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第五十二話 地獄の始まり
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私はただ目を開けて眼前に広がる光景を眺めていた。そう、その光景について何も考える事はない。もうこの凄惨な光景には慣れてしまったので、ただ眺めていた。
私の眼前には二人の人物がほぼ裸のような姿で重なって横たわっている。私のお仕えてしていたアレックス様の奥様、ヒルダ様とお嬢様であるハンナ様。
もう奥様から、フレイ、と私の名を呼ばれることは無さそう……多分二人ともお亡くなりになってるわ。もう長い間、ピクリとも動いていないから……あれ? 長い間ってどれくらいだっけ? そういえば、時を考えること無かったわ……ううん、考えても無駄だもんね。こんな地獄じゃ……
いつからこの地獄が始まったのか、私はふと考えた。それを考える事はなんとか出来た。時を数えることを止めてしまった私には、どれくらい前の事か覚えてない。数日前のようにも感じるし、数年経ったようにも感じる。
アレックス様は行商をしていた。アレックス様とヒルダ様、ハンナ様とハンナ様のお兄様のビクトール坊ちゃんの四人で。私たちはアレックス様たちに拾われて一緒に旅をしていた。
そう、私は五人姉妹の長女なの。一つ下の齢に双子の姉妹、その下ともう一歳下に一人ずつ妹。この私の後ろで眠っている子たちがそう。私たちの本当の親も行商だった。ただ、野盗に襲われてその生涯を終えた。
荷馬車の底の隠し床の下に私たち姉妹は隠されたからか、助かったのだけれども。
その後、通りかかったアレックス様に拾われたのだ。私が七歳の時だった。
それから八年、一緒に居たのだけれども……
そのアレックス様も、私の親と同じように野盗に殺されてしまった。坊ちゃんのビクトール様も一緒に。
ビクトール様は剣の腕は確かであったが、今回の野盗に襲われた時、私が気がついた時には見るも無残な姿に変わっていた。
今回の行商は、出発が少し遅かった。多分そこが命の別れ目だったのだろう。いつもであればプルミエールにあるキリィの街を夜明けの頃に出発し、二回の夜営を行い、三回目の日が暮れるかどうかという頃には取引先の相手がいるソフィアの街には着いていた。
取引の相手はデイビットという名前の変な笑い声をする商人だった。いつもの事でなれてしまったのだろう。
しかし、今回は出発が昼頃になってしまった。より良い品物を仕入れようとしてしまったからなのはアレックス様のお手伝いをしていた私には分かる。ただ、出発が遅くなるという事は、当然到着も遅くなるということ。
二回の夜営を終え、三日目の事だ。
この日は夜営を行わず、そのまま街に向かっていた。夜明け前には着くはずだったから。
辺りも暗く、ただ、街の灯りが見え始めるくらいは街に近づいた時だった。
急に馬車が止まった事で私は目を覚ました。しばらくすると何か大きな二つの物が馬車の中に投げ込まれた。
アレックス様とビクトール様だった。生きているようだったけど、二人の胸にはナイフが突き刺さっていて血だらけになっていた。
そして私が悲鳴を上げる間もなく、二人の男が入ってきて、アレックス様とビクトール様の首を刎ねた。
辺りに血飛沫が飛び散る。
今考えると、馬車の中で仕留めたのは道に残る血の量を少なくする為だったのだと思う。
まるで地獄のような光景だとその時は思ったが、そんなことは無い。今思うとあの光景は一瞬だったし、まだマシだった。
その直後、その首を刎ねた刃をこちらに向けられた私は、やはり悲鳴を上げる事は許されなかった。
野盗はヒルダ様、ハンナ様、私、そして妹たちの合わせて七人いた女性の言葉と体の自由を縄で奪った後、馬車ごと移動を始めた。今考えるとこの時から既に時を考えることを止めていたように思える。
どれくらい移動したのかはわからない。でも、馬車が止まった事はわかった。すると中に入ってきた野盗の一人が全員へ降りるように指示したので、私たちは従った。馬は木に繋がっていて、ここからは徒歩のようだった。後ほど馬車の中の物を運び出すのだろう。その後、馬は売るか食べるのかするのかな、と私は思った。
先頭を歩く野盗に付いていくと洞穴が見えた。後ろはにはもう一人、野盗が見張っているので逃げられなかった。そもそも逃げても地の利は野盗にある。
