上 下
9 / 81
第一章 王都アルビオン

ルイザとアルフレッド 4

しおりを挟む
「彼はどうかね?」

 アルフレッドが分厚い冒険者名簿から用紙を一枚抜き取った。

 アイマール・フィン 16歳 Eランク     
 シュリイースト王立冒険者学校卒業 
 得意武器 弓 魔法 なし 
 出身 パブロ村 登録番号1976

「Eランクの新卒冒険者か……経験を積むにはちょうどいいわね」

 シュリイースト王立冒険者学校とは、アルビオンの街の中心部にある冒険者の訓練学校だ。ここでは約二年間に渡り武器の扱い方やダンジョンの攻略方法、野外生活の基礎などを学ぶ事が出来る。

 この学校が設立された経緯は、今から約100年前アルベニア王国の北に広がる  ”旧王都遺跡群きゅうおうといせきぐん” と呼ばれる地域で1人の農民が偶然古代王国の財宝を発見した事に始まる。

 財宝が見つかった話はすぐに大陸中に広まり、一攫千金を夢見る多くの若者が過酷な冒険に繰り出した。                           
 
 しかし危険な旅で多くの若い命が失われた。その事に心を痛めた時の国王シュリイーストが、生きのびる術を学ぶ場所として設立したのがこの学校の始まりである。
 
 卒業するとすぐに冒険者ギルドに登録する事ができ、実力が認められれば強いパーティに参加する事が出来た。

 国王シュリイーストの名はそのまま学校の名として残り、卒業時にはシュリイーストの名が入った皮のベストが卒業生に送られた。

 ルイザは資料を眺めながら、このクエストに彼がふさわしいかどうかしばらく考え込んだ。

「今は、何人も冒険者を送り込む余裕はないから一人になるけど大丈夫かしら?」

「あの村の近くに強い魔物が出るという話は聞いたことがない。そこまでの危険はないと思うがのう……」

 アルフレッドも少し考えているが実際行ってみないと分からない事も多い。
 
「そうですね。行方不明の捜索なら早めに行ったほうがいいし。とりあえずアイマール君に依頼してみますわ」

 ルイザは決断し”アルビオンの冒険者ギルド受理”と彫られた印を依頼書に押した。

「先にトスタ村の村長に、返事を送るわね」

 ルイザは小さな紙に、特殊なインクで文字を書き始めた。このインクは目的地へ到着すると文字が浮かび上がって来るという魔法の品物で、路地裏の妖しげな道具屋へ行けば普通に売られていた。

 返事を書き終えたルイザは、テーブルに置かれた木製の箱から小さな横笛を取り出すと、部屋の窓を開け放った。

 朝の清浄な空気が部屋に流れ込み、ルイザの髪を優しくかした。

 取り出した横笛を唇に当て静かに息を吹き込むと、人の耳には届かない不思議な音色が王都の空に響き渡った。   
       
 すると伝書カラスと呼ばれる特別な訓練を受けたカラスが、どこからともなく舞い降りてきてルイザの指に留まった。       

 「トスタ村まで頼むわね」

 そう言うとカラスの足の先に取り付けてある木の筒に、依頼の返事を書いたメモを丸めて詰めた。
         
 「カ~!」

 伝書カラスは一鳴きすると、北西の空へ飛び立った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ
ファンタジー
 間違った方向に高校デビューを果たしてしまい、みんなから、姫と崇められるようになってしまった朝霞(あさか)。  朝霞は実は、ゲームオタクなのだが。  眠るたび、まだやっていない乙女ゲームの世界に入り込むようになってしまう。  その夢の中では、高校の先輩で、朝霞とはあまり接点のないイケメン、十文字晴(じゅうもんじ はる)が、何故か王子様として登場するのだが。  朝霞が王子の呪いを解くと、王子は文句を言い出した。 「どうしてくれるっ。  お前が呪いを解いたせいで、お前を100年愛する呪いがかかってしまったじゃないかっ」 「いや~。  どうしてくれるって言ってる時点で、なんにもかかってないですよね~……?」 (「小説になろう」などにも掲載しています)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ
ファンタジー
始発電車で運命の恋が始まるかと思ったら、なぜか異世界に飛ばされました。 世界は甘くないし、状況は行き詰ってるし。自分自身も結構酷いことになってるんですけど。 それでも人生、生きてさえいればなんとかなる、らしい。 マッタリ行きたいのに行けない私と黒猫君の、ほぼ底辺からの異世界サバイバル・ライフ。 注)途中から黒猫君視点が増えます。 ----- 不定期更新中。 登場人物等はフッターから行けるブログページに収まっています。 100話程度、きりのいい場所ごとに「*」で始まるまとめ話を追加しました。 それではどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...