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第五章 砦の戦い
二人の想い
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準備が終わったアイマールは塔屋に上がり森の奥まで見渡した。しかし、まだゴブリンが来る気配はなかった。
「よし、まだ大丈夫みたいだな」
すべての準備が終わるとアイマールは1階と繋がる木製の階段を壊してしまった。これで魔物が建物の中に侵入しても簡単には屋上に上がってこれないはずだ。
代わりにロープを近くの柱に結び何かあれば1階に下りれるようにした。
「これで総ての準備は終わった」
出来る事は総てやったはず。アイマールは覚悟を決めた。
準備を終え暗い森を睨むアイマールの傍に、いつの間にかローラが寄り添うように立っていた。
「後は夜明けを待つだけだよ、ローラ」
「はい……」
「森の聖霊よどうかお守り下さい……」
ローラは朝まで魔物が来ないよう静かに祈りを捧げた。
いつの間にか先刻までの雨は上がり、嘘のように満天の星空が広がっている。
遥か遠くに明るく見える場所がアルビオンの街の明かりだろう。
「もし無事に森を出れたら、私アルビオンの街の劇場に行ってみたいな」
ローラはポツンとそう漏らした。村の学校に通いながら農家である家の仕事を手伝っている忙しい彼女は、まだ1度もアルビオンの街の大劇場に行った事がなかった。
「大丈夫だよ……きっと行けるさ」 と、アイマール。
「うん……私、ほとんどアルビオンの街の事は知らないんだ」
「そうなんだ、劇場のほかにも港の通りは、すごい賑やかで夜まで人がいっぱいでさ…大陸中の人が行き来してるんだよ」
「へ~すごいですね」
「今度、僕が案内するよ」
「わたし、楽しみにしてます」
もう生きて森から出られないかしれないという不吉な考えが、時折ローラの頭によぎる。しかしアイマールの傍にいると不思議なほど心は落ち着いていた。
アイマールとは出会ったばかりだ。しかし最後まで諦めずに自分を守ってくれるという確信がなぜか彼女にはあった。その思いがローラから必要以上の恐怖を取り除いてくれていた。
さわやかな夜風が吹き抜け、アイマールとローラの髪を撫でる。
「大変な事に巻き込んで……なんかごめんなさい」
ローラは少しだけ背の高いアイマールを見つめた。
「謝る事なんてないさ、これが僕の仕事だし……ローラは謝る事ないよ……」
アイマールはローラの澄んだ青い瞳を見つめ返す事が出来ずに、遠くを見た。
「それに、ローラのお陰でこんなすばらしい剣も手に入れる事ができた……逆にローラには感謝してるんだ」
アイマールは腰に下がる銀の剣を握る。それだけで勇気が湧いてくる様な気がした。
「やさしいね、アイマールさんは」
「そろそろ、魔物達がやって来るかもしれない。ローラも念のためこれを着けて」
アイマールは地下から持ってきた防具の中から、動くのに負担の少ない軽めのレザーメイルを準備した。
そのレザーメイルを受け取ろうととローラが手を伸ばした時、不意に怪我をした足に激痛が走りローラはバランスを崩し倒れそうになる。
しかし、前に倒れ込みそうなローラをアイマールがしっかりと抱きとめた。
「ご、ごめんなさい…」
「…大丈夫、僕が守るから」
「……」
見つめ合った二人は、自然と抱き合った。お互いの体温や胸の鼓動を感じ生きていることを実感する。
「生きて森を出よう……」
「うん……」
そう言い終えた時だった。
「ガサッガサッ…」
遠くのほうで木の葉の擦れる音が聞こえた気がした。
「よし、まだ大丈夫みたいだな」
すべての準備が終わるとアイマールは1階と繋がる木製の階段を壊してしまった。これで魔物が建物の中に侵入しても簡単には屋上に上がってこれないはずだ。
代わりにロープを近くの柱に結び何かあれば1階に下りれるようにした。
「これで総ての準備は終わった」
出来る事は総てやったはず。アイマールは覚悟を決めた。
準備を終え暗い森を睨むアイマールの傍に、いつの間にかローラが寄り添うように立っていた。
「後は夜明けを待つだけだよ、ローラ」
「はい……」
「森の聖霊よどうかお守り下さい……」
ローラは朝まで魔物が来ないよう静かに祈りを捧げた。
いつの間にか先刻までの雨は上がり、嘘のように満天の星空が広がっている。
遥か遠くに明るく見える場所がアルビオンの街の明かりだろう。
「もし無事に森を出れたら、私アルビオンの街の劇場に行ってみたいな」
ローラはポツンとそう漏らした。村の学校に通いながら農家である家の仕事を手伝っている忙しい彼女は、まだ1度もアルビオンの街の大劇場に行った事がなかった。
「大丈夫だよ……きっと行けるさ」 と、アイマール。
「うん……私、ほとんどアルビオンの街の事は知らないんだ」
「そうなんだ、劇場のほかにも港の通りは、すごい賑やかで夜まで人がいっぱいでさ…大陸中の人が行き来してるんだよ」
「へ~すごいですね」
「今度、僕が案内するよ」
「わたし、楽しみにしてます」
もう生きて森から出られないかしれないという不吉な考えが、時折ローラの頭によぎる。しかしアイマールの傍にいると不思議なほど心は落ち着いていた。
アイマールとは出会ったばかりだ。しかし最後まで諦めずに自分を守ってくれるという確信がなぜか彼女にはあった。その思いがローラから必要以上の恐怖を取り除いてくれていた。
さわやかな夜風が吹き抜け、アイマールとローラの髪を撫でる。
「大変な事に巻き込んで……なんかごめんなさい」
ローラは少しだけ背の高いアイマールを見つめた。
「謝る事なんてないさ、これが僕の仕事だし……ローラは謝る事ないよ……」
アイマールはローラの澄んだ青い瞳を見つめ返す事が出来ずに、遠くを見た。
「それに、ローラのお陰でこんなすばらしい剣も手に入れる事ができた……逆にローラには感謝してるんだ」
アイマールは腰に下がる銀の剣を握る。それだけで勇気が湧いてくる様な気がした。
「やさしいね、アイマールさんは」
「そろそろ、魔物達がやって来るかもしれない。ローラも念のためこれを着けて」
アイマールは地下から持ってきた防具の中から、動くのに負担の少ない軽めのレザーメイルを準備した。
そのレザーメイルを受け取ろうととローラが手を伸ばした時、不意に怪我をした足に激痛が走りローラはバランスを崩し倒れそうになる。
しかし、前に倒れ込みそうなローラをアイマールがしっかりと抱きとめた。
「ご、ごめんなさい…」
「…大丈夫、僕が守るから」
「……」
見つめ合った二人は、自然と抱き合った。お互いの体温や胸の鼓動を感じ生きていることを実感する。
「生きて森を出よう……」
「うん……」
そう言い終えた時だった。
「ガサッガサッ…」
遠くのほうで木の葉の擦れる音が聞こえた気がした。
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