逃げづらい山道、森の中、逃げるのに手間取っている間に殺されるだけだ。もう、私たち七人は自分達がどうなるか分かっていた。犯されるか売られるか殺されるか。あるいはそのいくつかを。でも、分かっていなかったこともある。それはここからが本当の地獄の始まりだったこと。
私の眼前には二人の人物がほぼ裸のような姿で重なって横たわっている。私のお仕えてしていたアレックス様の奥様、ヒルダ様とお嬢様であるハンナ様。
もう奥様から、フレイ、と私の名を呼ばれることは無さそう……多分二人ともお亡くなりになってるわ。もう長い間、ピクリとも動いていないから……あれ? 長い間ってどれくらいだっけ? そういえば、時を考えること無かったわ……ううん、考えても無駄だもんね。こんな地獄じゃ……
いつからこの地獄が始まったのか、私はふと考えた。それを考える事はなんとか出来た。時を数えることを止めてしまった私には、どれくらい前の事か覚えてない。数日前のようにも感じるし、数年経ったようにも感じる。
アレックス様は行商をしていた。アレックス様とヒルダ様、ハンナ様とハンナ様のお兄様のビクトール坊ちゃんの四人で。私たちはアレックス様たちに拾われて一緒に旅をしていた。
そう、私は五人姉妹の長女なの。一つ下の齢に双子の姉妹、その下ともう一歳下に一人ずつ妹。この私の後ろで眠っている子たちがそう。私たちの本当の親も行商だった。ただ、野盗に襲われてその生涯を終えた。
荷馬車の底の隠し床の下に私たち姉妹は隠されたからか、助かったのだけれども。
その後、通りかかったアレックス様に拾われたのだ。私が七歳の時だった。
それから八年、一緒に居たのだけれども……
そのアレックス様も、私の親と同じように野盗に殺されてしまった。坊ちゃんのビクトール様も一緒に。
ビクトール様は剣の腕は確かであったが、今回の野盗に襲われた時、私が気がついた時には見るも無残な姿に変わっていた。
今回の行商は、出発が少し遅かった。多分そこが命の別れ目だったのだろう。いつもであればプルミエールにあるキリィの街を夜明けの頃に出発し、二回の夜営を行い、三回目の日が暮れるかどうかという頃には取引先の相手がいるソフィアの街には着いていた。
取引の相手はデイビットという名前の変な笑い声をする商人だった。いつもの事でなれてしまったのだろう。
しかし、今回は出発が昼頃になってしまった。より良い品物を仕入れようとしてしまったからなのはアレックス様のお手伝いをしていた私には分かる。ただ、出発が遅くなるという事は、当然到着も遅くなるということ。
二回の夜営を終え、三日目の事だ。
この日は夜営を行わず、そのまま街に向かっていた。夜明け前には着くはずだったから。
辺りも暗く、ただ、街の灯りが見え始めるくらいは街に近づいた時だった。
急に馬車が止まった事で私は目を覚ました。しばらくすると何か大きな二つの物が馬車の中に投げ込まれた。
アレックス様とビクトール様だった。生きているようだったけど、二人の胸にはナイフが突き刺さっていて血だらけになっていた。
そして私が悲鳴を上げる間もなく、二人の男が入ってきて、アレックス様とビクトール様の首を刎ねた。
辺りに血飛沫が飛び散る。
今考えると、馬車の中で仕留めたのは道に残る血の量を少なくする為だったのだと思う。
まるで地獄のような光景だとその時は思ったが、そんなことは無い。今思うとあの光景は一瞬だったし、まだマシだった。
その直後、その首を刎ねた刃をこちらに向けられた私は、やはり悲鳴を上げる事は許されなかった。
野盗はヒルダ様、ハンナ様、私、そして妹たちの合わせて七人いた女性の言葉と体の自由を縄で奪った後、馬車ごと移動を始めた。今考えるとこの時から既に時を考えることを止めていたように思える。
どれくらい移動したのかはわからない。でも、馬車が止まった事はわかった。すると中に入ってきた野盗の一人が全員へ降りるように指示したので、私たちは従った。馬は木に繋がっていて、ここからは徒歩のようだった。後ほど馬車の中の物を運び出すのだろう。その後、馬は売るか食べるのかするのかな、と私は思った。
先頭を歩く野盗に付いていくと洞穴が見えた。後ろはにはもう一人、野盗が見張っているので逃げられなかった。そもそも逃げても地の利は野盗にある。
逃げづらい山道、森の中、逃げるのに手間取っている間に殺されるだけだ。もう、私たち七人は自分達がどうなるか分かっていた。犯されるか売られるか殺されるか。あるいはそのいくつかを。でも、分かっていなかったこともある。それはここからが本当の地獄の始まりだったこと。
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