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第三章 盗賊の砦
廃墟
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森は一歩足を踏み出す度に闇の濃度を濃くしてゆき、聞こえるのは自分の息使いと地面の枯れ葉を踏みしめる音だけだった。
――そろそろ明かりが必要だな。
アイマールは近くに落ちている適当な長さの木の枝を拾い地面に突き刺した。
次に道具袋から特製の油が染み込ませてある布を取り出し、枝の先にグルグルと何重にも巻き付ける。
最後に近くの木から伸びているツルをナイフで切り落とすと、布がバラけない様にきつく結びつけた。
これで『ラニエリの店』の特製松明の完成だ。
ラニエリ曰く……雨にも強く他の店の二倍長持ちする。らしい
火打石で火花を当てると、油の染み込んだ布にすぐに引火しアイマールの周囲がほのかな明かりに包まれる。
アイマールは松明を片手に再び歩き出した。老木が揺れる炎に照らされ生き物のように蠢いて見える。その度に彼は立ち止り恐る恐る周囲を警戒した。
――こんな暗い森の中に女の子が何も持たず一人彷徨っているのだろうか?
様々な疑問が浮かんでは消える。
さらに森の奥を目指すアイマールはギルドから預かった地図を広げた。もう少し西に進めば盗賊団の砦跡があるはずだ。その砦跡を目標に進むことにした。
小さな砦だが魔物から身を隠したり、寒さをしのぐには一番いい場所だと思えた。
デル・ボスケ村長の話によれば盗賊達が消えて間もなく、アルビオンの兵士によって砦は念入りに調査されたそうだ。
その時に目ぼしい財宝は総てアルビオンの兵士が持ち去り、今では何も残っていないただの廃墟になっているらしい。
アイマールは松明の明かりを頼りに西へ西へと森を進んだ。そして持っている松明の明かりが弱まり消えかけた頃、ついに木々の間に石造りの何かを発見した。
――あ、あれが盗賊の砦?
松明の炎が弱まっていたためアイマールはさらに布を巻き付けた。さっきの明かりとは比べものにならない明るさで照らされた砦は全体を植物のツタで覆われた不気味なその姿を現した。
「……」
声もなく砦を見上げるアイマール。
外壁に付いてある格子窓から中の様子はうかがいようもなく、ただ真っ黒な穴が規則的に並んでいた。
外壁は所々大きくひび割れ二階部分にある尖塔の屋根も半ば崩れかけていた。漆黒の森に音もなく佇む廃墟の姿は、死霊の住み家のように見え背筋が寒くなる。
「ローラさん、聞こえますか~!」
再び四方に大声を上げるアイマール。しかし風が止み木々のざわめきさえ聞こえ無くなった森から、耳が痛くなりそうなほどの静寂が返ってきた。
アイマールはすくむ足を無理やり動かして砦に向かった。
砦に近付くと周囲には堀が巡らせてある事に気が付いた。しかし長い年月で枯れ葉や土が溜まり堀は完全に埋まっていた。
また砦の正面には小さな鉄の跳ね橋が架かっており、今は降りているが橋を上げれば、堀もあったこの砦は思った以上に堅牢な砦だったことが分かる。
鉄の跳ね橋を渡り、錆びた鉄の門を押すと閂は外されており悲鳴のような引きつった音を立てながら門は開いた。
真っ暗な砦の中を松明で照らすと、朽ち果てた木のテーブルや使いかけのランプが転がっているだけのガランとした空間が広がっていた。
アイマールは注意深くゆっくりと砦の中入っていった。
――そろそろ明かりが必要だな。
アイマールは近くに落ちている適当な長さの木の枝を拾い地面に突き刺した。
次に道具袋から特製の油が染み込ませてある布を取り出し、枝の先にグルグルと何重にも巻き付ける。
最後に近くの木から伸びているツルをナイフで切り落とすと、布がバラけない様にきつく結びつけた。
これで『ラニエリの店』の特製松明の完成だ。
ラニエリ曰く……雨にも強く他の店の二倍長持ちする。らしい
火打石で火花を当てると、油の染み込んだ布にすぐに引火しアイマールの周囲がほのかな明かりに包まれる。
アイマールは松明を片手に再び歩き出した。老木が揺れる炎に照らされ生き物のように蠢いて見える。その度に彼は立ち止り恐る恐る周囲を警戒した。
――こんな暗い森の中に女の子が何も持たず一人彷徨っているのだろうか?
様々な疑問が浮かんでは消える。
さらに森の奥を目指すアイマールはギルドから預かった地図を広げた。もう少し西に進めば盗賊団の砦跡があるはずだ。その砦跡を目標に進むことにした。
小さな砦だが魔物から身を隠したり、寒さをしのぐには一番いい場所だと思えた。
デル・ボスケ村長の話によれば盗賊達が消えて間もなく、アルビオンの兵士によって砦は念入りに調査されたそうだ。
その時に目ぼしい財宝は総てアルビオンの兵士が持ち去り、今では何も残っていないただの廃墟になっているらしい。
アイマールは松明の明かりを頼りに西へ西へと森を進んだ。そして持っている松明の明かりが弱まり消えかけた頃、ついに木々の間に石造りの何かを発見した。
――あ、あれが盗賊の砦?
松明の炎が弱まっていたためアイマールはさらに布を巻き付けた。さっきの明かりとは比べものにならない明るさで照らされた砦は全体を植物のツタで覆われた不気味なその姿を現した。
「……」
声もなく砦を見上げるアイマール。
外壁に付いてある格子窓から中の様子はうかがいようもなく、ただ真っ黒な穴が規則的に並んでいた。
外壁は所々大きくひび割れ二階部分にある尖塔の屋根も半ば崩れかけていた。漆黒の森に音もなく佇む廃墟の姿は、死霊の住み家のように見え背筋が寒くなる。
「ローラさん、聞こえますか~!」
再び四方に大声を上げるアイマール。しかし風が止み木々のざわめきさえ聞こえ無くなった森から、耳が痛くなりそうなほどの静寂が返ってきた。
アイマールはすくむ足を無理やり動かして砦に向かった。
砦に近付くと周囲には堀が巡らせてある事に気が付いた。しかし長い年月で枯れ葉や土が溜まり堀は完全に埋まっていた。
また砦の正面には小さな鉄の跳ね橋が架かっており、今は降りているが橋を上げれば、堀もあったこの砦は思った以上に堅牢な砦だったことが分かる。
鉄の跳ね橋を渡り、錆びた鉄の門を押すと閂は外されており悲鳴のような引きつった音を立てながら門は開いた。
真っ暗な砦の中を松明で照らすと、朽ち果てた木のテーブルや使いかけのランプが転がっているだけのガランとした空間が広がっていた。
アイマールは注意深くゆっくりと砦の中入っていった。
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