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彼らとの出会い 1

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「早く逃げたい気持ちもわかるが、押すな!」

「い、いいえ!早く逃げませんと!!…いつあいつらが追ってくるか分からないんですよ!!?」

恰幅のいいオッサンは、その横に広がった大きな身体をこれでもかと動かしながら準備をすると、俺を一番後ろに停車させた荷馬車へと押し込んだ。


「おいやめろ!自分で行ける!!」


安心できないのか、焦りながら俺を押し込むオッサンに声をかけるが、オッサンは聞いちゃいなかった。


荷馬車の備え付けの階段に足をかけた途端に、後ろからドンッと押された。


「うわあっ!!!!」


そしてそう時間も経たないうちに、馬車は動き出した。



「…っいたた…」


ぶつけた鼻を摩り、ゆっくりと起き上がる。
外からはガタゴトと車輪が回る音が聞こえる。



膝に着いた汚れを払っていると、どこかからか声が聞こえた。


「…誰だ」


反射的に剣に手をかける。


目前には、煤けた布のかぶさった何かがあった。

俺はそれに近づき、バッと、その煤けた布をひっぺがした。


「…!!」


剥がれた布の奥には、鉄でできた頑丈な檻があり、その中には3人の男達がこちらを冷めた目で見つめていた。


見つめあったまま、暫し沈黙が続く。


どちらも無言だが、彼らは俺の出方を伺っているようだった。


俺はこの信じられない光景に、口の中が徐々に乾燥していくのを感じる。


本当に、この世界に来てから驚くことばかりが起きる。

現にこうして、また俺に選択を突きつけてくる。







彼らは相変わらず、俺の事を観察している。俺は無い唾を飲み込んでから、ゆっくりと口を開いた。





「君たちは…どうしてここに?その檻は…」




















「……俺は、いや、俺達は…奴隷だ」


少しの沈黙の後、黒髪の男が口を開いた。


彼の言葉に「やっぱり…」と自然と声が出た。彼らは、俺の予想していた通り奴隷であった。それを表すように、3人の足首には重厚な枷が嵌められていた。俺は、次々と突きつけられるこの世界の現実に、いちいち心が動揺するのを感じる。


この世界の奴隷、それは虐げられ、こき使われる存在のことなのだろうか…もしそうならば、俺はまた選択しなくてはならない。

この世界に適応していくために。



「君たちは…虐げられているのか?」

「…虐げられては、いない」


歯切れ悪く、黒髪の男はつぶやく。


「本当に?」

「……」

俺がフードを脱ぎ、しゃがんで彼と目を合わせながら問うと、目を見開き驚く素振りを見せたものの、視線を逸らし黙り込んでしまった。


すると、淡いピンク色の髪の男がこちらをしっかりと見て、口を開いた。


「本当だよ…なんせ僕らは、愛玩用だからね」

「愛玩用…」


それはつまり、見世物や観賞用という事だろうか。


「……一時のな正義感で同情することはない、お前は気にするな」


目を伏せたままそう言ってきたのは、銀色の髪の男だった。



それぎり、彼らは話すことはなく、痛いくらいの沈黙だけが続いた。俺は檻から少し離れた場所に腰を下ろし、ロングソードを床にコトリと置いた。


幕布の隙間から、外の景色がチラチラと見える。



正直、俺はあの銀髪の男が言っていたように、一時的な正義感で彼らを助けようとして、あんなことを聞いた。愛玩用と言うからにはきっと彼らはそれなりの値が張る。けれど無限資金を持っている俺には関係の無い事だった。だから、辛いなら、苦しい日々を送っているのなら、俺が彼らを買おうと、あの瞬間、彼らを見た瞬間、そう思ってしまったのだ。


『……1時な正義感で同情することはない、お前は気にするな』

けれど、彼にそう言われて、俺は酷く動揺した。
それと同時に、買ったあと、自分は彼らをどうすればいいのか、その明確な予想図が出来上がっていないことに気がついたのだ。つまり俺は、中途半端な正義感で、後先も考えず彼らを買おうとしていた。

俺の考えは、彼にバレていた。
それは一重に、そう思わせる態度を彼に見せてしまったからだ。



彼らは相変わらず、口を開くことも無く、目を閉じて静かにしている。まるで売られるその時を待つように。それがなんとも歯がゆくて、そんな様子を見て何もしてあげられない自分自身が嫌になった。

分かってはいる。
分かってはいるんだ。


俺は少なからず奴隷という存在が居ることに嫌悪している。
自由のない、道具同様の私有物として使役されるなど、とても胸糞が悪い。


俺は、彼らを買いたい。


けれど、俺は彼らを買ったあとどうすればいいのだろう。それに、彼らは買われることを望んでいるのだろうか。


俺は車輪のガタゴトとなる音を聞きながらしばらくの間静かに目を瞑った。









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