上 下
16 / 23
1章 異世界漂流

15話 財宝の手掛かり発見

しおりを挟む
 最悪の事態が発生した。
 到着した駐屯地はまさかの――――昨日立ち寄った野営地であった。

 「…………」

 しかもテントの中を覗いてしまった。
 惨劇が広がる光景を前に、レベッカは生気の引いた顔で、泣き叫ぶ事もなく呆然と立ち尽くしている。
 テント内に雑に放置された死体は昨日よりも腐敗が進んでおり、ハエや蛆が新たな住人となっていた。

 「…………」

 俺も言葉が出ない。行く前に、しっかり確認を取っておいた方がよかったかもしれない。後悔の念が押し寄せた。
 しかし、いつまでも落ち込んでいるようでは進展がない。

 「……レベッカ、不幸な事だってある。気にしてもいいけど、今はその時じゃない」

 さっきやられたように、今度はこっちから彼女の肩をトントンと叩いた。
 掛けた言葉にレベッカの顔には血の気が戻り、慌ててこちらを振り返った。

 「も、申し訳ございません。仲間がやられてつい……」
 「謝るな。こういっちゃ聞こえが悪いけど、仲間が死ぬのは戦場ではごく普通の事だ」
 「……はい、そうですね。あなたの言う通りです」

 レベッカの声には悲しみが含まれているが、決別も混ざっている。

 「ほら、行くぞ。手掛かりがあるかもな」
 「……はい!」

 死没者に複雑な感情を抱きながらも、凄惨な現場を離れて別のテントへ向かった。
 次に突入したテントは司令室のような場所で、大きな机と簡易的な本棚が置かれているだけだった。他のテントにあったような死体はない。この事に、レベッカは胸を撫で下ろしていた。

 「ここは安全そうですね……」
 「ああ、そうだな。何人かは逃げたのかもな」

 会話をしつつ、本棚をガサゴソと漁る。しまわれているのは仕事や作戦に関する文書だけで、肝心の鏡に関する手掛かりはなかった。

 「そっちはどうだ?」

 全ての本棚を調べ終えたので、机を調査しているレベッカに声を掛けた。

 「こちらも特には……」
 「そうか……」

 結果にがっかりだが、こういう不運な事もある。
 司令室から出て行くと、テント以外の場所も探し始めた。
 堀や乗り捨てられた馬車など、目につく箇所は全て探したつもりだがやはり見つからなかった。
 ここに手掛かりはないと諦めかけた時、レベッカがある場所を指さしていた。

 「あそこは、どうでしょうか?」

 伸びる指の先には、明らかに不衛生なトイレが。
 汚物だらけの便所になんて近寄りたくないと思ったが、

 「…………」

 無言の圧力を掛けられているため、渋々向かう事に決めた。
 便所は一応男性専用だったので、そこには俺1人で入った。

 「くっせー……」

 用を足す便所は粗末な丸太小屋の中にあり、便器が3つ並んでいるが仕切りのないとても原始的なものだ。時代的に下水道が不完全なのでトイレは水洗式ではなく、汲み取り式だ。臭いが半端なく充満している。
 レベッカもこれは流石に敗北するだろう。俺も心が折れつつある。
 ここには臭いだけで何もないように思えるが、念には念を入れて、便器の奥をライトで照らして確かめた。

 「これはハズレ」

 一番右の便器には汚物しかなかった。

 「これも違う」

 真ん中の便器も今調べたものと遜色ない。

 「どうせこれも……」

 糞を見つめる作業はもうこりごりだと、最後の便器を照明で照らす。

 「ん?」

 予想外だ。左端の便器は何故か未使用のままで、糞尿は溜まっていなかった。代わりに、お目当てのものかもしれない紙がひっそりと眠っていた。

 「これはまさか、な……」

 未使用とはいえ便器の中に手を突っ込むのは抵抗がある。そこらに転がっていたモップを逆さに持つと、底の紙を掬い上げた。
 取った紙に記載されている文字は解読不能だが、重要な手掛かりかもしれないと考え、便所を飛び出してレベッカの元へ急いで向かった。

 「おい、何か変なの出てきたぞ」

 異臭が染み付いた紙を手渡す。

 「これは、日記かなにかでしょうか」

 言われてみれば、薄汚れた紙の文字は手書きだ。よほど慌てていたのか、途中から筆記体が殴り書きになっている。
 レベッカがじっくりとその文書を読む。顔には何故か嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 「どうしたんだ?」

 惨劇を見たせいで、ついに頭が狂ってしまったのかもしれないと思いつつ、解読中の彼女に話し掛けた。

 「……表情に出ていましたか」

 手紙を畳んで地面へと置き、顔を上げる。

 「手掛かりが、今の文書にありました」
 「という事は……」
 「ええ、鏡を奪還できる可能性がでてきました」
 「それはどこにあるんだ?」
 「場所は示されていませんが、強奪品があるとされている場所がいくつか書かれていました」
 「何個ある?」
 「3つです。1つはこの近くにある野営地です。2つ目は少し離れた地点にある武器保管庫で、最後は奴らが根城としている財宝保管庫ですね」

 最後のやつだけ強者感が凄い。

 「最も可能性があるのは財宝保管庫ですが、念のため前者の2つにも行ってみましょう」
 「い、行くって今からかよ?」
 「そうですが何か?」

 寝不足も相まってか既に疲れているため、本音はここから動きたくない。
 俺の体力が少ないだけなのか、この騎士の体力が常人よりも多いのか、よく分からないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...