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第五章 砦の戦い
アイマールの死
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砦の前には意識を失っているアイマールが地面にうずくまっていた。そしてその傍には少年と同じ年頃の少女がへたり込んで泣いていた。
その様子を見たヨークが二人の元へ駆け寄った。そばにいる少女はアイマールがクエストで捜していた少女であろうと想像できた。
「どうした、大丈夫かね?」
泣きじゃくるローラが必死にヨークに懇願する。
「アイマールさんが息をしていないんです……お願い、この人を助けて下さい。あなた魔法が使えるんでしょ!」
「落ち着きなさい」
ローラの言葉を聞いたヨークがアイマールの胸に耳を当てた。
顔に血の気は無く、心臓の動きも呼吸もほぼ停止していた。服の中に手を入れるとかなりの出血があった。
「これは、ひどいな……」
しかしヨークはアイマールに命の余韻を感じた。それは消えかかる命の最後の灯火のようなものだった。五分五分だがやってみる価値はあると思えた。
「大丈夫だ! まだ完全には死んではいない。しかし急がないとまずいな」
ヨークが素早くアイマールの胸の上に手をかざし、祈りの言葉を唱えだした。神の祝福の言葉と共に暖かい光が二人を包む。
「万物の支配者たる神よ……彷徨える魂を…再びこの肉体へ……マアト…ラハム…ディ・アルマ」
アルビオンの冒険者の中でもわずか数人しか使えない、身体から離れた魂を呼び戻す蘇生の魔法だった。しかもヨークは同時に体の傷も癒す独自の魔法を会得していた。
しかしアイマールは微動だにせず、その顔色は死者のそれに近くなっていった。
「間に合わなかったのか……」
祝詞を止め、目を閉じるヨーク。
生命蘇生の魔法を完璧に使いこなす者は存在しない。最終的に人には決められた命の時間があった。それを覆すことは何人にも不可能な事だった。
「そんな……そんな訳ない!」
アイマールの死を受け入れないローラは、ヨークを睨みつけ叫んだ。
「私も手伝う、祝詞を続けて!」
ローラはそう言うと無理やりヨークの手を取り再びアイマールの胸に手を乗せた。そしてその上に自らの手を重ねた。
「お願い! アイマール君が死ぬはずないの! 祈りを続けて」
「……ウム、分かった続けよう」
ローラに何かを感じたヨークはそのまま祝詞を続けた。するとローラはヨークに続けて見よう見まねで祝詞を唱えだした。
二人の祝詞が輪唱の様に響き渡り、先程よりも更に眩しい光が三人を包んだ。
「ドクン…」
するとアイマールの胸の上に乗せた手に僅かだが確かな感触が伝わってきた。
「まさか……こんな事が有るのか」
「ドクン…ドクン…」
驚くヨークの手に再び、力強い心臓の鼓動が伝わった。そしてヨークとローラの喜びの声に合わせるかようにアイマールの呼吸が戻った。
「アイマールさん!」
ローラが名前を呼ぶとアイマールはゆっくりと目を開いた。
「うぅ……ローラ……ありがとう、呼んでくれて。聴こえたよ」
アイマールはかろうじて返事をする。しばらくすると魔法の増血作用の効果が表れ始めた。血色が良くなり意識がハッキリし手足も動き始めた。
「彼にはまだ、やる事があるということか……」
回復していくアイマールを見てヨークが独り言のように呟いた。
「良かった、生きていてくれて……」
ローラは誰の目を気にすることもなくアイマールに抱き付いて子供の様に泣き始めた。
「バカ野郎共! そこでイチャイチャやってる場合じゃないんだよ! 周りを見ろよ!」
そこにヴィツェルの怒声が響く。
その様子を見たヨークが二人の元へ駆け寄った。そばにいる少女はアイマールがクエストで捜していた少女であろうと想像できた。
「どうした、大丈夫かね?」
泣きじゃくるローラが必死にヨークに懇願する。
「アイマールさんが息をしていないんです……お願い、この人を助けて下さい。あなた魔法が使えるんでしょ!」
「落ち着きなさい」
ローラの言葉を聞いたヨークがアイマールの胸に耳を当てた。
顔に血の気は無く、心臓の動きも呼吸もほぼ停止していた。服の中に手を入れるとかなりの出血があった。
「これは、ひどいな……」
しかしヨークはアイマールに命の余韻を感じた。それは消えかかる命の最後の灯火のようなものだった。五分五分だがやってみる価値はあると思えた。
「大丈夫だ! まだ完全には死んではいない。しかし急がないとまずいな」
ヨークが素早くアイマールの胸の上に手をかざし、祈りの言葉を唱えだした。神の祝福の言葉と共に暖かい光が二人を包む。
「万物の支配者たる神よ……彷徨える魂を…再びこの肉体へ……マアト…ラハム…ディ・アルマ」
アルビオンの冒険者の中でもわずか数人しか使えない、身体から離れた魂を呼び戻す蘇生の魔法だった。しかもヨークは同時に体の傷も癒す独自の魔法を会得していた。
しかしアイマールは微動だにせず、その顔色は死者のそれに近くなっていった。
「間に合わなかったのか……」
祝詞を止め、目を閉じるヨーク。
生命蘇生の魔法を完璧に使いこなす者は存在しない。最終的に人には決められた命の時間があった。それを覆すことは何人にも不可能な事だった。
「そんな……そんな訳ない!」
アイマールの死を受け入れないローラは、ヨークを睨みつけ叫んだ。
「私も手伝う、祝詞を続けて!」
ローラはそう言うと無理やりヨークの手を取り再びアイマールの胸に手を乗せた。そしてその上に自らの手を重ねた。
「お願い! アイマール君が死ぬはずないの! 祈りを続けて」
「……ウム、分かった続けよう」
ローラに何かを感じたヨークはそのまま祝詞を続けた。するとローラはヨークに続けて見よう見まねで祝詞を唱えだした。
二人の祝詞が輪唱の様に響き渡り、先程よりも更に眩しい光が三人を包んだ。
「ドクン…」
するとアイマールの胸の上に乗せた手に僅かだが確かな感触が伝わってきた。
「まさか……こんな事が有るのか」
「ドクン…ドクン…」
驚くヨークの手に再び、力強い心臓の鼓動が伝わった。そしてヨークとローラの喜びの声に合わせるかようにアイマールの呼吸が戻った。
「アイマールさん!」
ローラが名前を呼ぶとアイマールはゆっくりと目を開いた。
「うぅ……ローラ……ありがとう、呼んでくれて。聴こえたよ」
アイマールはかろうじて返事をする。しばらくすると魔法の増血作用の効果が表れ始めた。血色が良くなり意識がハッキリし手足も動き始めた。
「彼にはまだ、やる事があるということか……」
回復していくアイマールを見てヨークが独り言のように呟いた。
「良かった、生きていてくれて……」
ローラは誰の目を気にすることもなくアイマールに抱き付いて子供の様に泣き始めた。
「バカ野郎共! そこでイチャイチャやってる場合じゃないんだよ! 周りを見ろよ!」
そこにヴィツェルの怒声が響く。
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