
『……1時な正義感で同情することはない、お前は気にするな』
けれど、彼にそう言われて、俺は酷く動揺した。
それと同時に、買ったあと、自分は彼らをどうすればいいのか、その明確な予想図が出来上がっていないことに気がついたのだ。つまり俺は、中途半端な正義感で、後先も考えず彼らを買おうとしていた。
俺の考えは、彼にバレていた。
それは一重に、そう思わせる態度を彼に見せてしまったからだ。
彼らは相変わらず、口を開くことも無く、目を閉じて静かにしている。まるで売られるその時を待つように。それがなんとも歯がゆくて、そんな様子を見て何もしてあげられない自分自身が嫌になった。
分かってはいる。
分かってはいるんだ。
俺は少なからず奴隷という存在が居ることに嫌悪している。
自由のない、道具同様の私有物として使役されるなど、とても胸糞が悪い。
俺は、彼らを買いたい。
けれど、俺は彼らを買ったあとどうすればいいのだろう。それに、彼らは買われることを望んでいるのだろうか。
俺は車輪のガタゴトとなる音を聞きながらしばらくの間静かに目を瞑った。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
異世界に行ったらオカン属性のイケメンしかいなかった
bull
BL
小さい頃からずっと「母親」が欲しかった。
マザコンとかそういう類のものでは無いが、物心ついた時から父親の存在しかなく、優しく、全てを受け止めてくれるような母親に憧れていた。
────来世では優しい母さんがいますように……
そんなことを思いながら俺は死んだ、と思う。
次に目が覚めた時は……
「俺が求めてたのはこういうことじゃなぁぁぁい!!!」
俺の周りにいたのは、オカン属性を持ったイケメンたちだった。
これは、母親を求めた青年の異世界転移の末の冒険譚である。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる