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第四章 アイマールを呼ぶ者

銀の指輪

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 雨はまだ激しく降り注いでいた。ゴロゴロと音をたてながら時折り稲光が窓から差し込んでくる。

 二人はリンゴをかじりながら外の様子をうかがっていた。

 アイマールは魔物が襲って来た時のことを考えていた。

 ――この砦に立てこもれば時間稼ぎは出来るはずだ。

 しかし、魔物の正確な数も分からない今、二人で砦を守り抜くの難しいことだと思えた。

 ――この豪雨ならゴブリン達も森をを歩くのを嫌がるのか? 朝まで雨が降り続けば生きてこの森を出られる?

 ――いや、それより撃退する方法を考えないと……

 そんなことを考えていると自然とアイマールの表情は険しいものとなっていた。それを見たローラが気分をほぐそうとアイマールに話しかけた。

「そういえばアイマールさんって何歳なんですか?」

「えっ? 僕は、十六歳だよ」

 そう言ってアイマールは首に掛けてあるプレイヤータグをローラに見せた。

 ローラはプレイヤータグに刻まれている生年月日を確認してみる。

「ホントだ。同い年位だと思ってたら、二歳も年上なんですね…」

 その時だった。

「あれっ? アイマールさんの指輪が光ってますよ」

 そうローラに言われて、右手を見ると中指にはめた銀の指輪が淡い光を放っている。

「何だろ? 何かに反応しているみたいだ」

 アイマールは驚いて、指輪を外して手の平に乗せた。美しい光に魅入る二人。

「すごい…綺麗……」

「お爺さんの形見の指輪なんだ」

「大事な物なんですね」

 指輪は柔らかな光を放ちながら、近づいた二人の顔を照らす。

 すると突然、何かの気配を感じたローラが呟くように話し出した。

「呼んでる…何かがアイマールさんを呼んでますよ……」

 ローラはそう言ってアイマールの手のひらの指輪を手に取った。彼女は立ち上がり、足の痛みも忘れて指輪を見つめたまま歩き出した。

「待ってローラ!」

 突然のローラの行動に驚くアイマールだが、彼女のお母さんのキャロラインからローラは不思議な声を聞くことが有ると聞いていた。

 ローラはアイマールの止める声も聞かずに、導かれるように砦の奥の部屋へと歩いていった。

 アイマールはランプを手に取りその後を追った。
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