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第五章 砦の戦い

渾身の一撃

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 三人が魔物の群れの中を走り抜ける姿を見送った小さな魔法使いは、フードをめくり大気と風の動きを感じていく。

「精霊は逃げたか……もう少し上位の神に働きかける必要があるわね」

 再び詠唱を開始したクマリ。風になびいた柔らかい金色の髪が頬にかかる。

「ヨークの作戦があるようだけど、私の魔法で、全部、片付けてやるわ!」

 地面に突き刺した杖を持ち上げると、杖の周りに風がまとわりついてきた。魔法が完成に近付いたクマリはニヤリと笑った。
 
 ヨークが作った光の道を走っていた三人は、少しずつ魔法の効果が弱まっていく事に気が付いた。

「クソっもう時間切れかよ」 盗賊の悪態が漏れる。

 そこに不死化したコボルト達が左右から湧き出すように現れた。

 が、次の瞬間後ろからクマリの叫ぶ声が聴こえた。

「危ないから、伏せて!」

「なんだ?」

 周囲の空気がアイマール達の後方に集まるように流れていき、突風の様に吹き抜ける。

「暴風の神、ルドラよ我が道を遮る敵を、殲滅せんめつしたまえ!」

 少女の幼い声に不釣り合いな呪文の旋律が、焼けた森に響く。

 三人が同時に振り向くと、クマリが唸りを上げる真空の竜巻を作り出していた。

「ウォフ・マナフ・ヴォータ・リグ・ラーマハ……行けっ!」

 クマリが飛ばした竜巻が、唸りを上げて三人に迫り、慌てて地面に伏せた三人のすぐ上をものすごい勢いで駆け抜ける。

 すると目の前にいたコボルト達が真空の竜巻に巻かれて一瞬でバラバラの肉片と化した。

 思わず顔を見合わせる3人。

「バカやろう! 俺たちまで殺す気か!」

 ヴィツェルがクマリに文句を言うが、クマリは聞こえない振りをした。

 血を吸い込み赤く染まった真空の竜巻はコボルトを切り刻みながら進み、魔物の群れ切り裂いていく。竜巻の後を追うように三人は必死で走った。
 
 真空の竜巻は蛇行しながら進み、そのまま魔女を飲み込みこの戦いを終わらせるかと思われた。

 しかし竜巻が魔女のそばに近付くと、二頭のミノタウロスが前に飛び出し魔女の盾となった。

「ヴォ~ヴォ~!」

 竜巻に飲まれたミノタウロスは、体を真空の刃に切り刻まれながらも武器を振り回し竜巻の威力をいでゆく。

「チっ! やり損ねた?」

 この魔法で仕留めるつもりだったクマリが舌打ちする。

 そこにヨークの作戦通り、セードルフとヴィツェルが切り込んでいく。

「牛の化け物は俺たちに任せろぉ!」

「アイマール、頼んだぞ……」

 二人がミノタウロスの注意を引きつけ魔女から引き離していく。

「お願いします! ……あとは魔女だけだ」
 
 うまくミノタウロスが左右に離れていき、ついに魔女と1対1となったアイマール。

 結界に守られながら呪文を唱える魔女を目の前にして、ミスリルの剣を握る手に自然に力がこもる。

 漆黒のローブを激しく揺らしながら、全身を使い魔力を解放する魔女。指先からは時折り紫色の稲妻のような暗い光がほとばしっていた。

 その異様な姿を前に、アイマールの足が止まりそうになる。ここに来て恐怖心が沸き起こりそうになるが、彼は手に巻いているローラのハンカチを強く握りしめた。

「……僕がやらなければ! みんな死ぬ、僕がやるんだっ!」

 アイマールはそう叫ぶと、迷いを断ち切るように割れた盾を投げ捨てた。そして魔女に向かい猛然と切り込んでいった。

 魔女はアイマールの姿を見ても構わず印を結び呪文を唱え続けている。やはり魔法障壁に絶対の自信を持っているようだ。

「たぁ!!」

 剣を両手に持ち替えたアイマールは、全力で飛び上がり渾身の力を込めて剣を魔女に振り下ろす。

「これを喰らえ!」

 振り下ろした剣を追いかけるように、青白い魔力の残像が美しい光跡こうせきを残す。

 カキーン! バチッバチッ

「何だってっ?!」

 剣が弾かれる音と共に鋭い火花が飛び散りアイマールの顔に反射する。ミスリルの剣は魔女の顔の目の前で魔法障壁に阻まれ動きを止めた。

「ヒッヒッヒ~! その程度の魔力の剣では私の結界は破れんよ……」

 血の気が引くような、魔女の笑い声が森に響いた。
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