上 下
86 / 123

第八十六話 初めての実戦

しおりを挟む
「さて、剣も手に入れたし、今日の本番だね」

「はい!」

「頑張るのですわ!」

 僕の言葉にレオナとカタリナが気合いの入った表情で答えた。
 この辺はよく来ている場所。リアによるとゴブリンが湧きやすいらしい。目的はレオナとカタリナの実践。見たことある相手で弱い方が良いだろう、ということでゴブリンを探しに来たんだ。

「お、早速居たね」

 と、僕は一匹のゴブリンを見つけた。するとレオナが耳元で囁いた。
 
「ご主人様、わたしたちだけでやらせて貰えませんか?」

 チラリとカタリナに視線を送るとカタリナも頷いている。二人で話し合ってたみたいだった。

「うーん。二人ともやりたいみたいだね。ちょうどいいかもしれないし、いいよ。でも、危なくなったら、僕も手を出しちゃうからね?」

 その言葉にレオナとカタリナは頷く。

 僕たちは気づかれないように木の間を隠れ、ゴブリンの様子を見ながら風下へと移動しながら間合いを詰める。
 魔法の射程内になると、二人は僕の前に立つ。
 先程二人で話し合い、どのように立ち回るのか話していた。横で聞いていたけど、初手はカタリナ、倒せなかったらフォローにレオナが廻りつつ、魔法を使っていこうとの事だった。
 カタリナの右後方にレオナが立ち、二人で視線で合図を取る。
 準備出来たのか、二人ともゴブリンへと体勢を整える。

 カタリナは右手をゴブリンへと向け、言の葉を紡いだ。

火炎矢フレアアロー!」

 カタリナの右手の前に炎の矢が現れる。それは一瞬揺らめいた後にゴブリンを貫くべく動き出す。
 ゴブリンの死角から放たれた火炎矢フレアアローは、直撃し刹那、ゴブリンの悲鳴が上がる。ここからは、焦げた肌が見える。が、それだけだった。

「え? それだけですの?」

「カタリナちゃんの魔法が当たったのに! なんで倒せないの?」

 予想以上にダメージを与えられていない事に動揺するカタリナ。レオナも同じであった。
 二人に気づいたゴブリンは勢いよく二人に迫り来る。
 焦ったレオナは火炎矢フレアアローを放つが、直線的な動きはゴブリンに予測されかわされてしまう。
 カタリナも続けて、今度は氷結矢フリーズアローを放つ、こちらもかわされてしまった。

「あ、当たらない!」

「な、なんでですの!」

 二人は動揺しまくっている。魔法の範囲では無いほどゴブリンの接近を許してしまった二人には、もう魔法を唱える猶予など残されていなそうだった。

「キャー!」

「カタリナちゃん!」

 あと数歩で襲いかかられる、と思った二人は思っただろう。その瞬間だった。僕が動いたのは。するとゴブリンの下半身は上半身を忘れたまま、二人の元まで駆け抜け……倒れた。
 上半身は先程の場所でもがいている。
 自分が何をされたのか、ゴブリンは分からなかったのだろう。僕はそのまま剣を振り下ろし、ゴブリンを縦に割いた。

「ごめんね。もう危ないかな。と思って手を出しちゃった」

 そう僕は二人に謝ると、二人とも首を横に振って応えた。

「と、とんでもないですわ……助かりましたですわ……」

 カタリナは呆然とした様子で、ゴブリンの下半身を見つめている。

「こういう時でも無いと教えられないからね。危ない思いさせちゃったけど、ちょうど良かったかなって。二人もやってみたかったって話だったし」

「ちょうど良かったとはどういう意味ですの?」

 カタリナの問いに僕は問いで返した。

「んー。カタリナ、自分の魔法をどう思った?」

「ええと、まさかここまで弱いと思いませんでしたわ……」

 続けてレオナにも問いを投げる。

「レオナ、魔法当たった?」

「いえ、お恥ずかしながら……」

 二人に確認した僕は、再度二人に向けて語る。

「アマンダ先生も言ってたけど、後衛職だけじゃこうなるかなって例になるかもって思ってね。前衛との連携が大事だって分かった? あと、二人の魔法の威力の確認にもちょうど良かったってのも、勿論あるよ? だからちょうどいいかなって思ったの」

「確かに、想像以上に威力が無かったですわ。アマンダ先生にも褒められたのに。いつも御主神様アインスさまの魔法を見ていたものですから……」

「そうだね。でも、いい勉強になったでしょ?」

 頷く二人見て、僕も深く頷いた。

「剣も手に入った。これからは三人での連携力も高めないといけないし、慢心もしちゃダメって事。ちょうどアマンダ先生から前衛、後衛とか役割の話もあったし、今後はそこも考えて戦っていこう。ま、相手によるけどね」

「わかりました」

「かしこまりましたですわ」

 と、僕は二人に語ると、二人は真剣な眼差しで頷き返してくれるのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...